×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
16.とある雨の日

 雨が降っている。ここ数日天気が不安定だ。結希は教室の窓から外を眺める。雨は嫌いではない。寧ろ嫌な事を洗い流してくれるような、そんな気がして。といっても憂鬱になる時もあるので、結希は気分というものの信頼性のなさをひしひしと感じる。
 それはそれとして、事実外では雨が降っている。雨粒が落ちる音が聞こえていた。

「今日は何を読んでいるんだい」

 不意に夏油が結希に話しかける。昼休憩の事だ。四人とも既に昼食を食べ終わり、教室で好き勝手にだらだらと時間を過ごしていた。
 結希は自分の席で静かに読書の時間を過ごしていた所だった。

「古本屋行ったの?」

 硝子が混ざる。以前硝子と出かけた時に見つけた古本屋には、あの後も定期的に通っていた。だが結希が今読んでいる本は、そこで買ったものではない。目的もなく何かないかと入った本屋で、たまたま見つけたハードカバーの小説だ。ファンタジーものだったが、個人的には中身に没頭して読めるような内容ではなかった。読めないわけではないが、嵌まるとまではいきそうになく。

「いや、新品で。ジャケ買いしたんだけど、失敗したかも」
「中身確認して買えよ馬鹿かよ」

 五条も加わってきた。開口一番に悪態をつくあたり、五条は何処まで行っても五条だ。
何だろう、皆暇なのだろうか。必要以上に構わないで欲しい。この人達と居ると何かしらボロが出そうで怖い。そんな事を思いながら結希は本を閉じる。
 臆病なのだ。臆病な己を偽って、強気な振りをしている。

「中身確認しないからこそ読んだときに得られる感動ってのがあるんです」

 雨は降り続けている。今だけは、少し鬱陶しい。
 精一杯の反論をする結希だが、五条は理解出来ない、といった顔をしている。理解されなくともそれが結希の信条なので変えるつもりはない。それが分かったからか、それ以上追及される事はなかった。

 夏油と硝子が会話を始めて、自分は的から外れただろうと結希は閉じた本をまた開く。嵌まれないとはいえ、せっかく買った本なので全部読むつもりで居た。本代も勿体ないし、今嵌まれなくともこの先の展開で嵌まる瞬間があるかもしれないと思っている。それがあるから、表紙買いは面白いのだ。
 最後まで読んで嵌まれなかったら、その時はあの古本屋に持っていけばよいだろう、そう思った。自分の好みに合わずとも誰かには嵌まるだろう。物語とはそういうものだ。

 数分本を読み進めていたが、結希はそこでじっと自分の方を見ている五条に気づく。夏油たちの会話に入らずただ視線をこちらに送っている五条になんの意図があるのかわからず首を傾げた。

「……何か?」
「お前さ、何系が好きなん?」
「は?」

 いきなりの質問に、とっさに返す事が出来なかった。何も言わずに五条を見つめていると、補足の言葉が投げかけられる。

「サスペンスとかSFとか、恋愛ものとか」

 結希の好きな小説の好みを知ってどうするというのか。お勧めの本でも教えるというのだろうか。残念ながら結希から見た五条は読書家ではない。日常から本を読んでいるような人間にはお世辞にも見えなかった。それでも五条は答えを待っているようなので、正直にありのままを返答する。

「なんでも読みますけど、恋愛ものは内容によっては苦手なのもあります」
「映画化したの読んだりする?」
「面白そうだと思ったら」
「ふうん」

 聞くだけ聞いて黙ってしまった。結希にしてみれば、いきなり何だ、である。五条はもう会話をする気がないのか、机に頬杖をかいた。結希がそれを視認した所で夜蛾が教室のドアをくぐり、四人は午後の授業を受ける準備をする。怠いと思いつつ、学生の本分を全うした。
 そうやって一日が終わり、結希たちは寮へ帰る。別れ際、五条が結希に声をかけた。

「面白そうなの見つけたら教えて。期待はしてねえけど」

 なんの話だろう、結希は一瞬考えるも、すぐに映画の事かと思い至る。そういえば五条は映画が好きだったか、と結希は彼の少ない情報を頭の隅から引っ張り出した。
昼の本の話から推察するに、映画化した原作を読んで面白いと思ったらその映画を教えろ、という事だろう。回りくどい聞き方をしたものだ、と思う。最初からそう言えばいいものを。

 そして相変わらず一言多い。が、イラっとしつつも五条に頼み事をされるなんてないので、意外に思う気持ちの方が強かった。果たしてこれが頼み事といえるのか疑問もあるが、一応お願いの部類には入るだろう。

「最高にどろどろした恋愛もの教えましょうか」

 言った所で結希自身そういった部類の小説は苦手である。しかし五条は意外にも「なんてタイトル?」等と聞いてくるので、言い出した方が返答に困ってしまった。素直に、嘘ですごめんなさい、と返せば不服そうな五条。

「五条くん恋愛もの観るんだ」
「どういう意味だよ」
「いいえ別に」

 期待されない方が楽でいい。そう言ったら可愛くねえ、と最高の褒め言葉をいただいた結希は、心の中で五条に向かって舌を出した。だがその一方で、今度何か本屋で見繕ってみよう、とも思ったのだった。
そんな時こそ古本屋だろう。B級のゴリゴリのホラーでも探してみようか、そう思ったら何となく鬱陶しかった雨の音が歌っているように聞こえて、結希は心が軽くなるのを感じた。



[ 17/97 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]