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◇ ◇ ◇
どうしてこうなったのだろうかと深く深く息をつく。
そんな僕の態度が気に入らなかったのか、目の前で僕を見下ろす彼はそのお綺麗な顔を不快そうに歪めた。
「聞いているのかい? 春樹を制裁した件についての謝罪が聞きたいのだけど」
「………」
ああ、本当にどうしてこうなったのか。
放課後に校内放送で呼び出されて向かった生徒会室、そこで役員達の鋭い視線を受けながら僕はぼんやりとそう考えていた。
始まりは一人の転入生。
社会性というものを母親の胎内に置いてきたんじゃないかと疑ってしまうほど自分本位な彼は、たった一月でこの学園をものの見事に崩壊させた。
金持ちの子息が集う学園で、考えられないような不潔な格好、マナーの悪さ。
学園の風習を全否定し、そのくせ生徒に人気のある美形達を落とし、身近に侍らせて。
我慢ならなかった親衛隊が忠告のために呼び出せば、過剰防衛を働いて全員を病院送りにし、なおかつ叔父の理事長に泣きついて退学に追い込む。おかげで一ヶ月の退学者数は過去最多を記録した。
うまく機能しなくなった学園の中枢、積もる怨嗟の念。
淀んだ空気が学園を取り巻いて、――それでも僕は、ただ静観していた。
僕は"彼"――八城慧斗(ヤシロケイト)の親衛隊長で、あの人さえ無事に過ごせればそれで良かったから。
予想もしていなかった、あの人まで転入生に惚れ込んでしまうなんて。
本家の跡取りと目されている彼は、家業の手伝いのために学園を離れることが少なくない。今回もそうで、彼は転入生に一週間遅れて戻ってきた。
僕はそれとなく転入生との接触がないように誘導していたのだけど……一体何処で何があったのか、次の週にはもう、彼も転入生の取り巻きの一人と化していた。
―――その光景を見た時、僕の心を満たした感情を、一体何と形容すればいいだろう。
憤怒?
焦燥?
憎悪?
失望?
否、あれは。
あれは、きっと安堵に近かった。