頬を膨らませそっぽを向いてしまった黒子に、目を細める紫原。
「…アララ、拗ねちゃった?黒ちん子供みたーい」
茶化すように言いながら黒子の顎を掴み、上から強引に顔を覗き込むと、返ってきたのは挑戦的な上目使いだった。
「…それ、紫原君だけには言われたくないです」
「…ショボいくせにさ、どうしてそう生意気なの……いい加減ひねり潰すよ、黒ちんでも」
言いながら、紫原は腰を折り黒子へと顔を近づける。
「…それで、そのままぱくって食べちゃおうっか……ずっと味見してみたかったんだよね。飴玉みたいな眼、マシュマロみたいな頬っぺた、ぜんぶ甘くておいそう…」
自分より頭2つ分は大きいだろう相手にのしかかられ、まさに捕食されようとしているというのに、それでも黒子が引くことはなかった。
それどころか、己の顎を掴んだままの紫原の手をぐいっと強引に引き寄せたかと思うと、
「……っ!?」
かぷっ、と、指先を甘噛みしてみせたのだ。
「…お菓子ばっかり食べてる紫原君の方がおいしいんじゃないですか、って言おうとしたんですけど……本当にまいう棒の味がしました…」
お菓子食べた後はちゃんと手をふきましょうよ、そう呆れたようにため息をつく黒子を紫原はしばし呆然と見下ろしていたが、我に返った途端、むっすりと頬を膨らませた。
「……ほんともう、信じらんない!」
「…紫原君?…って、ちょっ、い、いた…っ!」
さっきの仕返しにと、紫原が歯を立てたのは黒子のほっぺただった。
「紫原君!痛いですって、もうっ!」
「…うるさい、黒ちんが悪いんだからね」
そう言いながら髪をぐりぐりとかき混ぜてくるのに負けじと、黒子もせいいっぱい背伸びをして、紫原の髪に手をやった。
「…黒ちーん、くすぐったいんだけどー」
「紫原君がやめてくれたら、ボクもやめてあげます」
「……なんか、すごいな」
2人のやりとりを見つめ続けていた氷室が、そこで思わず呟いた。
帝光時代、バスケに関してはよく対立しながらも、むしろ仲は良かったと聞いていたが――成る程、こういうことか。
険悪と表現するにはお互い遠慮がなく、距離が近すぎる。あえて言うなら、子猫や子犬の本気のじゃれ合いに近いだろうか。
自然、脳裏に思い浮かんだのは、ゴールデンレトリーバーとチワワの子犬だった。
思わずほっこりした気分になってしまった氷室だったが、そろそろ止めた方がいいだろうと気持ちを切り替える。
「ほら、2人が仲いいのは分かったから、そろそろ…」
「おー、お前らほんと仲いいなー。でも、それくらいにしとこうな?」
氷室の台詞に重なった、のんびりした声。
それと同時に背後から伸ばされた大きな手に顎を持ち上げられ、黒子はその声の主の顔をさかさまに確認することになった。
「…木吉センパイ!」
「…こんなとこで道草くってたのか……緑間に拉致られたまま戻ってこないから、みんな心配してたんだぞ?」
「…すみません、わざわざ探しに来てくれたんですか?」
「当たり前だろ。なんたって、可愛い後輩の為だからな!」
「…ありがとうございます」
こいつ、にーちゃん達に心配かけやがってと木吉に頬を軽く引っ張られながら、黒子はくすぐったそうに笑っている。
それが面白くなかったのは、紫原だ。
「…ねぇ、前から言おうと思ってたんだけど、黒ちんそいつに懐きすぎじゃね?」
「……え?そう…ですか?」
「だって、オレらに対する態度と違いすぎ」
オレ黒ちんにそんな風に甘えられたことねーもんと唇をとがらせる紫原に、自覚のない黒子は首をかしげた。
「…まぁ、キャラが違うんだから、そこはしかたねーだろ」
のほほんと笑いながら、木吉は紫原の視界から隠すように、さりげなく黒子を自分の背後へと下がらせた。
