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6.日の照る

「よく来たね、郁」

 高専へ着くと、五条が郁と伏黒を迎えた。正確には、迎え入れられたのは郁一人。郁を渡してしまったら、伏黒はもう用済みだ。伏黒は自分の役割を分かっている。だから無駄な口出しはしない。

「伏黒くん、有難う」

 だのに郁は、毎回丁寧に礼を言う。育ちが良いのだろう、と伏黒は漠然と思った。自分には出来ない芸当だと。寧ろそんな郁にどう対応したらいいのか迷ってしまう。だから、伏黒は毎回適当な言葉で濁すのだ。
 郁はそんな伏黒を気に留める事もせず、五条後ろをついていく。少し、緊張しているように見えるのは、伏黒の見間違いではないだろう。しかしそうだとして、伏黒に出来る事など何もなくて。ただ、郁の後ろ姿をぼうっと眺めていた。

 郁は五条に次いで部屋の中に入った。そこには学長である夜蛾が居る。郁は上層部と直接話をした事はない。いつも夜蛾がクッションになっている。何か事情があるのだろうが、郁の預かり知る所ではない。目の前に提示されたもので手一杯で、裏を探る暇はない。

 五条は郁一人を置いて部屋を出て行った。伏黒の元へ戻る為だ。その姿はもう廊下にはなくて、五条は寮へ足を向ける。伏黒は想像通りに自室に居て。

「最近どう?」
「何の話ですか」

 分かっていて聞き返した。この状況で話題になるのは、郁の事以外にない。けれど伏黒が態と惚けているのも五条には筒抜けのようで、何も気にしていないように「分かってるくせに」と口にした。言われてしまえば伏黒に逃げ道はない。郁を数日間共にした事で、思った事もいくつかある。

「郁は普通に生活出来ているかい」

 五条は重ねて伏黒に問いかけた。回りくどい質問、だが伏黒はそれに対応する答えを持っている。
 五条は聞いて来る。最近郁と行動する事になって気づいた事はないかと。

 伏黒は答える。呪霊が集まるきっかけのようなものは分からない。ただ、郁と行動する事で呪霊をより近くで見かける事が多くなった。日常生活で取るに足らないような雑魚が多いので、放っておいても問題はないだろう。ただ帳の中に迷い込むのは危険極まりないのでどうにかした方がいいのではないか。一つ一つ、答えていく。全て伏黒にはどうにも出来ないもの、やれる事なんて近寄る呪霊を祓うくらい。でもそんな事するまでもない、現状はそんな所だ。

「呪霊をよく目にするのだって元々集まりやすい場所なのかもしれないし、何とも言えないと思いますけど」

 伏黒の言葉を、五条はふむふむと相槌をうちながら聞いていた。大体は想像していた通りだ。行動を共にするようになってまだ長くはない。はなから具体的な情報などあてにしていないのだ。それでも聞くのは体裁でしかない。聞いておけと、上の指示だ。五条としては焦っても仕方ないのだからゆっくり時間をかければ良いと思っているのだが、上はせっかちが多いらしい。面倒な事である。兎も角伏黒にはこれからも郁の傍に居て貰わなければならない。五条は「これからもよろしくね」と言い残し寮を出た。

「よろしくたって」

 何しろっていうんだよ、と伏黒はベッドに身を投げた。何も出来る事なんてないのだ、本当に。ただ一緒に居るだけ。それも限られたほんの少しの時間。郁にはどう思われているのだろう、と考える事もある。しかしいつも最終的には、そんな事どうでもいいか、と思考を放棄して終わっていた。何を思おうがどう動こうが、きっと郁の待遇は変わらない。伏黒は自分の意味を考える。分かるはずもなかった。別に分からなくてもいい、これも一種の任務なのだと。完全に割り切れたら楽なのにと思った。けれどまだ、伏黒はそこまで人間が出来ていない。

 一方の郁だ。促されて夜蛾の前に腰を下ろす。いくつかの質問を受ける。郁自身、何が分かるわけでもないので、正直この時間は苦痛だ。単純に夜蛾が強面なのもあって、二人向きあうのは初めてではないがまだ慣れもしていない。口ぶりだけを見れば優しさを感じる片鱗もあるのだが、それだけで気を許せてしまう程、郁は前向きではなかった。

「日常生活の中で、呪霊の数が増えたりはしていないか」

 夜我の言葉に郁は頭の中で生活を振り返る。見える呪霊は様々な姿をしていて、呪いが形になるとこんなに多種多様なのかと感心すら覚えていた。呪霊とは何なのかについては最初に教えて貰って、基本的な事は把握している心算だ。学校、通学路、呪霊は色んな所に存在して、いちいち覚えたりも出来ない。一つ思うのが、街中でこれだけ呪霊を見かけるのに、郁の家には居ないという事。そこだけ見れば、自分が呪霊をおびき寄せる体質、というのは間違っているのではないか。郁が帳の中に入ってしまうのは偶然で。今の時点では、どちらもパワープレイにより導き出された答えにすぎない。一連の自分の考えを述べた後、郁は「わかりませんが」と付け足した。

 夜我からは、郁には監視がついているのはもう知っていると思うが、との前置きの後害が出そうな呪霊については呪術師が処理している、との話を聞かされた。郁の知らない所で色んな人間が関わっている事に、申し訳なさを覚える。
 それからも幾らか質問をされて、郁は解放された。校門で待っていたようだった五条に「送っていくよ」と声をかけられる。郁は素直に従った。

「恵とは上手くやれているかい?」

 五条の質問に、郁は「どうでしょう」と答える。基本的に、一緒に居る時間はあれど当たり障りない会話を二、三するだけだ。面倒だと思われてはいないだろうか。思われているだろう。

「仲良くしてやってね」

 仲良くして貰うのはこちらの方ではないか、郁はそんな事を思いながら「はい」と小さく頷いた。


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