華麗なる獣の復讐も兼ねた傍観生活 | ナノ


▼ vengeance:target Gold 01

 


 真っ赤な葉っぱ。空は恐ろしいくらいの晴天。
 風は涼しく吹いて、上着が一枚欲しいかな、って思う時期。
 ハロウィーンが終わって詰まらなくなってくるその日。
 そう、特にイベントのない11月になりました。

「うた、準備できた?」
「わんっ」

 できたよ、優子さん。
 真っ白なブラウスの袖を直しながら、出発準備を終えた優子さんに元気よく返事をした。
 肌寒さが増した、というか、気温が急激に下がってきた11月は、ブラウスの下に一枚シャツを着なきゃ寒くて仕方ない。私は毛並みのおかげで寒くないけど、優子さんは黒いシャツを一枚着てからブラウスを着ていた。
 リボンとネクタイどちらかを選べるうちの学校では、8:2の割合で女子はリボン。ネクタイは少なくて、ほとんどが男子だ。余談だけど、男子もリボンかネクタイが選べたり。
 スクールバックを手にした優子さんは、いつものあのケースの前を開けると指をさした。私はそこに向かって歩きだしながら、そう言えば11月って何かあったかな、と首を傾げる。
 いきなりイベントごとが増えたうちの学校は、この11月にもありえないほど増えたらしいから、去年とは違うことが多くなっているだろう。
 何が追加されて、何が無くなってしまったんだろう。寮室をでた優子さんの、緩やかなリズムに身を任せながら伏せた。
 あ、そういえば体育祭始まるや。



「行ってくるね、うた」
「わんっ」

 いってらっしゃい、優子さん。
 手を振る優子さんに、前足の代わりに尻尾を振った。優子さんが笑う気配がして、こっちまで笑顔がこぼれてくる。
 優子さんの姿が見えなくなってから、私は白狼父おとうさんや兄さんたちに会いに行くために歩き始めた。
 実はここ最近、歩くのも走るのもスムーズにできるようになった。たぶん、私が白狼の身体に慣れ始めたからだと思うけど、身体が前よりも楽になったのが嬉しい。
 くすんだ緑色の芝生を軽快に歩けば、有頂天になってたのがいけなかったのかな?
 落ちていた小枝に引っかかって転んでしまった。

「っわぅ」

 転んだ勢いでコロコロと転がっていく。少し冷たい芝生の上は、もう冬の訪れを感じさせてくれた。
 コロ、コロコロ、と勢いのまま進んでいく私は、途中で大きな木にぶつかってしまった。
 っあー、痛かった。っていうか、なんでこうも転んじゃうんだろうなぁ。歩けるようになった、って喜んだ途端のこの仕打ち。
 神様は絶対に私のことが嫌いなんだろうな。こんなときくらい、何も起きずに喜ばせてほしいよ。
 木にぶつかったことで止まった私は、お腹に力を入れて勢いよく起き上がった。その勢いでお腹を芝生に強打しちゃったわけだけど、うん。もう何も言わない。
 そのままゴロゴロしながら、この10月いろいろあったなぁ、と思い返す。
 11月になった今月は、もう木のほとんどは紅葉で、綺麗に化粧が施されたその姿は圧巻だ。木々の多い学園ならではだろうけど、春でも夏でも秋でも、いつみても綺麗なんだからすごいよね。
 芝生は年中あるけど、それでも秋だってことで、夏ほど瑞々しくもなければ新緑色も失せている。
 ちょこっと視線をあげると、真っ赤に染まった木と、いまだ染まりきらない緑色が同時に見えた。そのふたつの色を見て、頭の中はある2人を思い浮かべる。
 ひとりは、短く切り揃えられた髪の色は黒で、その目の色は厚みのある深緑色。目を細める笑い方が、何よりも穏やかなひと。
 もうひとりは、少しクセのついたハニーブラウンの髪に甘いオレンジ色の目。太陽を背負ったかのような笑い方が何よりも輝いていたひと。
 優子さんを泣かせてたけど、でも最終的には優子さんを守ると宣言してくれたひとたち。一時の何かに惑わされていたような、ほの暗い何かを背負っていた最初と、まるで憑き物が落ちたかのような晴れやかな顔。
 その二つの表情が私の脳裏をよぎって、切れるように消えた。
 詳しいことはよく知らない。いつだって、私は傍にいて、でも傍観者だから。傍観っていうのは、関わらずに物事が進んでいくのを見ているだけのこと。
 そう宣言した手前っていうのもあるけど、なにより私が白狼イヌだからっていうのもあるのかな。同級生だったから、ウェブ小説に良くある書き込まれっていうのが起きたかもしれないけど、今は獣だからね。
 それ以前に、きっと人間のままだったらこんなことにはならなかったんだろう。何もされない限り、私の日々を過ごすだけだから。
 復讐を始めたのもなんだかんだで自分が殺されたからだしね。
 どこまでも不器用な笑顔を浮かべる、あの日の彼女の姿が思い浮かんだ。慣れきっていない、とても下手な笑い方。
 いや、笑い方に下手もうまいもないのかもしれない。ただ、作り笑いにおいては下手もうまいもあるよね。
 だって作り物だから。できれば下心はほんの少しは隠してほしかったかな。
 私を突き落とした彼女の、最後に見せた本当の表情も思い出して、忘れるようにゴロゴロと転がった。


