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死に給う

 呪術師。おそらく普通の人間より死に近いその職業。私はそんな呪術師をやっている。自分で言うのも何だが、そこそこ強い。自信がなければこんな職業やっていられない。正義の類は得に持ち合わせていない。ただ私は呪術師としての特性があった。それだけ。生きる為に人助けが出来るならそれでいいではないか。助けているのかは、分からないけれど。それでもこの生き方を選択したのは自分。だから受けた任務はやり切る。仕事なのだから当然だ。割り切ってしまえば、呪霊も怖くはない。学校の先生の方が余程怖かった。
 呪霊は祓ってしまえば終わりだが、先生はいつまで経っても先生だ。死なない限りは。呪霊に相対して命を落とした呪術師も沢山見てきたが、それでも怖いとは思わなかった。私は今日も、任務を受ける。

「七海じゃん、一緒の任務か」
「尋乃さん……相変わらずですね」

 相変わらず呑気だと。七海はそう言いたいのだろう。何となく伝わってくる。七海は真面目だから、私みたいなのは疎ましく思っているに違いない。嫌いだとはっきり言われないだけ良い。呪術師同士必ず仲良くしなさいなどという決まりはない。ただ、私は七海とは仲良くしたいと思っているのだけれど。
 呑気、とはよく言われる。死と隣合わせの状況で、よくそんなに悠長に構えていられるなと。五条さんには、同じ匂いを感じると言われた事がある。だがきっと違う。五条さんは純粋に強いから。力も心も。私は違う。ただ何となく、緊張するのが苦手なだけ。特殊、なのだろうか。任務中へらへら笑っていたら印象が悪いのは当たり前だ。しかしこれが私の在り方。今更変えようとしても無理だ。

「一時間で終わらせよ」
「憂鬱ですが」

 噛み合っているようで噛み合っていないようで。七海とはいつもこんな調子だ。それで良いと思っている。私は私、七海は七海。七海の事は純粋にレベルの高い呪術師だと思っているし、階級も一緒だ。思考がバラバラでも祓う時には連携出来る。七海は立ち回りが上手い。私のカバーが一番上手いのは、一緒に任務をこなした事がある呪術師の中では七海なのではないかと思う。それでいて単独でも十分祓える力を持っているのだから、七海健人とは素晴らしい人間だ。
 任務は簡単、の筈だった。雑魚を祓っていく。予想以上に数が多かった。疲れる事はなかったが、注意力は思ったより散漫していたかもしれない。だから気づかなかった。最終目標とする呪霊がすぐ背後に居た事に。それは一瞬の判断ミス。だがその一瞬が、任務では命取りになる。私は文字通り、飛ばされた。身体が打ち付けられる。激痛。尚湧いてくる雑魚呪霊が群がって来る。ああ、失敗したなあ。私の意識はそこで途切れた。
 それから何がどうなったのかは、私には分からない。目を開いたら、白い天井が見えた。ここが死後の世界なのか、何処なのか。しばし考える。試しに手を動かしてみた。動く。目の前にかざせば、腕は擦り傷だらけだった。深い傷もいくつかあるようだ。それを受けて、まず思ったのが。

「あれ、生きてる?」
「ああ、目が覚めたかい」

 家入さんの声が聞こえた。どうやら高専に運ばれたらしい。重症だったのを、七海が連れ帰ったのだとか。それを聞いて最初に思ったのは、さぞ重かっただろう、という事だった。意識のない人間とは想像以上に重いものだ。呪霊を祓って疲れたその身体で人一人運ぶのは大変だったろうに。捨て置いても良かったのに、律儀な男だ。そこが魅力でもあるのだが。これだから七海の事が好きだ。好きだと伝えても、いつもうんざりされてしまうのだけれど。きっとのらりくらりとしている私だから、七海も冗談だと思っているのだろう。
 家入さんが「呼んでくるから待ってな」と部屋を出ていく。誰を呼んでくるのだろう。学長にでも怒られるのだろうか。それは勘弁願いたい。そんな事を思っていたら、次に扉が開いた先に居たのは七海だった。

「おお、七海」
「尋乃さん……」

 起き上がるのはまだ辛い。だから手だけを上げて七海に挨拶した。七海は苦虫をみ潰したような顔をしている。無様な姿を見せてしまった。申し訳なさを感じて、出来るだけひょうきんに映るように努めたのだが求められてはいなかったらしい。
 七海は遠慮なく歩いてきて、私が上げたままにしている手を握る。そして「心配、しましたよ」と辛そうな声で言った。私はどれくらい寝ていたのだろう。七海が心配する程だったか。確認する事は出来なかった。言葉が出なかったのだ。七海がいつもと違う顔を見せるから。分かり易く固まった後「いやあ、早とちった」とへらりと笑う。

「言葉が軽いんですよ、貴方は」

 七海の声音は変わらない。どうにかして安心させたい。どうすればいいのだろう。普段他人の顔色を伺わない私には何を言えばいいのかが分からない。ただ段々、気持ちは落ち着いてきた。その上でどうしようか考えている。何度も受け流されているのに、好きだと伝えたくてたまらない。今そんな事を伝えている場合ではないだろうに。もっと言わなければいけない事があるだろうに。けれど私はそんなに器用ではないから。

「七海、好き」
「……その言葉は、重く受け止めていいんですか」

 七海の反応は、正直予想外だった。けれどそれだけでどうしようもなく嬉しくて。状況を利用して、我ながら狡いと思う。けれど今なら、本心だと伝わる気がしたから。結果、伝わったわけで。
 次の任務が楽しみだ、と言ったらきっと七海の顔はまた難しい顔になるのだろう。だから言わない。けれど七海には届いている。無言の私の様子に不満気な顔をする七海。任務でなくても、一緒に居ていいのだろうか。

「傷が治ったらデートしよ」
「仕方ないですね」

 七海の返答に、顔を綻ばせた。


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