「やーん、あの子可愛くない?」

「ああ、本当だ。まだ小さいな」


(……)

身を伏せたままピクリと耳を動かして、フン…と鼻を鳴らす。
すると、そんな会話をしていたカップルがカカシの方に目を向けた。

「おっきいー。これって成犬ですか?」

「そうですね。ただ、性格的には大人しいですし、吠えたりもしませんよ」

「へー」

店の主人とそんな話をしつつ、若い女性がしゃがんでガラスケース越しにトントンと指を叩いた。
こちらを見ろということらしい。

(……)

それにカカシはチラリと目をやったが、いつもの如く別段動きはしなかった。


「ありがとうございましたー」

三十分ほど経って、出て行ったカップルの手には今流行りのトイプードル…その生後数ヶ月の子犬があった。

嬉しそうに肩を並べて帰って行く。

それを見て、店主はハァ…と溜め息をついた。
ジトリとした眼でガラスケースを振り返る。

「カカシ。君いっつも言ってるでしょ。もっと愛想良くしろって」



――ここは、『ペットショップ波風』。

看板通りの犬猫をメインに扱っているペットショップである。

その店主、波風ミナトの悩みの種は今言ったカカシ――
綺麗な銀色の毛並みを持つ血統書付きの大きな成犬だ。

その珍しい毛並みが目を惹き、客は大抵カカシの目の前で足を止めるのだが、カカシはどうも人間があまり好きじゃないらしい。
まるで興味を示さずやる気もなく、ペットショップに来た頃は成犬とまではいかなかったのにこんな状況を繰り返している内にすっかり大きくなってしまった。

こうなると余計買いたいという客もいなくなり、売れ残る日々。

後から入ってきた子犬達がどんどん買われていくなか、カカシは数年とこの『ペットショップ波風』に留まっている。
何だか可哀想でもあり、大人しくジッとその場から動かないその様は畑などにいる案山子のようで、ついついそんな名前までつけてしまったが、
反面、餌代もバカにならず、ミナトはカカシをどうすべきか最近特に悩んでいた。


「クシナ、今日もカカシはダメだったよ」
「もーあの子にも困ったものね…」

ミナトとその妻…クシナの会話を耳に入れつつ、聞き飽きたとばかりにカカシはクァ…と大口を開けて欠伸をする。

ミナトには悪いが、カカシとしては今の生活で別段不自由はなく、腹が減れば餌は与えられるし、ガラスケースは少し狭いがまだ我慢はできる。

嫌なのは、どこの誰とも知らない人間に飼われ、首輪をつけられ玩具代わりに芸を教え込まれたりすることだった。

血統書付きということで生まれてすぐ海を越え、このペットショップに運ばれてきたが、賢いカカシは物心ついた頃にはもうその考えをもっており、
日常をやる気なく振る舞っている理由というのも、それにより人間が自分を諦めてくれればというのが大きかった。









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