「ワゥーンッ!!」
「……わぅ?」

 芝生の上に大の字になりながら、まったくついてないし、思い出したくないものまで思い出しちゃったとため息、したら、遠くから大きな鳴き声が聞こえた。
 いまだに声の区別がつかない私だけど、声の大きさとかでわけている。これはたぶん、弦ゆづる兄さんだ。
 だって、こんなに大きな鳴き声をする白狼なんて、弦兄さんくらいだから。譜つぐ兄さんは低く鳴くけどここまで大きな鳴き声は聞いたことないし、律りつ兄さんもないなぁ。
 一番下の兄さんも、たぶんない。というか、そもそも一番下の兄さんが鳴いているところをあまり見たことが無い。小さな声で鳴いているのは聞いたことがあるんだけどね。
 でもまあ、本当に弦兄さんかはわからない。意志疎通ができるなら固有の声ぐらいあると思うんだけどな。本当、なんで疎通ができないんだろ。
 不自由だな、と思いつつ耳を澄ました。駆け抜けるような足音が耳に届いたころには、大の字から立ち上がって身体を震わせた。
 ついていた芝生が落ちたのを確認してから、弦兄さーん、と後ろを振り返った瞬間 ―――

「わぅぁ!?」
「……ワゥ」

 黒。一面何処をどう見ても黒一色。
 なにこれ、と人間だったら確実に呟いていたくらいの黒。
 柔らかな日の光を浴びてもなお、どこをどう見ても黒にしか見えない。なにこれ壁? 壁なの? と思っていると、聞こえた鳴き声に顔を上げた。
 黒色の次は金色だった。金色っていうか、金色に近いハチミツ色の丸い玉がふたつ。
 凛々しいその二つの玉は、黒色の壁の目だった。その玉の上には、ふたつの黒い壁がさらに立っている。それをぴくぴくと動かしながら、黒い壁は二対の玉を近寄らせながら、私を押し倒した。
 ふわっ、とした黒い壁。ううん、壁じゃなくて毛並みだった。黒い、ふさふさの毛並み。金色の二対の玉は瞳で、ふたつの壁は耳。
 あの鳴き声の正体は、弦兄さんでも、ましてや他の兄さんたちでもなくって、真っ黒なイヌだった。

