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46.夜八時、諸事情につき

「新しい映画入手したから今日は俺の部屋集合」

 そう五条が提案したのは授業中も授業中、校庭での事だ。少し休憩でもしようと階段に集まった四人。そこで話は切り出された。
 それはいつもの事だし、得に断る理由もない他三人は二つ返事で頷いた。だが内容は気になる。

「今度は何系なの」
「言ったら面白くねえだろ」

 結希が代表して聞いてみても、それが明かされる事はなかった。別に内容を聞くわけでもないし、聞いているのは系統だけなのだが、それすら五条は話す気がないらしい。深く突っ込む所でもないし、結局今日の夜に内容は判明するのだから、と結希は潔く引き下がる事にした。それでも楽しみは楽しみだ。五条の事だからまたどこぞのB級映画を発掘してきたのだろうと思ったけれど、皆で集まるのは苦ではない。
 心境の変化は著しい。まるで何年も一緒に居るような、そんな心持ちになってしまっている。戸惑いすら覚えない程に。それが良い事なのか悪い事なのか、結希にはわからない。けれど今だけは、楽しんでいたいと思った。

 そして夜。結希は硝子と少し遅れて五条の部屋にやってきた。扉をノックすれば中から声が返ってきて、二人は何の躊躇もなく部屋に足を踏み入れる。夏油はもう部屋に居る事を、すぐに女子二人は視認した。

 結希はここ、と五条に促され隣に座る。五条はぴったりと結希の横に引っ付いて、夏油に手で映画のディスクをデッキに入れるよう指示する。夏油は困ったように笑って従っていた。どうもいつもと違う感じがして、結希は五条の方を見据えた。

「なんか……距離近くない?」
「いつも通りだろ」

 いつも通りではない。どこからどう見てもいつも通りではない。変わらないのは口の悪さだけだ。夏油と硝子は気にする様子もなく着々と映画鑑賞の為の準備を始めていて、結希だけ取り残されたようだ。二人はこの状況に疑問を持たないのかと結希は不思議に思う。思わないのだろう、確かに結希と五条は付き合っているのだし、不自然ではないのだろう。だろうが、結希にとってはこの状況は自然ではない。

「もしかして酔ってる? 悟くん」
「いつ酒飲む時間あったよ」

 五条の言葉とは裏腹に、テーブルには空になった缶酎ハイが一缶。アルコール度数三パーセントの軽いものだ。こんなもの一缶飲んだだけでこんな状態になるのか疑ったが、理由はこれ位しか推理出来ない。
 結希は空になった残骸を指さした。

「あれを何と説明する」
「傑が飲んだ」

 首を振る夏油。嘘を言っているのがどちらかは明らかだ。それにしても酒なんてどこから入手したのか、何故入手したのか。今の五条に聞いてもまともな答えは返ってこなさそうだ。
 それならばと夏油に尋ねてみたのだが、夏油も詳しい事は知らないらしかった。少なくとも夏油が与えたのではないようだ。部屋を訪れた時にはもう飲んだ後だったらしい。未成年なのだから、平然と飲酒するのは如何なものか。とはいえ、結希も一度も飲んだ事がないわけではないので強く否定は出来ない。

「あーもう、悟くんお酒弱いのね!」

 何を聞いても今は意味がなさそうなので、結希は全てを投げ出す事に決めた。自分でもこの程度のアルコールでは酔わないだろう。硝子や夏油もそうなのではないだろうか。確かめる術はない。未成年なのである。けれど夏油も硝子も平気で飲んでいそうだと、結希は密かに思った。光景を想像するのは容易だ。五条が酒に弱いのは、意外だったけれど。

「弱かったらなんだよ」
「いや何もないけどさ……」

 五条が自分で言うのだ、やっぱり弱いのだろう。下戸に近いかもしれない。それにしても暑苦しい。嫌な気分ではないが、少々の恥ずかしさがある。二人きりではないのだ。硝子も夏油も当たり前の光景のように振舞っているが、結希の精神はそんなに図太くない。かといって離れようとしてもそれを五条は許さず、結果状況が変わる事もなく。

 どうしたものかと結希は思案する。無理に引きはがして機嫌を悪くされても困るので、結局は結希が折れて五条の気分に任せる事にした。満足したら離れていくだろうと思ったのだ。そうこうしている間に本来の目的だったはずの映画鑑賞会が始まった。五条が言い出した事だ、しっかり見ているのだろうかと隣に視線を向ければ案の定眠そうな顔をしていて、これはもしかしたら明日になったら忘れているんじゃないかと結希は思う。忘れていてくれた方が良い。五条は素面でも今の状態を何とも思わないかもしれないが、結希は違う。

「悟くん。寝た方がいいんじゃない? 鑑賞会はまた改めてさ」

 そう提言してみるも、五条からは何の反応もなかった。仕方ないなと気づかれないように溜息をつく。どうにもならない、このまま続けるしかないだろう。映画が終わったら夏油の力を借りてすぐベッドに寝かせようと決意する。流石に次の日までアルコールが残る事はないだろう。
 その傍ら、自分の前以外では飲まないで欲しいな、と結希は思った。五条のこのルックスだ、お持ち帰りされてもおかしくない。それを想像して、結希は身震いした。通常の五条なら声をかけられても断るのだろうが、この状態の五条に果たしてそんな意志があるのか、それが分からない。ないだろうと思っている。

 これから成人したら、付き合いで飲酒する事もあるだろう。その時結希は隣に居ない予定だ。だから成人した五条がどうなろうと結希には何も言えない。

それでも将来を想像してしまうのは。毒されているなと結希は思う。思ってはいけない事だ。そこまで考えて、今すべき事ではないと思考を遮断した。未来がどうなろうと、今結希の隣には五条が居る。夏油が、硝子が居る。それだけで十分じゃないかと、結希は五条に向けていた視線をテレビ画面に戻した。



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