×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
わんわん、にゃん


 彼は私の全てを肯定してくれる。それが嬉しくて、少し寂しい。

「誰が? 香菜が?」

 我儘だと思う。そう告げれば、彼は首を傾げそう言った。私はそう、と頷く。そして、私程我儘な人間は居ないと思う、と言い直した。彼、米屋陽介は少し唸った後、どこらへんが? と質問してきた。
 米屋は私の事をどう捉えているのだろう。付き合い始めてそれなりに経ったと思っているけれど、まだ彼について分からない事は沢山ある。寧ろ分からない事だらけだ。米屋は頭が良いと思う。学校の成績の話ではなく、回転が速いという意味だ。理解力もあると思う。何故それが勉学に反映されないかは謎だが、本人がそれで良いというのなら問題ないだろう。実際、私と米屋が付き合うに至って何の障害もないのだし。だったら、細かい事は関係ない。

 学校帰り、二人で並んで歩く。途中で買ったアイスクリームは冷たくて美味しい。夏にはまだ少し早いが、今日は比較的気温が高く。アイスでも食べようと提案したのは私だ。米屋は二つ返事で応じてくれ、コンビニに入って好きなものを選んだ。私はバニラアイスが好きだ米屋は氷のアイスを食べている。
 何となく、どうして家でもすぐ作れそうなものを食べるのだろうと思った。ジュースを固めたら出来上がりではないか。どうせなら同じアイスを食べて思いを共有したい。でもそれでは個性がない。
 そんな事を考えていたら、私は我儘なのではないかと思ったのだ。他にも思う所は沢山ある。米屋と居ると楽しいのだけれど、自分の欠点を見せつけられる事もあって、でも米屋は全く突っ込んでこないから私は一人で虚しくなるのだ。ほら、こんな所もきっと我儘。

「米屋は良い人だよね」

 私は米屋の質問には答えず、思った事を口にした。自分で言ったくせに、心がちくりと痛む。この感情は一体何なのだろう。好き、の中に含まれる感情なのだろうか。それならば好きは、随分難解だ。
 ちらりと米屋の様子を伺う。何を考えているのか、私にはよく分からなかった。だから黙る。余計な事を言ったかもしれない、と思ったが言ってしまったものは仕方ない。今の私は米屋の言葉を待つ事しか出来ないのだ。

「また何か難しい事考えてるだろ」

 アイスを食べ終わったらしい米屋は、空の容器をくしゃりと潰した。先ほどからどうも会話が噛み合わない。こうした事は偶にある。大体いつも原因は私だ。米屋は、こんな女と居て面倒だと思わないのだろうか。
 何をどう言葉にしたら良いのだろう。考えていたら、米屋にちょっと寄り道をしようと提案された。特に用事もないし、米屋と一緒に居られる時間が増えるのは嬉しい事ではあるので了承する。
 てっきり公園にでも行くのかと思ったのだが、連れていかれたのはペットショップだった。思わず店の前で立ち止まる。

「米屋、ペット飼うの?」
「いや?」

 では何故ペットショップなのだろう。疑問に思ったまま動けずに居ると、いいからいいからと半ば強引に背を押される。促されるまま店内に入った。
 ペットショップには沢山の動物が居た。うちでは飼えないのだが、動物は好きだ。入ってすぐは、犬のブースらしかった。子犬たちがボールで遊んだり寝転んだり、思い思いの時間を過ごしている。

「可愛い……」
「よな」

 零れた声に米屋が被せてくる。生き物を目の前にしたら、先ほどまで考えていた事なんてどうでも良くなって。子犬たちは私を熱中させるのに十分だった。値段を見てしまうとちょっと引いてしまうのだけれど、ガラス越しに見ているだけで癒される。
 一匹、明らかに他の子犬より成長しているような犬が居た。近くに行ってみると、こちらを見る目が寂しそうに見えて。売れ残ってしまったのだろうか。こんなに可愛いのに。

「君にも良い人が現れますように」

 ごめんね、私には祈る事しか出来ないから。だからそれだけ言った。あらかた見た所で、米屋は「犬もいいけど、こっち」と私の手を引いた。猫のブースだ。犬よりは少ないが、何匹かの子猫が居る。こちらもとても愛らしい。大きなケースの中で、二匹の猫がじゃれ合っていた。ころころ転がり回っている。そうだったかと思えば、見ていたらさっきまでの行動が嘘かのように離れてそれぞれの時間を過ごしている。

「ほら、これおれら」

 米屋が不意にそんな事を言う。私は意図が分からず「私たち?」と疑問で返した。米屋はそう、といつもの表情のまま肯定する。やっぱり分からない、だから説明を求めた。

「香菜は確かに気まぐれな所もあるけど、おれはそれも含めて香菜の事が好きって事」

 好き、そう恥ずかしげもなく言ってのける米屋に、私の方が赤面してしまう。米屋は、香菜のは我儘に入らないだろ、と続けた。おれだって本当に手におえない時は言うし、と。つまり、私が寂しくなる必要なんてなかったのだ。

「米屋、有難う」

 好きだと言葉にするのは恥ずかしかったので、それだけ言った。米屋には十分伝わったようで、じゃあ行くか、とペットショップを後にする。
 家に着くまでまだ距離がある。私たち手は、自然と重なっていて。猫に例えられた私だけれど、あの犬が幸せになれるといいな、とそんな事を思って。米屋と繋がっている手に少し力を込めたら、同じだけの力が返ってきた。
 私はやっぱり我儘だと思う。こんな米屋を、独占したいと思ってしまうから。でももう寂しくはない。米屋は米屋で、私は私なんだと思えたから。今日が終わる前に、好きだと伝えよう。少し勇気が要るけれど、難しい事ではない。それが今の私が出来る、精一杯の有難うだ。米屋はどんな顔をするだろう。不安で楽しくて、こんな時間が続けばいいのにって。私は胸を躍らせながら、彼の隣を歩いていた。

 家に着くまで、もう少し。

- 21 -


[*前] | [次#]
ページ: