【船に二人。】
「子どもたち、学校へ行くようになったのですってね」
良いこと。昔は、学ぼうとしても学べなかった人間が多かったから。
「うん、不思議だね、子どもたちは人並みの暮らしを欲しがるようだ」
「普通人を嫌っているはずですのに?」
「うん」
そのせいか、京介さんの雰囲気も少し変わった気がします。
「この家も、静かになりますね」
愛おしいこの人と二人きりというのも悪くは無いけれども、少し寂しく感じるのはこの歳だからでしょうか。
「船だよ、最近引っ越しただろう」
「ああ、そうでした、そうでしたね」
最近、少し忘れっぽくなってしまった。ああ、もう皺くちゃのおばあちゃんですからね。この人は、ずっとあの時から変わろうとしないけれども。
「そうだよ」
「ええ、ええ」
その事がむしろ幸せに感じられる、春の朝でした。
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