拍手連載 01 俺がついた たったひとつの嘘を なんだかもう、疲れてしまった。 大声で喚いて俺を親友だと宣う転入生にも、彼の隣に立つ俺に憎悪の視線を向けてくる美形達にも、八つ当たりのように制裁を重ねる親衛隊にも、遠巻きに傍観するだけのクラスメートにも、 冷たい目で「死ね」と言い放った、幼なじみのあいつにも。 家が近くて、それこそ物心つく前から家族ぐるみで付き合っていた。 この学園にも、二人一緒に中等部から編入したんだ。 幼なじみの贔屓目なしにもカッコイイあいつはすぐに親衛隊ができて、華のない俺があいつと一緒にいるとよく睨まれた。 ただ、あいつが直接話をつけたらしく、制裁されることはなかったんだけど。 でもあいつと一緒に過ごせたのは中等部まで。 高等部から過激さを増した親衛隊を警戒して、俺とあいつは距離を置くことを決めた。 学校で話せないのは寂しかったけど、電話やメールはできるし、長期休暇には地元で一緒に遊べる。俺はそれで充分だった。 なのに。 中途半端な時期にやって来たオタクみたいな格好をした転入生に何故か気に入られ、半ば無理矢理食堂に連れて行かれた時、一ヶ月ぶりに会ったあいつは、完全に別人だった。 騒ぐ転入生を愛おしげに見つめ。 周囲に敵意を振り撒き。 幼なじみの俺すら、牽制するように睨みつける。 (お前、どうしたんだよ) (俺は転入生に気がないって、見れば分かるだろ) (なんで、もっと周りを見ないんだ) 表向き関わりのない俺がそんなことを言えるはずもなく。 電話もメールも来なくなって二週間、ついに今日、言われてしまった。 『死ねよ、お前』 ――他にも何か言ってた気もするけど、その一言の印象が強すぎて何も覚えていない。 それは、転入生が侍らす美形達から度々言われた言葉だった。 なのにあいつが言うだけで、こんなに重みを持つなんて。 『……そう』 (なあ、知ってたか) 『心配するなよ、』 (お前にそう言われて本当に死にたくなるくらい、) 『俺、転入生もお前もどうでもいいから』 (お前のことを、大切だと、思ってるんだよ) 暗い部屋の中、独りそっと目を閉じる。 もう、疲れた。 制裁でボロボロになった身体を横たえて、眦に感じる熱がこめかみを伝う感覚を追う。 ――それでもまだ、信じてるんだ。 『どうでもいい』 俺がついたたったひとつの嘘を、あいつはきっと見破ってくれるんだって。 |