華麗なる獣の復讐も兼ねた傍観生活 | ナノ


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なんで、って、疑問に思った。
 なんで、どうして私なんだろうって、そう考えて、悩んで、泣いた。
 あそこで死んだことも悔しかった。
 でも一番悔しかったのは、人間じゃなかったこと。
 人間のほうがマシだった。人間だった伝えられた。
 でも今は何も伝えることはできない。
 短い前足を伸ばしたって、好きな人を抱きしめることもできない。
 どう鳴いたって、好きな人に気持ちを伝えることはできない。
 いくら追いかけたって、隣に並び立つことはできない。
 悔しいよ。凄く悔しい。
 あそこで死んで、後悔だったり未練がないなんて嘘にだ。
 未練はある。後悔もある。だからこそ、復讐する。
 こっそりと、ちいさく、ささやかで、あとからじわじわとあがっていくような、そんな復讐を。
 さぁ、始めようか。


 ゆっくりと、四足の足を器用に使って歩く。
 最初はうまく歩けなかったけど、今じゃ随分と手馴れた。
 ふさふさの芝生の上を、軽やかなリズムで歩きぬける。
 季節は秋に変わり、木の葉は綺麗な紅色に化粧を施され、花も季節によって姿を変えた。
 高々に聳え立つ木を見た。
 今の姿では、遙か遠い。

 自慢の真っ白な毛並みをなびかせて、目的の地まであとわずか。
 今はとても気分がいい。
 だから調子に乗って鼻歌を歌う。調子っぱずれな鼻歌は学園長の真似。
 わいわいと騒ぐ音が耳に届く。白狼は耳が良いんだ。
 足取りが自然と早くなる。
 ああ、もう少し。
 そう、もう少し。


「愛美、好きだよ」
「愛美、好きだ」
「愛美、君を好いている」
「愛美、貴方が好きです」
「愛美、好きなんだ」
「愛美、すき、すきだってば」

「そんな、みんなありがとう。でもあたし、あたしっ!」


 誰かの幸福の裏でひっそりと涙を流している人。
 誰かの喜びの裏に悲しみを纏った人。
 たとえば、いますすり泣く女生徒のように、涙を流しているんだ。
 悔しさと、不甲斐なさと、どうすることもできない自分に、泣いているんだ。
 私だって、鳴いた。泣いた。ないた。
 枯れるほどないて、もう出なくなった。
 残ったのは、堪えようもない深い悲しみと怒り。
 そして、復讐心。
 だから、ねぇ。
 幕を開けよう。復讐劇の、幕を。


「ワォォオーンっ!!」


 どこかで何かの遠吠えが聞こえた気がした。
 空は、嫌味なほど晴れた青空。


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