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6:呪えよ、ほら
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粗末な表現、まるで糸が切れたように、なんて…粗末な表現。内側にある大事なものを何者かに揺さぶられているかのように肩は震え始めた、それが最初。銃口がぶれないように狙いがぶれないように前へ伸ばしていた腕は肩につられて揺れだして、無意識に治まれ収まれと自らを抱き締める。銃は自分の手を離れた瞬間に無力化する。塊が醜い音を立てて地面のお飾りに成った。口は寒くもない上に発す言葉も無いというのにぶるぶると落ち着きが無く、歯はかちかちと喧しく忙しない。何故か持ち上がる唇が押し上げる頬の肉は重く感じられた。目は見開いて塵と埃を甘んじて受け入れている、そのせいなのか、涙が止まらずついでに鼻水も止まらない。しかし手は震えたままの肩を慰めるのに忙しいので僕の顔面は濡れたままだ。髪の毛は逆立ちそうで、そして今にも抜け落ちそう。ああ、そんなものなのかな。真っ直ぐに立たせていた支えさせていた足は膝は折れて白肌に痣が浮かぶのも構わず膝をコンクリートに遠慮無く打ち、少しの間を置いて、やっと震えた。胃が縮み上がっているのではないかと思ってしまう程の吐瀉物の込み上げる感覚、上がってくる酸っぱい胃液に頭がくらくらして、だらしなく唾液を溢す。心臓が、きゅっ、と、した。「くら゛、く、ら、…あ゛…」一時間前より銃弾の三つ少ない拳銃、が、僕を見ている。その僕は、死んだ筈の蔵ノ助さんを見ている。「く」僕は、殺した筈の蔵ノ助さんに、魅入る。「ぐら゛の゛ずげざん゛ッーーーッッ!」空気の抜けた風船のようだった血管が、一気に破裂してしまいそうなくらいに膨張して、身体中が熱くて、熱くて、熱くて、しんでしまいそう。「どうしたよエージェント、愉快な顔をしやがって」「泣き虫は直せって言ったろ、大の男がみっともねェ」この死体未遂の体はこの脳味噌は今すぐあなたの感触が欲しくて堪らない、腕を伸ばす。棒きれにも劣る、細い腕。「あ、あい、愛しています、心の底から」触れた瞬間にどろりと溶ける、これはなんだ、これはなんだこれはなんだこれはなんだこれはなんだこれはなんだこれはなんだきたないこれはなんだくさいこれはなんだこれはなんだこれはなんだこれはなんだこれはなんだこれはあなたかこれはなんだこれはなんだこれはなんだこれはあなたかこれはあなたかこれはあなたかこれはあなたかこれはあなたなのかこれはあなたなのかこれはなんなのだこれはあなたかこれはなんだくさいこれはなんだこれはなんだこれはなんだこれはなんだこれはなんだこれはなんだこれはなんだきたないこれはあなたかこれはあなたなのかこんなものがあなたなのかくさいこんなものがこんなものがこんなものがこんなものがこんなものがこんなものがこんなものがこんなものがこんなものがこんなものがこんなものが、こんな、ものがーーー?「蔵ノ助さん」とっくに冷たい肉は腐り始めていて、掌のものが薄気味悪くて小さな悲鳴と共に壁へ投げつけた。もうすぐ腹を空かせた烏や鼠が肉と骨を食みに来るだろう。なまぐさい血の匂いは辺りに充満していて、気分の良いものではない。この世界に姿を見せた、死。「やっぱり僕はあなたの為には死ねない男だったんだ」落ちていた僕の拳銃を在るべき場所へ戻してから去ろうとして、ふ、と掠めた思考に促されるまま蔵ノ助さんの刀を拾う。厭に冷静な頭でも、それが何故なのかはわからなかった。「、さようなら」路地裏に点在する生ゴミや這い回るゴキブリを踏まないように気を付けて、空っぽになった心と体と頭を動かして光のある方へと足を向けた。死。







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