「というわけで、今から家族会議をはじめる」
「…いや、何がというわけなんだよ……てか家族会議って…」
突然の赤司の招集に集まったキセキたちは、三者三様の表情を浮かべていた。
その中でも最も乗り気でなさそうに見えるのは、青峰だ。
「…テツが交尾って言葉覚えただけだろう?こんだけ大人に囲まれた環境にいりゃあ、知識くらいついて当然だろうが」
「そうっスよねぇ。なーんも知らない純真無垢で天使な黒子っちもいいけど、おませで小悪魔な黒子っちも、それはそれで可愛いと思うっス!」
「だからお前たちはダメだと言うんだこの馬鹿コンビ!」
身体能力はキセキたちの中でもトップクラス、しかし頭脳面で難ありな青峰と黄瀬の発言に、赤司は赤と金色のオッドアイをくわっ!と見開いた。
「…な、なんだよ…っ」
「…こ、怖いんで、目ぇかっ開くのやめて欲しいんスけど…」
「…いいか、お前たちは事の重大さが分かっていない」
沈痛そうな表情で首を振る赤司に、それまで黙って事の成り行きを見守っていた緑間が、はじめて口を開いた。
「…お前の過保護は今にはじまったことじゃないが、何がそんなに問題なんだ?黒子とていつまでも子供のままという訳ではないし、どちらにしろちゃんとした性教育はすべきなのだよ」
「…勿論そんなことは分かっているさ。性教育結構――だが、どういった風に、そして誰がするかが大切だ。そうだろう?」
「…誰がって…」
「ロクでもないバカが、テツヤにとんでもない事を吹き込んだらどうするんだ!……いや、すでに遅いのか…」
赤司のその言葉に、流石に3人の表情から余裕が消えた。
「…赤司、どういうことだよ」
「…とにかく、テツヤから話を聞いてみろ」
眉間のシワを深くし、鋭い眼差しを向けてきた青峰に赤司はそう応えると、部屋の奥に向かって声をかけた。
「敦!テツヤを連れてきてくれ!」
「…赤ちん、よんだー?」
話し合いより黒ちんと遊んでいるほうがいいと、赤司曰く家族会議に参加していなかった紫原が、黒子を肩車したままやってきた。
「あぁ!紫原っちばっかズルい!ほら、黒子っち、こっちおいでー!」
「…うるせぇ、お前はまずそのだらしない顔どうにかしてから出直して来い!」
『涼太君ってかっこいいよねー!顔は綺麗なのにすっごい逞しいし!』『そうそう、優しいのにクールなとこもあって、そこがたまんないよね!』
そんな風に日頃から騒いでるメス達に今の黄瀬――自分の腰くらいまでしか背丈のない小さな子猫にデレッデレな笑みを浮かべてる姿を見せてやりたい。
百年の恋も冷めるだろうよと鼻で笑いつつ黄瀬を蹴り飛ばし、青峰は紫原から黒子を受け取った。
「…ん?テツ、お前ちょっと重くなったか?」
青峰が見つけた時は、今にも死そうに弱っていた黒子。今も決して逞しいとは言えないが、それでも確実に成長しているのだ。
「ボク、おっきくなってますか?」
「…あぁ、お前もちゃんと育ってんだなぁ」
それに、日に日に可愛らしくなってる。
頼りないほどの細身ながらその体は子供らしい丸みを帯び、水色の柔らかい毛並もそれは見事なものだ。
ガリガリに痩せこけ薄汚れていた姿が、今ではウソのように思えてくる。
「じゃあ、ボクももうすぐおとなになれますね!」
「なんだよ、テツは大人になりてーのか?」
「はい!はやくおとなになって、みんなと『こーび』したいです!」
「…………………は?」
にこにこ愛らしく微笑みながら黒子が口にした言葉に、最強と謳われる青峰が、思わず間抜けな声を上げて目を見開くことになった。
「…あ、ああああああ赤司!?これ一体どういうことだよっ!?」
「…だから言っただろう」
赤司は、やはり驚きに目を見開いている他の3人にやれやれと首を振ってから、何故みなが動揺したのか分からず目を瞬かせている黒子を床に下ろしてやった。
そしてその前に膝をつき、優しく微笑みかける。
「…テツヤ、お前に『こーび』を教えてくれたのはどんな奴だったか、もう一度話してくれるかい?」
「えっと、あおみねくんときせくんくらいおっきい、はいいろのおにーさんです」
「…それってまさか、灰崎っスか!?」
「…あの野郎…っ」
ノラで生きる猫であれば、その粗暴さやオンナの扱いの悪さの評判を、一度や二度は聞いたことがあるだろう。そのくらい危険な男だった。
「…よりによってアイツとは、最悪なのだよ……黒子、知らない相手と話しちゃいけませんと、あれほど言って聞かせただろう!」
日頃から小言係りの緑間に叱られ、黒子の水色の髪から覗く三角の耳が、しょんぼりと垂れた。
「…ごめんなさい。でも、おにーさんはみんなのことしってるっていってたし、それで…」
紫原によしよしと慰められながら、黒子が説明したところによると――




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