そんなまさか。
いや、だってこんなベタな展開になるなんて思いもしなかったし、前に何回か一緒に呑んだ時強かったしだから今回も俺が先に潰れるんだろうなって諦めというか予想してたわけで、こんな事になるなんて想像もしてなかった。
「あ、あの…」
「…はい?何ですかあ?」
「もしかして…酔ってます、か?」
「そうですねえ、名前先生と一緒に呑んでたらどんどん気分が良くなってしまって……」
赤い顔で缶を片手にへらへら笑うメフィストさん。自分でも認めてしまうくらい酔ってしまっている。
こうしてメフィストさんと呑むのは別に始めてじゃない。俺が祓魔塾の講師として働き始めて少し経ったくらいから度々誘われるようになった。
俺は弱くはないが、そこまでアルコールに強くない。だから毎回俺が潰れて終わりなんだけど…。
「名前せーんせー☆」
「は、はい」
「ふは、戸惑ってますねえ…かーわい」
つ、とメフィストさんは俺の唇を指でなぞる。いつも手袋に隠れているそれは、今はさらけ出されていて長い爪が少しだけちくりとした。
「ずーっと触ってみたかったんですよお」
「え……」
「ああ…こうして触るだけでは…やはり物足りない」
少し眉をしかめて、メフィストさんは俺の頬に両手を添えてゆっくりと唇を合わせた。
「!!」
「ん…名前先生…」
「ちょ、メフィ、!」
まさかキスされるとは思ってなかったから、急な事に固まってしまっていると今度は舌まで入ってきた。
「ん…!メ、フィストさ…」
「はあ…名前、せんせ…んう、く…」
え?え?どういう事?
何で俺はメフィストさんにキスされてるんだ?
「名前、せ…んせ…ふう、んぁ…あ、」
何でメフィストさんは、こんな表情をしているんだ…?
「くっ…、メフィストさん!」
「ぷあっ…!?」
息切れしながらもキスを続けようとするメフィストさんを無理やり引き剥がすと、驚いた様子で俺を見る。その目には涙が溜まっていた。
「は、…名前せんせい…?」
「……、どうして、どうしてそんなに泣きそうな顔をしてるんですか」
「え……っ」
言われて気づいたらしく、探るように目元を拭うメフィストさんはどこか痛々しく見える。
「…名前先生は私を拒否しないんですね」
「え…」
「それは、勘違いしてもいいって事なんですか…?」
小さく呟いた言葉は、悲痛な声色を含んでいて泣きそうだと思った。
「勘違いしてもいいなら、何処までも勘違いさせてください」
「メフィストさ…っ!」
俯いた後、急に俺の上着に手をかけて脱がそうとするメフィストさん。さすがに焦った俺は抵抗するも、メフィストさんが指を鳴らせば一瞬で可愛らしいピンクの派手なリボンで頭上に固定されてしまう。
「ああ…安心してください…掘ろうだなんて思ってませんからね。むしろ貴方は、私に突っ込んでくれたらいいんです」
「いっ!?」
酔いの抜けきってない顔でさらりと恐ろしい事を言われ、顔が引きつる。こんな強姦紛いな状況で俺はメフィストさんとヤりたい訳じゃない。
「っ俺は!!」
「、」
何とか止めてもらおうと大声を出すと、シャツのボタンを4つまで外したところで止まってくれた。
「俺は、こんな状況で、勘違いされたままは嫌です」
「……」
「本当は酔っている時に言いたくないんですが…」
呆けながらもじっと目を見つめてくるメフィストさんを真剣に見つめ返す。
「好きです。俺は、メフィストさんが好きなんです」
「ぁ……」
「勘違いなんかじゃない」
はだけた胸にぽたりと涙が落ちる。口を震わせ、大粒の涙が目に溜まりすぎてそれが重力に従って落ちてゆく。
「好き、です…ただ、っ好きなだけなんです…!」
「…はい」
「だからっ…お酒に溺れたら、勢いに任せてっ……酷く酔えたら忘れられるから…」
「…忘れなんかさせない」
メフィストさんが酔っているせいか腕を固定していたリボンの結び目は緩く、少しずらすとほどけた。
そのまま体を起こして涙を流す愛しい人を抱きしめる。
「好きです。メフィストさんのことが、何よりも好きです」
「っ……私も、名前先生が好きです…!」
少しだけ体を離し、零れ落ちる涙を拭うと、メフィストさんは照れくさそうに微笑んだ。
漸く見れたメフィストさんの笑顔に、俺は胸が甘く痛むのが分かった。
─────
誘い受けどこ行った…
すみませんでした。
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