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3話 ぱいなっぷる

「あっちい……」

 まだ初夏のはずなのに、気温は上がる一方で。教室はまだ然程冷房も機能しておらず、季節に見合わない暑さに生徒たちはやる気をなくしていた。出水や葵とて、例外ではなく。

「暑いねえ……」

 下敷きをうちわ代わりにしながら葵が出水の言葉に呼応する。扇いだところで生ぬるい風しか起こらないのだが、それでも何もしないよりはいいだろう、という考えだ。言葉の通りの気休めである。出水の席は葵の席の右隣。風の方向的には出水の方に向いているのだが、所詮下敷きで起きる風、出水のところまで届くはずもなく。

 そんな出水のところに米屋がやってくる。米屋もいつもより怠そうだ。その証拠に「あっっちいなあ」なんて出水や葵と同じような事を言っている。

「今日任務なくて良かったわ」
「オレも」

 米屋と出水が一緒に居るのはいつもの事。そして揃うと、多かれ少なかれボーダーの話にもなる。今日は二人共任務は入っておらず、終業まで学校に居る予定だった。
 いつもは授業がサボれる、という点で米屋は任務に積極的なのだが、日差しも熱くなるこれからの季節は、日中外での防衛任務は必要以上に疲れる。どうせ任務なら、夕方から夜にかけてが有り難いというのが本音だ。

「暑いね〜」
「ねえ、本当にね」

 葵の元にも女子のクラスメイトが何人か集まってくる。話している内容は、米屋と出水の会話と同じようなものだ。誰でも似たり寄ったりな話になるような気候らしい。
次の授業までの短い時間、仲の良い人間同士で集まる生徒、真面目に次の授業の予習をしている生徒、教室内の人間模様は様々だ。

「次何、サボろうかな」
「成績悪いのに授業態度も悪いってどうなん」

 米屋は本気でサボりを考えているようで、保健室に行こうか屋上で時間を潰してもいいかと思案している様子。出水はそれを呆れたように眺めていた。
 いくらボーダーとはいえ、最低限授業くらいは受けた方がいいのではないか。そこで出水は自分の隊の隊長の事を思い出して、その限りでない可能性も見出してげんなりした。太刀川さんの高校時代はどうだったのだろうか、聞いてみたいとも思ったが、同じくらい聞いても無駄だろうなと思った。失礼な話だと言われるかもしれないが、真実だ。

「弾バカだってそんなに成績よくないだろ」
「槍バカほどじゃねえわ」

 いつもの軽口を叩く。実際、出水だって突出して成績がいいわけではないが、それでも米屋よりは上だ。米屋に成績の事をとやかく言われるのは、全く心外である。

「米屋くんサボる? 私もサボろうかな」
「遠野は出とけよ内申に響くぞ」
「いいよ私大学とか考えてないし」

 いつの間にか隣の席に集まっていた数人の女子は自分の席に戻っており、一人になった葵が会話に混ざってくる。そろそろ授業が始まる時間だ。だというのに、出水をおいたこの二人はサボりの話をしている。
 米屋はともかく、葵はサボるべきではないのでは。出水は会話を聞きながらぼんやりと考えていた。

「高卒就職?」
「勉強嫌いなんだよね」
「よく言うわその成績で」

 その間も米屋と葵は会話を重ねていく。葵はどんな職業に就くのだろう。出水も米屋も、ボーダーがある。大学に行くにしろ行かないにしろ、ボーダーを職業とするのはほぼ確定だ。だが葵は一般人。もし三門市以外の職場に就職するなんて言ったら、関係はそこで終わってしまう。

 何となく、それは嫌だなと出水は思った。連絡先は知っているから、物理的に離れても連絡を取り合う手段はある。が、きっときっかけに苦労するんだろう。出水は、自分と葵の関係は軽薄だと思っている。

「勉強嫌いでもテストで点数とれるんです」
「嫌味か」
「いいえ、真実です!」

 嫌いでもしっかり勉強はしている。それが葵だ。学力はあって損はなし、という考え。将来の選択肢を広める為に、今出来る事に取り組もうとする姿勢は見習う所があると出水は思う。

 チャイムが鳴って、教師が教室に入ってくる。結局二人ともサボるのは諦めたようで、というか最初から本気でサボる気もなかったのだろう。米屋は自分の席に戻っていく。米屋の場合、高い確率で居眠りするだろうから教室に居てサボっているようなものだが。

 次は四時間目。これが終わったら昼休み。そう思って乗り切った。午後一の座学に比べればまだ余裕だ。昼食後の授業より辛いものはない。

「うわっ」
「出水くん、あげる。米屋くんも」

 乗り切った後の昼休憩。相変わらず暑い。出水と米屋は二人で飯にありつく。隣の席に姿はなかった。友達とどこか違う所で昼食にありついているのだろうか。そんな事を考えていたら突然首筋に冷たい感覚。思わず叫べば米屋が笑う。見えていたなと睨んでもどこ吹く風。
 出水が感じた冷たさの正体は葵が差し出した恐らく購入したばかりのお茶。葵は出水の反応に満足したようで、二人に手に持っていたものを差し出す。

「オレついで?」
「そしたらそもそも買ってこないって」

 米屋がお道化て葵が笑って。出水はやっぱり、それを眺めている。もしかしたら、葵は米屋が好きなのではないだろうか、なんて考えながら。
 ついでは自分の方ではないか、とも。

「何で」
「さあ? 何でだろうね」

 思わず疑問が口をついて出た。返ってきたのは満足出来る答えではなくて意図が分からなくてムズムズする。たかがお茶一本で、何故こんな気持ちにならなければいけないのか。

「はあ?」
「何でだろうなあ」
「米屋はどんな立場なんだよ」

 結局何故飲み物をくれたのか、出水が葵の心中を察する事は出来なかった。きっと深い意味はないんだ、そう思ってペットボトルの蓋を開ける。喉を通して流れ込んでくるお茶は、乾ききった身体を潤していくようだった。



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