そんな、ある日のことである。


「カカシ、ケースが足りないから悪いけど一緒だ。虐めるなよ」

いつものように身を伏せていたカカシがミナトにそう言われ、顔を上げそちらを見ると、金色の小さな子犬が居た。

(新入りか…)

タイミングが悪いと、たまに同じガラスケースの中に二匹入ることもある。
通常大型犬と小型犬を一緒には入れないのだが、ミナトはカカシに信頼を寄せているようでたまにこんなことをするから困る。

しょうがないからカカシは相部屋になった犬にはいつも当たらず触らずのポーズを貫いている。

…のだが、

『初めましてってばよ!』

その子犬は長いとは言えない足で跳ねるようにカカシに寄ってきた。

『おにーさんおっきいな!それにすんげー綺麗な毛!』

小さな尻尾をちぎれんばかりにブンブン振って、興奮気味にカカシを見る。

『……』

子犬はカカシの三分の一ほどの大きさほどしかなく、擦れてないのがよくわかる。
こういうタイプはすぐ人間に気に入られ、飼われていくのだ。

フン…と鼻を鳴らしたカカシは興味ないとばかりに前足に顎を乗せてガラスケースの向こうに見える道路に目をやるが、子犬は走ってその前に回り込んできた。

『あのさあのさ!俺ってばナルトって言うんだってばよ!おにーさんは?』

『…名前なんて、別にないよ』

『嘘!さっきこの店の人“カカシ”って言ってたってばよ!』

…聞いてたんだったら、訊くなよ。

(こーゆうの面倒臭い…)

五月蝿いのは嫌いなのだ。
些か不機嫌になったカカシは身を伏せたままナルトと名乗ったその子犬をジロリと睨む。

『年功序列って知ってるか?黙ってないと痛い目見るぞ』

追い討ちに、クワッと牙を剥いてやった。
勿論、何かする気などないのだけど、黙らせる為のちょっとした脅し。

ナルトはそれにアングリと口を開けてカカシを見つめ、
次の瞬間、激しく尻尾を振った。

『すんげー!かっくいー!!』

『は?』

思わず聞き返すカカシに興奮したように

『それってばどうやんの!?こう!?こんな感じ!?』

尻尾をフリフリと振って叫ぶ。
挙げ句、カカシを真似てクワッと牙を剥いてみたりして。
『どう!?どう!?』
と訊いてきた。

成犬で大きなカカシを真似てやってみたところで、小さなナルトのなりでは到底じゃれついているようにしか見えないし、迫力もまるでない。

しかし、それよりも何よりも…


(……いかん、コイツ…、バカだ)

そんなナルトの突拍子もない行動に脱力したカカシ。
厄介なのが入ってきた、とそのフサフサとした銀色の尻尾同様、グッタリと項垂れた。









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