「グルァ」

 その鳴き声と共に開かれた口は大きく、真っ赤な舌と、それとは反対に真っ白な牙が同時に覗いた。
 喉の奥が閉まった気がした。その鳴き声は、何かを聴いているような気がしていたけど、だけどしまった声が、できない疎通が、私に返事をすることを許さない。
 二対の瞳が私を静かに射抜いた。それをすべてを見透かしたような、知っているような、そんな瞳だった。
 どうしよう。呟いた声は胸のなかで、実際に声になることもなかった。ただ、どうしようと、どうすればいいのかと、不安が募っていく。
 今の私の状態といえば、この真っ黒なイヌに押し倒されて乗っかられている、という少女漫画も真っ青なシチュエーション。
 いやまあ私とこの真っ黒なイヌが人間だったら、だけども。
 じーっと見つめ合うと、真っ黒なイヌが舌をべロリとだした。食べられるのか、ってビクリと震えれば、お尻、っていうか尻尾に鼻を近づけられて、からの、首筋から耳の裏へと舌で舐め上げられた。
 毛繕いとしてなら何度か舐められたことはあるけど、まったく知りもしない人物、いやイヌに舐め上げられるとは思わなかった。
 そのあまりの衝撃にフリーズしてしまう。私がフリーズしている間も、何度も耳の裏を舐められて、底の毛並みだけビショビショになるまで、耳の裏を舐められた。
 ど、どうすればいいの!? と、戸惑っていれば、何を思ったのか真っ黒なイヌが私を覆い隠すようにくるまった。
 サイズは白狼父おとうさん以下弦兄さん以上ってところで、大きな個体の真っ黒なイヌにつつまれれば、もはや逃げるのは至難の業だ。
 何もできないままくったりしていると、また耳の裏を舐められたり、顔中をひたすら舐められた。ああ、こんな時は人間じゃなくてよかったなぁ、って思うよ。
 だって、これで人間だったら、手首にがっちり手錠が嵌められてるところ、だからね。

「……きゅー」
「ガゥ?」

 なんとか鳴き声を出して、離してほしいと必死に祈った。
 恐怖心はもう薄れた。恐怖心っていうよりは、大きなものに包まれるという驚きと、どうすればいいのかわからないという戸惑いが大きくて、つまり困惑でいっぱいいっぱい。
 とにかくまずは離してもらって、白狼父おとうさんを呼んでもらいたい。
 といっても、他の兄さんたちでも意思疎通ができないんだから、見ず知らずの真っ黒なイヌと意思の疎通ができるなんて思っていない。
 力なくペシリ、と真っ黒なイヌの前足をたたいたら、何故か逆に喜ばれた。解せぬ。
 構ってもらえた、と思ったのか、そのあとどんなに動いても暴れても喜ばれ続けた。本当に解せぬ。
 そんななか、悟りを開きそうになっていた私の耳に、兄さんたちでもなく、また他の誰のでもない、人間の足音が耳に届いた。
 その足音はだんだんと近づいてきて、やがて止まった。

「――― しょう! いきなり走り出すからなんだと思えば、こんなところに居たのか!」
「ワォンッ」

 それは滑らかで、するりと耳に届く声だった。
 声変わりはとうの昔に終わった、といわんばかりのバリトンボイスは、学園長のでも、ましてや低くイイ声だといった宇緑書記や燈下委員長の者でもなく、どこか聞き覚えのある様なそんな声。
 近くできいたわけでもなく、ましてやテレビの奥のひとなわけでもなく、そう、宇緑書記と同じだ。檀上でよく聞いた ―――

「まったく、ここは白狼の所有地だぞ? 完璧不法侵入じゃないか。風紀委員として常日頃、風紀を乱すなといっておいて、これでは俺が風紀を乱しているも同然だろう。他に生徒がいなかったからいいものの……」
「フンッ」
「鼻で笑うな! ……お前な、いくら武道優秀者を選ぶ武道の種族だからといって、ここがどういう処か解らないほど馬鹿ではないだろう。白狼やその長がいたなら、今頃無事ではいられないんだぞ」
「ワンッ」
「倒せばいい、じゃないんだこの脳筋。っはー、もういい。パートナーとしての話はあとだあと。ひとまずここを去るぞ。早くしなければ白狼やそのパートナーが来てしまうかもしれん。さぁ、って、やだ? 我儘言うな。ほら、しょう!」

