▼ vengeance:target×××00
なんで、って、疑問に思った。
なんで、どうして私なんだろうって、そう考えて、悩んで、泣いた。
あそこで死んだことも悔しかった。
でも一番悔しかったのは、人間じゃなかったこと。
人間のほうがマシだった。人間だった伝えられた。
でも今は何も伝えることはできない。
短い前足を伸ばしたって、好きな人を抱きしめることもできない。
どう鳴いたって、好きな人に気持ちを伝えることはできない。
いくら追いかけたって、隣に並び立つことはできない。
悔しいよ。凄く悔しい。
あそこで死んで、後悔だったり未練がないなんて嘘にだ。
未練はある。後悔もある。だからこそ、復讐する。
こっそりと、ちいさく、ささやかで、あとからじわじわとあがっていくような、そんな復讐を。
さぁ、始めようか。
ゆっくりと、四足の足を器用に使って歩く。
最初はうまく歩けなかったけど、今じゃ随分と手馴れた。
ふさふさの芝生の上を、軽やかなリズムで歩きぬける。
季節は秋に変わり、木の葉は綺麗な紅色に化粧を施され、花も季節によって姿を変えた。
高々に聳え立つ木を見た。
今の姿では、遙か遠い。
自慢の真っ白な毛並みをなびかせて、目的の地まであとわずか。
今はとても気分がいい。
だから調子に乗って鼻歌を歌う。調子っぱずれな鼻歌は学園長の真似。
わいわいと騒ぐ音が耳に届く。白狼は耳が良いんだ。
足取りが自然と早くなる。
ああ、もう少し。
そう、もう少し。
「愛美、好きだよ」
「愛美、好きだ」
「愛美、君を好いている」
「愛美、貴方が好きです」
「愛美、好きなんだ」
「愛美、すき、すきだってば」
「そんな、みんなありがとう。でもあたし、あたしっ!」
誰かの幸福の裏でひっそりと涙を流している人。
誰かの喜びの裏に悲しみを纏った人。
たとえば、いますすり泣く女生徒のように、涙を流しているんだ。
悔しさと、不甲斐なさと、どうすることもできない自分に、泣いているんだ。
私だって、鳴いた。泣いた。ないた。
枯れるほどないて、もう出なくなった。
残ったのは、堪えようもない深い悲しみと怒り。
そして、復讐心。
だから、ねぇ。
幕を開けよう。復讐劇の、幕を。
「ワォォオーンっ!!」
どこかで何かの遠吠えが聞こえた気がした。
空は、嫌味なほど晴れた青空。
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