パステルリボン
「んー…まだ眠いなー…」
「こんな時間に起きてきといてまだ眠いとか、どれだけ寝るつもりなの?」
「!?」
長期休暇の特権である朝寝坊をして、誰もいないはずのリビングに下りるとそこには何故か見知った顔の幼なじみがいた。
その幼なじみは全寮制の学校に通っているから、実家にはいないはずなのだ。だから今私の家にいるのもおかしい。
びっくりして、何も言えずにただ梓を指差して何故ここにいるのかを目で問うと、笑われてしまった。
「せっかくの長期休暇なんだから帰省くらいしてもいいでしょ?」
「れ、連絡とか、くれなかった!」
「あー、言ってなかった?」
「聞いてない!」
「ごめんってば。まぁ、久々に寝起きのなまえも見れたし。僕的にはよかったかな?」
「!!」
帰ってくることを教えてもらえなかったことにギャンギャン抗議していたけど、梓に言われてハッとした。
梓に言われた通りに今の私は完全寝起きスタイルで、髪はボサボサだし、服は可愛くないパジャマだし、起きたばっかりだから顔もきっと変だ。
いくら幼なじみだからとは言っても、仮にも女の子だ。しかも相手が恋人ともなれば、こんな姿を曝すのは完全にNG。
なかなか会えない恋人の前でくらい、ちょっとでも可愛い姿でいたかったのにこれはなんて仕打ちなんだろう。
ニヤリと笑う梓を尻目に私は、急いで洗面所で洗面をして、部屋に身支度をしに駆け上がった。
「本当、一言くらい言ってくれたって…!」
「なまえが起きてくるまで大人しく待ってただけでも誉めて欲しいな。」
「ひぃっ!また、勝手に!」
「僕の前で可愛くなろうとしてくれてるのは嬉しいけど、もう時間切れ。」
「うわ、待って!まだ着替えの途中だから!」
「だーめ。」
ぼやきながらクローゼットを漁っていると、私が知らない間についてきていたらしい梓が、またもや返事をしたのに驚いて私は思わず飛び退いた。
女の子の部屋に勝手に入るのはどうかと思うけど、すでに入られてしまった今は何を言っても仕方がない。
部屋がそれなりに片付いていたことに安堵しつつ、まだ着替えの途中なので梓を部屋の外に追い出そうとしたら、腕をぱしっと捕まれる。
そしてそのまま引き寄せられてしまえば、動きに逆らえず、私は大人しく梓の腕の中に収まるしかなかった。
「今の私…可愛くないのに…」
「ばか。僕の彼女なんだから可愛くないわけないだろ。」
「うー…」
久々に梓のぬくもりを感じて、照れ隠しに文句を言ってみてもさらりと恥ずかしいセリフで返されてしまった。
嬉しさと恥ずかしさを込めて、ぎゅーっと腕に力を入れてみれば梓も同じくらいに強く抱きしめ返してくれる。
梓の胸に顔を埋めてすうっと息を吸い込むと、梓の香りに包まれて全身が梓で満たされていくのがわかった。じわじわと自分に欠けていた梓成分を吸収して、充電していく。
「……おかえり。」
「ん、ただいま。」
顔を上げれば、優しく微笑む梓と目が合う。そして私達はそのまま吸い寄せられるように唇を重ねた。
―僕は君が好き、それで十分でしょう?(会えなかった分だけ君を充電させて。)
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『天雪』の慶さんから頂きました!
天雪のバレンタイン企画の時のですね。
幼なじみ梓まじいいわあ。もぐもぐ