 【風紀委員】【武道優秀者を選ぶ武道の種族】【パートナーとして】
 真っ黒なイヌの毛越しに聞こえたその声は、やっぱり壇上でよく聞いていた声に違いなかった。
 風紀委員で、バリトンボイスで、何かのパートナーである人物。それはかなり限られていて、多くの珍しい動物が住むこの学園でも数人。
 白狼のパートナーもその限られた数人で、あれ、他にパートナーを持てる種族なんていたっけ。ううん、白狼に、真っ黒いイヌ?

「立、て! っく、お前生後5か月ちょっとなのに重いぞ、しょう。こら、愚図るな。後でジャーキーを持ってきてやるから、な? ……そーれっ!」
「グル……ッ」
「ぅうっ!?」

 真っ黒いイヌ、という単語を頭の中で繰り返していると、私を包んでいた暖かい毛並が無くなって、冷たい風が私の毛並みを撫で上げた。
 暗かった視界も明るくなり、くすんで灰色のかかった芝生もよく見えた。
 急に無くなった毛並みの暖かさと、遊ぶような冷たい風、そして刺すような視線に丸めていた身体を起こして、転んだ。

「は、はく、白狼の仔!? っば、しょ、ばッ!?」
「グオンッ」
「っわうぅ!?」

 また大の字になって、その状態から見上げた空は真っ青。ちょっと灰色っぽい雲が泳いでいる、それだけの空。
 そんな空から視線を少しだけ下げれば、目の前に映った淡い金髪・ペール・ブロンドの髪がサラサラと揺れていた。
 灰色っぽい雲に隠れて、ほんの少ししか射さない陽の中でも、だけどキラキラしているその髪の毛。そして、そんな髪の毛と同色の眉に、凛々しく吊り上がった目の色は、深い黒色だった。
 いや、よく見れば黒色じゃなくて、濃い青色なんだけど、キラキラしてる金色の髪とはあまりにもアンバランスだったから、暗いその色が黒に見えたのかもしれない。
 顔をあげてじっと見つめる私に、その髪と瞳の持ち主は驚いたように大きく目を見開くと、口をぱくぱくと動かした。
 北欧系の顔立ちが、驚いたように歪められる姿はなかなか圧巻で、だけどそれでも全然格好いいんだから、イケメンっていうのが得だなってつくづく思う。
 今目の前にいる人物と、さっきの声に台詞を合わせる。考えていた人物で間違いなかったことに、色々恐ろしくなってしまった。
 何故かって? 目の前にいる人物も、私の狙っている人物だったから。

 ――― 金城かなしろ調しらべ風紀委員長

 こうも望んだとおりの人物に出逢うと、もう空恐ろしいというか、なんとも運が良すぎるというか。
 まるでこれから今までの分のしっぺ返しが来るんじゃないかって考えてしまうくらい、順調だ。
 ……神よ、私のことが嫌いなんじゃなかったんですか。
 思わずそう聞きたくなるくらい、ほんと、上手く行ってる。

「お、おまっ、お前、今まで白狼の仔を押さえつけていたのかッ!?」
「グルルァ」
「は、いちゃつ、いや理由はどうだっていい! いや実は良くないんだが、白狼の仔を押させつけていたという結論が重要だ。ああああ、どう言い訳すれば、いや言い訳などするべきではないな。ここは正直に説明して……―――」

