繋がる空
24
属性随一の推進力を誇る大空の炎。それにより常人には目で追えぬ高速移動を可能にする綱吉は、アクマが放った銃弾が被弾する前に、少女を抱き抱えて離れた地面に着地した。その額には、橙色の炎が煌々と灯されている。
標的を無くした銃弾は地面を抉り、その向こうに悪運が強いのか無事に逃げ去っていく先程の男の姿があった。それを横目で確認し、綱吉は少女を建物の影に避難させた。
「怪我はないか」
「……――っ―?」
「?どうした」
「ううん、何でもないよ」
少女は笑った。
綱吉を見る目は、何かを懐かしむかのよう。違和感を覚えた綱吉が口を開こうとすれば、目の前にスッと少女の手が差し出された。その掌の上で輝くのは、紛れもなく、先程のイノセンスだ。
「これ、あげるよ」
「…ああ。ありがとう」
少女の手から、イノセンスを受け取る。そこでまた感じる違和感。しかし綱吉がそれを疑問に思う間もなく、路地で爆音が響いた。
「早く行かないと、あの子達死んじゃうんじゃない?」
「!ああ、分かっている。お前も早くここから離れろ」
「うん。助けてくれて、ありがとぉ」
――またね、ボンゴレの後継者。
少女が楽しげに呟いた事を、綱吉は知らない。
「やべええええ!!」
「ぎゃああああ!!」
アクマから放たれる無数の弾丸。一瞬、ほんの一瞬だけ綱吉に存在を忘れ去られた二人は、死ぬ気で走っていた。放心状態になっていたジェレミーを引き摺りながら、ジャンは唇を噛み締めた。 今、殺される訳にはいかない。だって、やっと見つけたイノセンスなのだ。
関わるな、と言われた。
あの日、自分の無力さを知った。
いまだって自分は無力だ。伯爵にとっては、ハエ以下の存在だろう。でも、だけど。この街で見つけた、あのイノセンスだけは、守りたい。
『人間、見〜っけ』
振り返れば、アクマ。
かつての親友の姿が脳裏をよぎった。
ドドドドドッ
「「――っ!?」」
銃弾は確かに放たれた。しかしいつまで立っても痛みはやって来ない。
恐る恐る顔を上げて、目を見張る。
「……無事か」
「つ…ツナヨシ…?」
静かに頷いた綱吉に、困惑した。先程までとまるで感じが違う。瞳の色は橙色に染まり、鋭くアクマを射抜いているし、手にはいつの間にかグローブを着けていた。そして何よりも目を惹かれるのは、その額と両拳に燃える、瞳と同色の炎。
『エクソシストでもないくせに、俺の銃弾を燃やしやがった。…お前、人間か?』
「ああ。――人間だ」
見透かすような瞳が、真っ直ぐにアクマを射抜く。その視線を受けて、アクマはたじろいだ。無意識のその反応に、動揺する。自分はただ見られただけだ。なのに何故、こんなにも感情が湧き立ちそうになっている?
祈るように伏せられた瞳が、再びアクマを射抜く。アクマは今度こそ完全に硬直した。呆然と見つめるその人間の拳に燃え上がったのは、透き通る様に輝く、橙色の炎。
それが終わりの合図だった。