【髪】
兵部京介を捕らえた。
避雷針に刺さったのを、そのまま回収した。テレポートする気配は合ったが、その前にECMを使用した事で、特に何も起こらず仕舞いで終わった。あの時の彼の悔しげに歪められた顔は実に見物だったと、思わず笑みがこぼれる。
まあ、問題はこれからだ。クローン技術向上の為、彼は解剖することになっている。僕自身の手で、神経の一本一本まで細断する心づもりだ。すべての皮膚を裂き、肉を割り、骨を穿いてやる。
ただ、出来るだけ彼は生きていたほうが都合がいい。彼が死ぬと、後々面倒なのだ。そして何より勿体無い。出来るだけ長く、仮死状態でもいいから生きながらえさせなければ。彼には生体コントロールも扱えるから、それは案外楽に出来るかもしれない。
そうしたならば、先ずは髪の毛乳頭などからDNA情報を入手しよう。最初は出来るだけ外側からいじっていくのがいい。内側は外の情報を絞りとってからだ。
そしてそのDNA情報からクローンを生産する。出来るだけ彼と同じ状態に近づけるのが理想的。そうやって完成したクローンと兵部京介本体を比べて分解するのだ。勿論、ここでも彼が死なないよう、注意を尽くそう。少しずつ、少しずつ、じわじわとこのビジネスを成功へ導いていくのだ。あ、でも、彼の髪は自分と違ってとても綺麗だから、抜くのは少しだけにしよう。
思案しながら、横たわる兵部京介の頭を撫でると、小さく呻く声が聞こえた。髪のさらさらした感触が心地良い。額付近は怪我からの熱で汗っぽく濡れている。この僕が負わせた傷だ。なんともいえない達成感に包まれる。この玩具は僕のものだ。僕の名前を世界へ刻むための、黒い幽霊でも、お父様でも、そしてユーリのものでもない。僕の、僕だけのもの。
そう考えると、何故か彼がとてつもなく愛おしい物に思えてきた。
引きぬいた髪の一本ですらも、狂おしいほど愛らしい。込み上げる想いのまま手にとった髪へと口付けると、兵部京介は朦朧とした意識の中、小さく舌打ちした。
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