「ダメだダメだダメだ!絶対に認めません!」
「何でですか?…そりゃ、みんなに心配かけたのは反省してますけど、それ以外に悪いことは何もしてないです」
「いいかいテツヤ、相手をもっとよく選べと言っているんだ。お前に、そのオトコはふさわしくないよ」
「そんなことないです!…むしろ、オスのボクなんかを相手にさせて、火神君に申し訳ないくらいで…」
やさしいし、かっこいいし、そんな火神君の子供が欲しいと望むメスはたくさんいるのにと、苦しそうに言葉を紡ぐ黒子。
細い肩を落として俯く姿に胸を打たれたのか、火神は黒子の頭に手を伸ばし、乱暴なくらいの強さで髪をかき混ぜてやった。
「…お前、そんなこと気にしてたのかよ」
「火神君…だって、ボクじゃ子供を産んであげられませんし」
「…何言ってんだバカ。いいか、オレはお前がいてくれれば、それでいいんだよ」
「火神君…」
「黒子…」
「…だから、ちょっと待てというのに!」
油断するとすぐ自分たちだけの世界を作りあげてしまう2人に、流石の赤司もペースを崩されっぱなしだ。天然ってこわい。
「赤司の言う通りだ。…お前が望めば、もっと優れた相手はいくらでも見つかるだろうに、何故そんな単細胞を選ぶのか、理解できないのだよ」
「…何言ってるんですか緑間君、自慢じゃないですけど、モテたことなんか一度もないですよ」
「お前こそ何を言っているのだよ!?…お前にしつこくアピールする輩を牽制するのに、オレたちがどれだけ苦労してきたことか!」
「……?すみません、心当たりが全くないんですが…」
まさか、あれだけ多くのオトコたちに構い倒されて、全くの無自覚だったとは。
黒子の鈍さを、少々甘く見ていたようだ。
「…どおりで、あの高尾や氷室ですら手を焼くわけなのだよ…」
「…じゃ、じゃオレは?オレらは?まさか、まったく眼中にないってことはないっスよね!?」
今まで散々アピールしてきた自覚のある黄瀬が、必死の形相で訴える。
それは、キセキ全員の気持ちの代弁でもあった。
「…そりゃ、みんなの事は大好きですし、かっこいいとも思います。…正直、たくさんのメスに騒がれてるの見て、ちょっとヤキモチ焼いたこともありますよ。……けど」
「けど?けどなんだよ、テツ」
気付かない内に、ちゃんと黒子は自分達を意識してくれていたようだ。
当然高まる期待に、青峰は言葉の続きを促した。
「…けど、みんなは何時まで経ってもボクのこと子供扱いじゃないですか……あぁこれは、まったく相手にされてないんだな、と思って」
「なっ!?」
――しまった、大事にしすぎたのが仇になるとは。
「くそっ!こんな事ならあの時ガマンしねぇで、さっさと手ぇ出しちまえばよかった!」
「え、ちょっ、あの時って何スか!?」
「…うるせーな、テツをオトナにしてやったのは、オレってことだよ!オレが!この手で!抜き方から何から、ぜんぶ教えてやったんだからな!」
「よ、余計なこと言わないでください…!」
己の性的な成長について言及され、羞恥に頬を染めながら、黒子は戸惑ったように眉を寄せた。
「…それより、その言い方だと、まるでみんながボクのこと…」
「…ようやく自覚してくれたかい?」
苦笑を浮かべた赤司に己の言葉を肯定され、黒子は目を見開く。
「そんな、だって…」
「僕たちはお前の育ての親であり…同時に、お前の番候補のつもりでもいたんだよ。お前がまだ小さかった頃から、ずっとずっとね」
黒子にとってキセキたちは大切な家族であり、憧れの存在でもある。
そんな彼らに求められ、嬉しくないはずがない。
だが、しかし、
「…でも、それでも、ボクは火神君のことが好きです」
「…それは、僕たちよりも、ということかい?」
「そんな…比べられるものじゃないですよ!」
「いいやテツヤ、ハッキリと結論を出してもらおうか」
「…赤司君…っ」
赤司がこれほど厳しい眼差しを黒子に向けたのは、初めてのことだろう。
戸惑い、悲しみと僅かな恐怖をおぼえ言葉をつまらせる黒子に、赤司は追及の手を緩めようとはしなかった。
「さぁテツヤ、選ぶんだ……僕たちか、それとも、そのオトコか」
「…片方を選んだら、もう片方といっしょにいることは出来ないんですか…?」
「…当然だろう。僕達はそのオトコとのことを許すつもりはないし、それは彼も同じじゃないのかい?」
それともキミは、テツヤが僕のモノになるのを、受け入れられるのかな?
