華麗なる獣の復讐も兼ねた傍観生活 | ナノ


▼ vengeance:00

 ねぇ、転生って、信じる?
 って言われたら、みんななんて答える?
 ちなみに私は「物語上のことなら信じる」って答えるよ。
 だって私、体験したことないことを信じる、なんて簡単にいえない人間なんだ。
 別名小心者ともいうんだけど、それはおいておいて。
 で、まあ、物語上の事ならって思ったんだけどさ、本当に人間って何が起こるかわからないねぇ。
 いやさ、私じゃさすがに天国いけねーや、とは思ってたけど、いきなり転生って、っうぇ、っうぇ、みたいな?
 人類の夢ある若者じゃなくても誰かが一度は考える転生。また人間に生まれ変わったらこんなことを、なんてみんな多分いっかいは考える、と思う。
 でもさすがに本当にあるとは思えないんだよね。だって人間死んだら大地に還るのが定説じゃない。
 とにかく、うん、混乱してます。



 それはさ、あのさ、私は確かにできた人間じゃなかったよ?
 でもそれはそれは平凡な人生だったとだけは言っておこう。
 そりゃまあ、人助けなんて高尚なことをしたことなんてほんの一握りだと思うよ。だって他人とかかわるの苦手だったもん。
 つーかクラスメイトが話す「今日はこんなことをしたよ」的な武勇伝風人助けって本当にやってるのか疑わしいよね。
 え、君さっきクレープ屋で小学生にぶつかって何もしなかったよね? って思う子いたし。
 私のキャラクター上言えないけどね。うん、キャラクターって大事。
 そもそも人助けをすることを誇るのもいいとおもうけど、そんな武勇伝風に語ってさぁ。しかも「してやった」とか「してあげた」っていう言い方だからね。
 なんて上から目線、って思ったのは私だけじゃないはず。だって左隣の高橋さん「うわ、嘘くさ」って呟てたもん。聞こえたよ。
 私が隣にいることに気付いて、慌てて苦笑いを浮かべたけど。大丈夫、大丈夫だよ高橋さん。告げ口とかしないから。
 できだけ柔らかく笑顔を浮かべる。高橋さんがほっとしたような顔を浮かべたので、笑顔の理由もわかったかな。
 ねぇねぇと声を掛けてきたクラスのリーダーグループの子に生返事を返して、鳴り響くチャイムで着席した。

「お前らー、転校生きたぞー」
「転校生とか何それ初めて聞いたんだけどー!」
「おう、初めていったからな」
「タカティンふざけんなよ」
「タカティン呼ぶのやめろっつったろ!!」

 正直それは私も初耳でしたー。
 転校生とか何それ今頃? 入学式終わってからまだ一週間なんですけど、と言いたい口をチャックして取り合えず笑う。
 笑顔って本当に便利だね! 自分隠すのにすごく便利です。
 取りえず押し付けられるだろう世話係を甘んじて請け負う。教師ポイントが高い方が進学しやすいからね。
 イケメンと名高い我ら1年A組の担任の横、まったくもって慣れてないだろう不自然な笑みを浮かべる転入生。
 あれってうまく笑顔を浮かべられてる思ってるんだろうか。明らか不自然だしひきつってるんだけど。
 しかもその眼が「私可愛いでしょう?」というのを物語ってるから、ってまあ、私の目線からなんだけど、リーダーグループの女子たちの視線が厳しくなってるよ。

「珠城(たまき)、転入生がなれるまではお前が世話してやれ」
「……わかりまし―――」
「はじめましてっ! あたし、姫島(ひめじま)愛美(あみ)ってうの! あなたのなまえは?」
「た。はじめまして。珠城(たまき)唄(うた)ともうしま―――」
「うたちゃんっていうんだ! よろしくね」
「す。……ああ、はい、どう―――」
「ね、後で学校案内してほしいんだけど!」
「も。いいで―――」
「いいよね! ありがとー!!」
「すよ」

 何この子いちいち遮ってくる!
 っていうかコレ、私の話聞いてないんじゃないかな。だって返事する前に決めてるんだもの。
 そもそも初対面で名前呼びって、敬語なしって、当たり前なのかな? 私は少なくとも最初は敬語かつ苗字呼びだと思ってたよ!
 ほら言うじゃない? 親しき中にも礼儀ありって。いやまだ親しき中じゃないけど。
 あといちいち近い。手すごい強さで握られてるんだけど。何この子マジ怪力。
 ごめんそれ以上強く握らないで痕になる。

「おー、仲良くなったのは別にいいが、さっさと座れよー。じゃあ珠城、山田のこと頼んだぞー」
「山田?」

 山田って誰ですか、と言おうと思ったら姫島さんか。姫島さんですか。
 どゆこと? って思って姫島さん見たらなんか怖い目で「違いますよー、姫島です」って言ってた何この子怖い。

「やだなー先生。私の苗字は山田じゃなくて姫島ですってば! もー、間違えないでよ」
「あー? いやでも、書類には」
「間違いじゃないの? とにかく! 姫島なんで、みなさんよろしくおねがいしまーすっ!」

 彼女は明らかに可笑しいだろ、という目をする先生を押し切って自己紹介を始めた。
 元気っ子よろしく大きく手を上げてお辞儀する。でもごめん、笑顔が拙いっていうか笑いなれてない顔ですよ。
 笑いなれてないっていうよりは、素人目でもわかる明らかな下心というか、なんというか。いや私の目が汚れているからかもしれないけど。
 少しわざとらしい、俗にいうぶりっ子っぽいのがやはり女子たちは気に入らないのか、さっきから彼女を見る目が険しい。
 左隣の高橋さんが「駄目だ友達になれない」って呟いてたよ。あのフレンドリーで有名な高橋さんが匙を投げたよ。
 ちくせう、助けてもらおうと思ってたのに。どうすればいいっていうんだ!
 にこにこ、というよりはにやにや、に近い程不器用な笑顔の姫島さん。
 思えばこの時から運命が変わったような気がする、というか確実に彼女が原因だと言ってもいい。
 まさかあんなことになるなんて誰が思うんだろう。


 まさか、まさか、16歳という若さで華麗なる女子高生ライフが終わるだなんて。
 しかもなくなって早々に転生するなんて。

 なにに転生したかって? え、獣。


 

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