*テオドール的な立ち位置のお相手より少し年上夢主。



【笑いながら絞めた首のほそさに酔う】


「あがッ……!?」

 始め、何が起こったのか理解できなかった。

「へえ、君の首って案外細いのだね」

 そう語るはナマエの主人……の息子、ギリアム。その瞳は常の冷たさを保ちつつ、唇はどこか楽しげに弧を描いていた。

「ん、ぐッ」

 ナマエは、この彼に正面から首を絞めつけられていた。ギリアムの自分より幾分か色の濃い指々が、彼女の首へと強く絡みついている。

「ほら、片手でも簡単に持てるよ」

 首にかけられた右手だけを支えに、ナマエの体は浮き上がり始めた。気道が完全に塞がれたらしい。喉奥からまた、ひきつった悲鳴が零れた。
 もしかしたらクローンネットワークを利用しているのかもしれない。あの子供達のどれか、念動能力を持った物を。自分の体を持ち上げるほどの腕力、そして握力。彼の男性にしては少々華奢な見てくれからは考えられないほどの、力だった。

「ギ、リア、さまッ」

 この状況でよく声が出た。息も絶え絶えに自らをこの痛苦に満ちた状況へと陥れている者の名を呼ぶ。何か自分に不手際でもあったのだろうか。そう酸欠の頭で思いを巡らす笹子の霞むようだった視界は、今は既に真っ赤に染まるようだった。
 その真紅の世界で、白い星がチカチカと明滅する。ギリアムは恍惚としたようにジッと黙ったまま何も言わない。要するに状況は彼が突然の凶行に走ってから何も変わっていない。
 これはいよいよ、危ない。流石に死に至る前にはどうにかしてくれるだろうが、果たしてこの子供が絞首からの後遺症の事まで考えてくれているだろうか。無慈悲に時を刻み続ける壁掛け時計の数字からして、恐らく自分はチアノーゼを起こしかけている様な状況であろう。スーツの下、ナマエの背中の裏を嫌な汗が、ジリッと流れた。

「あ、苦しかったか」

 そこでやっと解放された。ドサリと音をたてて床へとくず折れる。

「ゲホッ、ケホ……私が何か不始末、でも?」

 急に肺へと送り込まれた酸素に、咳き込む。喉奥に焼き付くような痛みが走った。まるで、窯で十分過ぎるほどに熱した焼き鏝をそこに突っ込まれたようだ。視界までも霞む。ああ、だめだこれは。自分はこのまま、失神する。

「いいや、別に」

 何となくだよ、ちょっと気が向いてね。そんな彼の言葉にナマエは幾許かの安堵を抱きつつも、あまりの理不尽に歯噛みした。
 何に腹が立つとは、本当にそれだけなのだろう。ギリアムの声は実に落ち着いていて、彼女にはその音が酷く不愉快なのであった。

「そう、ですか」
「うん、結構楽しかったからまたやるね」

 にこにこと笑いながら目の前の彼は言う。それはもう、いくら何でも勘弁してください。ナマエがそう声を上げる前に、彼女の意識は暗闇へと落ちた。瞼も独りでに降りる。意識が彼女の知れぬ遥か彼方へと飛びゆく。最後に視界へと映った満面の笑み。その主がちゃんと、後始末をしてくれる事を祈りながら。





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