【久しぶりの二人。】
「ただいまー!」
「おかえりなさい、紅葉ちゃん、司郎ちゃん、葉くん」
彼が捕まってそろそろ10年くらいかしら。この子達も随分と大きくなって、彼の組織もやっぱり随分と大きくなったそう。
「ん、おばあちゃん何してるの?」
「編み物よ、あの子達に手袋作ってあげようかしらとね」
今の私にできることは、きっとそのくらいな物なので。
「カガリとカズラか」
最近入ってきたあの二人。きっと、寂しい思いをしているだろうから。
「へえ、あの二人きっと喜ぶぜ……あ、そうだ今日は知らせがあったんだった」
「なあに?」
「少佐、帰ってくるらしいわよ」
カラン、と。思わず編み針を落としてしまった。
「え」
「あ、落ちたわよ」
「ああ、ありがとね」
ヒュパ、と一瞬の間を置いて手元に彼女の能力で戻ってくる。
「今日限りで脱走するらしい。後にこちらへ来るそうだ」
「あ、俺達はしばらくガイシュツしてっからどうぞお二人でごゆっくりー」
「そういうことで、また行ってきまーす! おばあちゃんは体冷やさないようにね」
「え、ええ、行ってらっしゃい」
しかし驚きでぼんやりしてしまって、針はまた床へと落ちようとしていた。
「……ただいま、なまえ」
「あ」
でもそれは空中に静止し、私の体ごと黒い喪服に包まれる。
「少し久しぶりに、なっちゃったね」
「……ええ、私はそちらに行くのが難しいというのに」
ああ、少しばかり懐かしいこの匂い。乳飲み子の口元と線香の匂いがほのかに混ざったような、彼の匂い。私はとっくにおばあさんになってしまっていて動けなくて。そしてこの人は十年ばかりは大人しくしていたから、中々会えなくて。
「寂しかった?」
「当たり前じゃないですか」
黒曜石の瞳がこちらを伺う。それがどうにも愛おしくてたまらなくて。
「うん、ごめんね」
「本当に、もう」
ああ、私は思っていたよりもこの人の事が好きだったのね。
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