最強と謳われた彼女は
2011/10/18 00:38


最も強い、最も美しい、最も優しい、最も凛々しい、最も荒々しい、最も艶っぽい。

彼女をそう言い表すやつは星の数ほどいる。
だが俺からしたら、彼女は最も儚い。
そんな彼女が権力の世界、金の世界、そして暴力の世界から消えた。
周りが騒然とする中、俺だけがすんなり受け入れたのはそういった認識の違いからだろう。



********



敵に囲まれた。
最初は数人、絡んできたヤツを刻んだだけだった。
だがどこからか他の仲間がワラワラと現れて一気に囲まれたんだ。
一人ひとりは弱いから大したことはない。
だが逆に弱いくせにうっとおしいという思いに駆られる。

めんどくさい、弱いくせに関わるんじゃない。
こいつら全員撒こう。
この程度なら振り切れる。
そう思って走ったら行き着いたのはあの彼女が俺と同じく囲まれてるところだった。


「っ!」


加速して彼女に近づく。
俺に気づいた彼女は俺に笑顔を向けた。
勝手にいなくなったことなんたなかったかのように自然に。
それが憎らしい、同時に彼女らしいとも思う。
ああ、やっぱり俺はあいつら同様彼女に溺れているな。


『久しぶりね。』

「ああ、本当にな。」


憎らしいほど以前のように振舞う彼女。
俺の皮肉に気づかない彼女じゃないだろうに見事なスルー。


『お互い修羅場ねぇ。』


くすくす笑いながらそう言う彼女に緊迫感なんか欠片も感じられない。
それどころか難なく近くにいるやつらを昏倒させる程の余裕ぶり。
まあ俺だって適当に薙ぎ払ったり刻んだりしてるがな。


「にしてもキリねぇな。」

『そうね、めんどくさくなってきたわね。』


危うくなる、ではなくめんどくさくなる、と表現するあたり彼女は依然優勢だ。
だが本当にめんどくさい。
数ばかりの烏合の衆だ。
どう片付けるかな、と考えた矢先に背中に感じる温もり。
後ろから抱きつかれた?!


『特別講師になったげる。
私直々なんてめったにない機会よ?
指の先まで神経尖らせて、体で覚えなさい。』


おどけた口調でそういう彼女の唇は弧を描いてるものの瞳は真剣そのもの。
ぴっとりとくっつき、彼女は俺の右手に自分のソレを重ねた。
耳元で聞こえる彼女の声はいつもより数段艶かしくて軽く赤面する。

重ねられた彼女の手に、言われたとおりに全集中する。
ここまで言わせて何も得ないんじゃ洒落になんねぇからな。


『五指で曲弦糸。
覚えたら便利よ。』


曲弦糸。
通常は両手の指、つまり十本の指で糸を操る技術だ。
敵を束縛するも良し、切り刻むも良し、物を固定するのも良しと、割と使い勝手がいい。
それを彼女は片手で行う。
それは知っていた。
便利そうだとも思っていた。
まさかこんな形でその技術を得ることになるとはな。


「よろしく頼むぜ、センセーさんよ。」


*****


結果は圧勝。
まあ彼女の手に掛かればこれぐらい数のうちにも入らないだろう。
俺だって彼女ほどじゃなくても世間一般からすれば強いの部類に入るしな。


『ちゃんと習得できた?』


魅惑的な笑みを浮かべてそう問うた彼女は既に俺から離れていた。


「あったりまえ。」


俺がそう返したときには既に彼女の姿は見えなくなっていた。

足元に転がる死屍累々から立ち上る血肉の匂いに混じったほのかに甘い香り。
先ほどまで俺に密着していた体とか俺に掛かっていた髪から移った彼女の移り香だろう。
それが唯一彼女と短時間であれ関われたことを物語っている。

自由奔放な彼女に憧れた。
いつからだろうか、そんな彼女を守りたいと思ったのは、縛り付けたいと思ったのは。
そう思った時点で俺は彼女に縛り付けられていたのに。


その時点で彼女が体を病に蝕まれていただなんて、俺は気づけなかった。


最強と謳われた彼女は、誰よりも儚い


______


舞台→戯言の世界
女の子→最強設定・不治の病もち
男の子→人識君もどき

で、お送りしました。
実はこのネタ、というかこのヒロインはいまだ白藤のなかで温めてるヒロインです。
なので明記してない設定がたくさんあり、分かりにくかったと思います←おい
それでもここまでお付き合いくださりありがとうございます!








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