02
さっきはさらっと流したが、カルラは私も始祖の血をわずかながら引いていると言っていた。親族の誰かに始祖が居ただなんて聞いたこともなかったが…。一人だけ心当たりがなくもない人がいる。
『私の母が始祖だったんですか?』
あの人の血は特別だった。普通同族の血なんてまずくて飲めたものではないというのに、母の血はいつも甘い匂いを放っていたのを覚えている。そして妹もまた母と同じ血のにおいをしている。
「知らなかったか。貴様の母親は始祖とヴァンパイアのハーフだ。」
つまり私はヴァンパイアと始祖のクォータという訳か。彼からしてみればほとんどないに等しいほどの薄い血だろうに、それに頼らねばならぬほどという事はカルラの始祖の生き残りは弟と自分だけというのは本当のようだ。2対2なら二人逃げることはできなくとも1人逃がすことくらいはできるはず。
目的の始祖の屋敷につくとそこは意外と簡素な所だった。いや、一般的に見れば簡素どころか豪華絢爛だが始祖様が住むには簡素、という意味だ。
家の中で待っていたのは、妹と眼帯に眼鏡をかけるという不思議なセンスの男だった。恐らく彼がカルラの言っていた弟だろう。妹は顔こそ膨れっ面だが特に乱暴されたようではないのでとりあえず一安心だ。
『アンナ!』
「アンジュ!」
『大丈夫?何かされてない?』
「何もされてないよ。それよりアンジュこそどこも怪我はない?」
『勿論!』
どうも話を聞いている限り、この兄弟は本当に子を成す器として妹と私を攫い、それ以外を求めていないようだ。なら、妹はこの兄弟の絶対条件を満たすことができなからもしかすると家に帰してやれるかもしれない。
『貴方達二人にお話があります。少しよろしいですか?』
「なんだ言ってみろ」
『妹だけは家に帰して頂けませんか』
「は?そんなことするわけないじゃん。アンタ達二人は大事な器なんだからさ」
『子を成す器が絶対条件なら、彼女はそれから外れています』
あまり声に出して言いたくない事実だが仕方がない。妹は幼少期にできた傷がもとで今妊娠できない体になってる。治療は進めていて完治の見込みはあるものの、そうなるにはまだまだ時間がかかる。
「我々は急いでいる。その女の体の完治まで待てん、貴様が次期王の器となれ。シンその女は客室にでも入れておけ」
「わかったよ兄さん。ほら、行くぞ」
「何すんのよ!痛いわ!自分で歩けるから引っ張らないで」
やはり、そうなるか。本当はすぐにでも逃がしてあげたいけど、妹は器としての価値がなくとも私をここに縛る枷にはなる。普通に考えれば妹を逃がすより捉えて私の弱みを握れば私が懐柔しやすくなる。
物事すべてが順調にいくことなどありえない。できる範囲の中で私は最善を尽くしたと、自分を納得させるしかなかった。
『人質をとらなくても私は逃げませんよ。あの子を家に帰してあげてください』
「奴を家に帰すより、ここに拘束させた方がメリットが多い。」
『彼女には恋人がいるんです。きっと彼はここに妹が居ると知ったら襲撃して妹を連れ去りますよ。勿論そんなきっかけがあれば私も逃げます。それなら大人しく妹を帰らせて私だけをここにの殺せた方が得策では』
「くどい。決めるのは私だ。大体私が半端者のヴァンパイアなどに負けると?笑止」
『…そこまでご存じなのですね』
妹の恋人までわかっているという事はおそらくこちらの情報などほとんど筒抜けだろう。
二人だけの空間に響く秒針の進む音が時間の経過を体感させ、何とも言えぬ気まずさが部屋全体を包む。カルラの風格に気圧された私はこれ以上意見をいう事が出来なかった。
「来い。部屋へ案内してやる」
ダークフェイト
(私達に幸運は訪れない)
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