明日の君は [1/3]


“明日”、君が笑うなら…と何回考えただろう。

来るはずだった“明日”は、私の前から消えてしまって、その代わりに来た“明日”は君のいない現実だった。




伝令神機のボタンを押しながら、文章を書き進める。宛先はこの伝令神機には登録していない番号。
文章の最後に自分の名前を打ち込んで送信のボタンへ指が伸びる。しかしその指は一瞬動きを止めるとボタンを押すことなく電源のボタンを押した。
ピーと小さな音を立ててから画面が暗くなったそれを懐にしまう。



ふわり
湯呑に吸い込まれるように桜の花びらが落ちる。
花見で一杯か月見で一杯だなぁ、なんて頭で考えながら、掲げた湯呑の奥に見える月に苦笑いを向けてそう呟けば、そのまま湯呑に入った梅酒をこくりと喉の奥に流した。
いつかの夜も花を見ながら梅酒を飲んだな。あの時の花はなんだったか。思い出そうとするが、記憶はぼんやりとしていた。

『懐かしいなぁ』
花の代わりに思い出したのは一つの約束だった。



**********



「なんや、まだ寝とらんかったのかなまえ」
ゆっくりと庭先から歩いてくるのは平子隊長。
「もしかして俺のこと待っててくれたんか!?」
はっと、気がついたような仕草をして楽しそうに腕を広げながらなまえに近づいてくる。もう少しでその広げた腕で抱きしめられるような距離まで近づいてきたとき、平子隊長は目の前から消えた。
いや、正しく言えば蹴飛ばされてしまった。

『ひよ里さん!平子隊長吹っ飛んじゃったよ!!やるにしてもほどほどにしなきゃ!』
驚きで立ち上がれば、いつの間にか目の前に立っていたひよ里さんは腕を組みながらふんっと鼻で笑っていた。


「ハゲシンジ!なまえは今日うちと寝るためにここで待っとたんや!うちのかわいいかわいいなまえにちょっかい出したらしばくでハゲ!」
びっと中指を立てて平子隊長を威嚇するひよ里さんが、この間出会った猫の威嚇と似ていて、つい笑みがこぼれてしまった。
「何笑っとんねん。行くでなまえ。」


後ろの方で平子隊長が残念そうに何か言っているけれど、ひよ里さんに手を引っ張られるせいで小さくなるその言葉は私の耳に届かなかった。



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