 ブツブツと呟きながら何やら考えている彼は、本当に善人というか、正直者だと思う。
 私はどこも怪我してないし、疎通もできないし、周りには誰もいないんだよ? そのまま逃げてしまえばなんのお咎めもないし、私だって言うつもりはないし。
 なのに彼は、まるで初めからそんな選択肢はないみたいに、とにかくどう説明するかを真剣に考えている。
 本当に、壇上で見る姿と変わらずに、まっすぐで正直で、曲がらないひとだな。
 壇上で見かける彼は、金城先輩は、いつも背筋をぴんとまっすぐに、ネクタイだってよれることはないし、制服には皺なんてもちろんない。
 サラサラとした髪を揺らしながら、その前に並ぶ生徒たちをまっすぐと見つめてマイクを握る。その口から出る声は落ち着いていて、響く言葉はいつも誠実だった。
 風紀を愛し、学園を愛し、生徒を愛し、何よりも守ろうとするひと。
 彼に対する生前の私の印象は、まさしくそれだった。彼女の所為で混乱した学園のなかでも、彼は自分の信念を曲げることなく、混乱する学園を戻そうと必死だった。
 疲労に眉を顰め、日に日に濃くなっていく目の下の隈を隠し、ボロボロの身体に鞭を打っていたひとは今、学園がボロボロになる以前の元気な姿を見せていた。
 彼の足もとで寝転がりながら、それでも私をジッと見つめている真っ黒なイヌ ――― 黒狼は、こっちに来いとでも言いたげに、ひたすら私を見つめている。
 白狼の事ばかりに気を取られていて、他の生物のことをすっかり忘れていた。成績優秀者のほかに、この学園にはもう一つの優秀者枠がある。
 それが”武道優秀者”だ。体育特待生や、他の体育、武術、武道などの優秀者が選ばれ、成績特待生と同じように特権が与えられる。
 幹部委員にも選ばれ、大体が体力や力仕事が必要な委員のトップに立っている。目の前にいる彼もまた、中等部時代からの武道優秀者の一人だったことを、ついさっきまで忘れていたんだ。
 そして寝転ぶ真っ黒なイヌ、白狼とは反対の武道をつかさどる突然変異、黒狼の存在も。

「――― よし謝ろう。土下座でもなんでもだ。今回はお前が悪かったのだから、お前も謝るんだぞ。っと、その前に、ここに居たら事態が重くなりそうだから、とりあえず中立地帯へと移動するぞ。白狼の仔、貴方もついてきてもらっても構わないか」
「わんっ」

 結論を下したらしい彼は、わざわざ私の視線に合わせて蹲り、私が了承するとホッと息を吐いた。
 そして寝転んでいる私の姿を見ると、申し訳なさそうに眉を垂らすと、私の方へと手を伸ばす。

「事は一刻を争うからな。申し訳ないが、抱き上げてもいいだろうか」

 私の小さな前足と後ろ足、そしてさっきの見事な転びっぷりを見たんだろう。
 長身の彼と、大きな個体の黒狼について行くのは至難の業、だと思ったんだ。差し出された手に前足を片方だけ乗せた。
 了承の意味で乗せた前足を、彼は一度撫でると芝生の上に降ろした。そして私の腹回りに手を伸ばすと、落ちないようにその腕にしっかりと抱きかかえた。
 ……悪かったですね、なんだか落ちそうで。聞こえてますよ、先輩。

「さぁ、急ごう」
「わぅ」
「ワンッ」

 しっかりと腕に抱かれているから、まったく揺れを感じない。
 だけど見える世界は素早く進んで、私の毛並みを撫でつける風もまた、突風のようだった。
 すぐ近くだからか、彼のサラサラとした金髪が見える。北欧系のハーフらしい彼の、堀の深い顔もすぐ近くにあった。
 いつも前を見つめているその目は、時々心配そうに私を覗き込むと、もう一度前へと移して走っていく。揺れてキラキラするペール・ブロンドは、壇上から見るよりももっともっと綺麗に見えた。

「うた?」

 白狼の縄張りから、黒狼と白狼の中立地帯、つまり他の生徒も行き来する噴水回りまでついたとき、その声は柔らかに響いた。
 ぐ、と彼の身体が固まって、ギギギ、と身体がその声の方を向いた。

「なんで、え?」

 それは今朝別れたばかりの、戸惑いに首を傾げた優子さんだった。

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