「…ちょっと、何してんの……てか人魚とかマジキモいし!」
紫原は黒子を奪い返そうと腕を伸ばすが、木吉が後退した為それは叶わなかった。
その悔しさも相まって声を荒らげながら木吉の貝殻ビキニに指を突きつけるも、言われた本人は気にすることなくあははー、と笑っている。
「…そういうすぐにムキになるとこ、ほんと子供っぽいよなー……黒子に甘えてほしかったら、もうちっと大人になれって」
相変わらず笑みを浮かべたままの木吉であるが、その言葉に見え隠れするトゲと優越感に、紫原の機嫌は更に急降下。
「……ほんと、マジムカつく…っ」
元から三白眼気味の目を険しくし、憎らしげに木吉を睨み付ける紫原に慌てたのは、むき出しの敵意を向けられた本人ではなく、黒子だった。
「…ちょっと待ってください、なんでそんな急に険悪に…」
にこにこ微笑みながら一歩も引く気配を見せない木吉と、そんな彼に今にも手を出しそうな紫原の間に割って入ろうとしたところで、
「…あ、黒子みっけー!」
腕を引かれたと思った次の瞬間には、背後から抱きすくめられていた。
「…高尾君?」
「…もー、オレとしたことが、お前も真ちゃんも見つけられず学校中を走り回る目になるなんて……僕はもう疲れたよパトラッシュ…」
「…そんなお迎えが来そうなこと、言わないでくださいよ」
珍しく本気でダメージを受けているらしい高尾の頭を、黒子は軽く撫でてやった。
「…うわぁ、優しさが心に染みる!」
身長差が10センチくらいだと楽でいいなー、なんてこっそり考えている黒子を、高尾は更に強く抱きしめる。
「もー、テっちゃん大好き!今日からしんゆーって呼ばせて!」
「…えぇと、親友だったら緑間君がいるでしょう?」
「相棒で親友は真ちゃんだけど、ライバルで心友はお前なの!…なんか、ライバルで心の友とか、ちょっといい感じじゃね?」
「…はァ?アンタ何言っちゃてんスか?」
嬉しそうに話す高尾に返事を返したのは――勿論、黒子ではない。
「黒子っちが優しいからって、勘違いしてんじゃねーよ。…黒子っちにはオレがいるんスから」
時間制限つきとはいえ、流石パーフェクトコピーを極めた男。見事火神のディフェンスをかいくぐった黄瀬は、高尾から黒子を引き離しながら、きっぱりと宣言してみせた。
「…えー、そういう一方的な『オレのモノ』扱い、どうかと思うよー?」
「一方的なのはそっちじゃないっスか?なんてたってオレは、黒子っちから!黒子っちの方から!ライバルって認められちゃったんスから!ね!黒子っち!」
高尾に向けていた冷たい表情をお空の彼方へふっとばし、デレッデレな笑みを浮かべる黄瀬。
「オレら、すれ違いながらも、ずっとずっとお互いを想い合ってたんスもんね!…黒子っちがオレのこと意識しながら、ずっとツレない態度とってたかと思うと……もうっ!」
感極まったように拳を握りしめる黄瀬の腕の中で、黒子は遠い目をしている。
――黄瀬が言っていることは全て事実であるはずなのに、このコレジャナイ感は何なんだろう。
「まぁ、そういう訳で、黒子っちにはオレがいるし、高尾クン?だっけ?は大人しく…」
「…なぁなぁ、黒子ー。中学時代お前が一番仲良かったのってダレー?」
「…え?青峰君、ですけど」
「じゃあ今はー?」
「火神君ですね」
「……だって!」
黄瀬クンざんねん!と鼻で笑ってみせた高尾に、黄瀬の顔が引きつった。
「…いい度胸してんじゃん」
「…まぁね、伊達に真ちゃんの相棒してねーし?」
「……もう、2人とも急にどうしたっていうんですか…」
ここでもまた勃発した険悪ムードに、黒子は大きなため息をついた。




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