【よお】


「これが、A」
「えー」

 僕は今、試験号に文字を教えていた。リスニング、スピーキングは限界まで教え尽くした故、残りはライティングなのである。
 さて、何故適当なエスパーを使わずに僕自身がそれをしているのかというと、それは単純。人員が足りないのだ。

「B」
「びいー」

 ユーリが日本へ行ってから、洗脳エスパーはいつでも不足品となっている。何名か高レベルのヒュプノ持ちも居るには居るが、当たり前のように妹には劣る。勿論、この僕もだ。
 需要に供給が足りていない上に任務に失敗した時は情報漏洩を防ぐため、場合によっては死を選ばせることも度々ある。それでは数ばかり減っていくわけだ。

「C」
「すー」
「Cだ、シ・イ」

 そんなわけで、現在僕はこんなに馬鹿らしいお遊びを試験号としているのである。
 まあ、あの狂おしいくらいに愛おしい妹はいつまでも帰ってきてくれなくとも、それはそれで喜ばしいのだが。父の心情は別として。

「すいー?」
「……まあ、いい」

 本当、馬鹿みたいだ。僕は言語なんざはほぼ全て自分で覚えた。お前とは違う。
 幽閉されてからは世話係らがお情けで偶に持ってきてくれていた本や新聞を使っていた。後はラジオ。それらを組み合わせてそこらでありふれた絵本なんざをしばしば解読した物だ。
 そのお陰で、知識を渇望していた僕は見捨てられ幽閉されながらも、常人と変わらずに会話することが可能なのである。

「まー、いー」
「それはいい」

 なのにコレは、この僕が居なければ本を読むどころか、何をする事も出来やしない。知識欲なんざの欲もしっかり働いていない状況なのだから。実に面倒だ。何故僕が自分に与えられなかったものをこの不良品にやらねばならないのだ。

「そえわいー」

 ――――不良品、か。

「………」

 そういえば、僕は不良品扱いを受けて、こうなったのだったな。

「………」

 目の前で僕の顔をジッと見つめる試験号の顔が、どうしてか過去の自分と重なる。流石僕のクローンだ。大分、面差しが似ているじゃないか。

「……D」

 不良品。それにするもしないも、僕自身だ。そうだ、何があっても、僕はお前をちゃんと役立つ道具にしてやろう。

「でー」

 さて、その前にまずは名前でも付けてやろうか。試験号では呼びにくいたらありゃしない。





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