挑発するような問いかけに、火神はぐっと拳を握りしめ、赤司をきつくにらみ返した。
「…別に、こいつがオレのものだって自惚れてるわけじゃねぇけど……でも、少なくとも、黒子がオレを好きだって言ってくれてる以上、手放すつもりはねぇよ!」
「なるほど、その度胸だけは認めてやろう。……ならばやはり、後はお前の意思ひとつというわけだね、テツヤ」
「それは…っ」
どうしていいか分からない黒子は、助けを求めるように、怖いほど真剣な表情を浮かべるキセキたちひとりひとりに視線を向けた。
赤司、黄瀬、緑間、紫原、そして青峰。
みんなみんな大切な家族で――それ以上に、心の底から愛おしいと思うヒトたち。
しかし火神も、黒子にはじめて恋を教えてくれた、他の誰とも違う特別な存在で。
「…、です…っ」
「……ん?」
「いや、です…っ」
「…て、テツヤ…っ!?」
聞き取れないくらい小さな声と共に零れ落ちたのは、大粒の涙だった。
小さい頃はともかく、成長してからの黒子が泣き顔を見せることなど一度もなかったので、赤司をはじめとするキセキたちと火神は、そろって目を見開いた。
「な、何も泣くことはないだろう…っ!」
「だって…っ」
頭は真っ白、ただ茫然と立ち尽くすキセキたちの前で、黒子はえぐえぐと泣きつづけている。
「…ボクは、赤司君も、黄瀬君も、緑間君も、紫原君も、青峰君も…同じくらい火神君も、みんなの事が、大好き、だから…っ!」
――あれ、これと同じ光景を、どこかで見たことがあるような――?
「…みんないてくれないと、やだぁ…っ」
キセキたちの脳裏に一瞬デジャヴがよぎったが、今はそれどころじゃない。
「テツ…っ!」
「黒子っち…っ!」
「黒子…っ!」
「黒ちん…っ」
「テツヤ…っ!」
うわぁんと本格的に泣き出してしまった黒子に、キセキたちは慌ててその名を呼んだ。
「…テツヤ、分かった…分かったから、もう泣かないでくれないか」
「…なら、みんな、これからも一緒にいてくれますか…っ?」
「あぁ、勿論だ」
「…火神君のことも、認めてくれますか…?」
「…それは…」
「…赤司君…っ」
「………分かった!認める!認めればいいんだろう!」
縋る様な眼差しを向けてくる黒子に、ついに赤司は半ばヤケクソ気味にそう叫んだ。
「…みんなも、それでいいな」
「…まぁ、仕方ない。ここで結論を出してしまうには、まだ時期尚早なのだよ」
「あ、そっか。これからでも黒子っちに、オレを1番好きになってもらえればいいスもんね!」
「…オレは認めたくねーけど……まぁ、黒ちんが泣くのはもっと嫌だし」
「…オレは…オレは、テツが幸せなら、もうそれでいい…」
「…と、いうわけだテツヤ」
「…赤司君、みんな…!本当に大好きです…っ!」
キセキたちに駆け寄り、ひとりひとりとハグやノーズタッチをかわす黒子に火神は――呆れたような表情を浮かべていた。



「…なぁ、昨日のアレ、ウソ泣きだったろ」
「…さぁ、何のことだか」
翌日、改めて招かれたキセキたちの住処で、火神は黒子とそんな会話を交わしていた。
「とぼけるなっつーの!つーか、ウワサでは鬼みたいに強くて無慈悲な奴らだって聞いてたのに……キセキの奴ら、どんだけお前に甘いんだよ」
「…丸く収まったんだから、それでいいじゃないですか。それにああでもしなかったら、火神君だって無事じゃ済まなかったでしょうし…」
「…やっぱそうなのか……くそっ、悔しいけど、今のオレじゃ太刀打ちできねーもんな」
今は休戦状態とはいえ、これからだってどんな目に合されるか分からないのだ。
「……すみません」
「…あやまるなよ、オレだって、お前に笑っててほしいし……あいつらのこと、やっぱ大切なんだろ?」
「……はい」
「…まったく、ワガママな恋人持つと苦労するな」
「恋人?恋人って、言ってくれるんですか?」
「…え、なっ、そこにツッコむなよっ!」
「だって、ちゃんと言葉にしてくれたの、初めてじゃないですか。…ねぇ、もう1回、もう1回言ってくれませんか」
「…う、うるせー!」
キラキラと瞳を輝かせねだってくる黒子の腕を強引に掴み寄せ、火神は顔を寄せた。
――が、
「…そこまでだ、テツヤから離れろ二股眉毛」
突如として頭を抑え込まれ、キスで恋人を黙らせようとした火神の目論みは、あっさりと砕かれることになった。
「…赤司君、急に何を……火神君、大丈夫ですか?」
「あー、お前のカガミクンならだいじょぶなんじゃね?…そんなことよりテツ、こっち来いよ」
「そうっスよ黒子っち!…えと、ご飯の時間っスよー?」
「え、さっき食べたばかり…」
「んじゃオヤツってことでいいんじゃない?ほら黒ちん、行くよ」
「その後は狩りの練習だ…まったく、お前という奴は、まだまだ世話が焼けてしかたがないのだよ」
地面にめり込んだ火神を気に掛ける黒子を、キセキたちは強引に連れていってしまう。
「…ふん、テツヤを独り占めしようなんて、100年早い」
勝ち誇ったように言い捨て、後に残った赤司も皆の後を追ってその場を後にした。
「…ちくしょう、オレはぜってー負けねーからな、黒子!!」
今はいない恋人に向け、そう宣言する火神。
そんな彼とキセキたちの戦いは、まだ始まったばかりだ――




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