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04

 ボーダー本部は忙しい。今のボーダーが設立されてから、人も増えたしやれる事、やるべき事も増えた。隊員には、防衛任務というものがある。防衛任務があれば学校を休めたり早退出来たりするので、夜はその任務が嫌いではなかった。

 人が増えたからといって、その全てが即戦力になるとは限らない。まだ力の使い方が分からない者も居るし、どの戦闘スタイルが自分に合うのか考えあぐねている者もいる。
 夜のような古参隊員は、そういった隊員の相談に乗るのも重要な任務だ。夜は基本的には人当たりもいいし、相談をするとなったら適役だった。
 夜さん、夜さんと慕われるようになるまでそう時間はかからなかった。有り難いと思う。頼られるのは当たり前に気分が良い。元来面倒見がいい性格なのだ。

 とはいえ、面倒を見ているばかりでは疲れもたまる。今日も忙しく過ごしていた夜は、一息つこうと飲み物を買って椅子に座り、ふう、と溜息をついた。

「どうかしたかい」

 声をかけてきたのは忍田だ。珍しい事もあるものだと夜は思う。忍田は本部長で、夜よりずっと忙しい立場に居る。しかし忍田とて人間だ、息抜きも必要だろう。偶々タイミングが合ったのだ。

「いやあ、ちょっと休憩に」

 ははは、と愛想笑いで返す。学業と任務の繰り返しの毎日は、いくら若いからといっても来るものがある。学業をおろそかにするのが嫌な夜は、しっかり学校の授業も受けるし課題もこなす。真面目なのだ。何事にも全力で取り組む姿勢は褒められたものだが、それ故偶に疲れがたまって疲れてしまう事があるのだ。

「そうか、休憩も大事だからな。ゆっくりすると良い」

 忍田は手に持った飲み物をぐいっと飲んで、その場を後にした。忍田の忙しさは自分の比ではないだろうに、と夜は思う。役職付きの忙しさは夜には想像出来ない。見える仕事から見えない仕事まで、やるべき事は沢山あるだろう。夜は忍田の背中を見ながらそんな事を考えた。

「やあ夜」
「唐沢さん」

 忍田が立ち去って少し。まだゆっくり飲み物を口にしていた夜に次に話しかけてきたのは、営業部長の唐沢だ。随分珍しい事もあるものだ。外回り帰りだろうか、ジャケットを肩にかけて立っている。唐沢は夜の目の前で自販機のボタンを押した。そうして買ったばかりの冷えた飲み物を豪快に流し込む。

「お疲れですね」

 そう夜が声をかけると、まあね、と返ってきた。この暑さの中外を歩くのは大変だろう。しかしそれが唐沢の仕事だ。いつも飄々としているがやる事はやっている。凄いなあと、夜は感じたままの言葉を口にする。そうしたら、いつものお決まりの台詞が返ってきた。大人の余裕、というやつなのだろうか。
 唐沢も、長く居座る事はなく去って行った。夜もそろそろ手に持ったそれを飲み干して移動しようと思った所で、また声をかけられる。

「ちびっこ、暇してんのか?」

 太刀川だ。失礼な事を言ってくれるものだと思う。暇ではない、決して。ただ少し時間が出来たから休んでいただけだ。必要な休憩である。太刀川がそこの所を認知しているかどうかは夜には分からない。きっとしていて、からかっているのだろう。質が悪い。

「太刀川さんじゃないんだから」
「言ってくれるじゃねえか」

 何をしにきたのだろうか。先の二人と違って飲み物を買う様子もない。太刀川的には偶々夜の事を見つけたから寄ろうと思っただけなのだが、そんな事は夜の与り知る所ではない。夜をからかうのは太刀川にとって自然な流れだ。構い甲斐があると思っている。素直に反応する夜は、恰好の餌食だ。

「太刀川さんどうしたんですか」
「学校帰り」

 なるほど太刀川とて高校生だ。学業もあるのは当たり前。ただ夜にしてみれば太刀川が真面目に授業を受けている風景を想像する事が出来ない。失礼な話かもしれないが、普段の太刀川を見ていればそう思うのも仕方ないだろうと思う。

「太刀川さん先輩なら今度勉強教えて下さいよ」

 だから夜の発言は完全に太刀川を馬鹿にしたものだ。教えられるわけがないと思っている。太刀川も教える気などさらさらないようで、嫌だね、なんていつもの笑顔。

「そういうのは自分で考えないと意味ないだろ」
「言い訳よ」

 真面目な顔で真っ当な事を言っているふりをして、本質はただ教えるのが面倒くさいだけだ。教えられるかもわからない。太刀川は学業に関しては、不真面目な男だ。誰が見ても納得するだろう。それ位、太刀川の態度は顕著だ。

「俺に教えて貰いたかったら相応の対価をだな」
「対価って言葉知ってるんだへーふーん」

 分かりやすく馬鹿にする夜に、しかし太刀川は想定済みとばかりに余裕の態度だ。夜が何を言った所で太刀川は痛くも痒くもないらしい。それが夜にとって少しだけ腹立たしい。いつか一泡吹かせてやりたいと思っている。
 けれど歳の差は変わらないし、戦闘だって太刀川の方がセンスがある。いつか、がいつにいなるのかは分からない。けれどきっと、と決意を新たに、夜はもうぬるくなった飲み物を飲み干して、席を立った。

 今度また個人戦付き合えよ、という太刀川の声に手を振って答え、声の主を置き去りにして隊室へ向かった。


十年後の私へ
 大人って大変だね。私はボーダーに居る経験は長いけれど、まだまだ至らない事ばかりです。貴女はもう歳で考えたら大人になっていると思うけれど、皆と上手くやれているかな。後輩も沢山居るんだろうね。かっこいい大人になれていたらいいな。居場所をくれたボーダーに、お礼を言わなくちゃいけないかも。貴女の居場所が、どうかなくなっていませんように。

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