影分身が笑う








「ハ〜〜〜〜ア……」

ベッドに腰掛けて項垂れ、深い深い溜め息をつくと、目の前に立っている男が「何、その顔」と面倒臭そうに言った。

「俺を出したのはお前でしょうよ」

鏡に映したような顔。
反響したような声。
全く同じ自分自身、はたけカカシが目の前に居る。

――影分身。
任務から上がったその足で、自室にて印を結び、彼を出したのは勿論カカシだ。

「いや……俺、何やってんだろうって」

自己嫌悪して顔をしかめれば、影分身の自分が「フッ」と鼻で笑った。

「何って、何考えてるかは自分が一番分かってるでしょ。……ナルトに触りたいけど触れない。俺に変化させて、ナルトの代わりをさせたい。それだけだろ?」

口に出してもいないのに、全て見事に言い当ててみせるのは、それが自分自身だからだ。
分身する前は、意識も思考も共有されていた。
影分身として出されたカカシの方からすれば、今更綺麗事を言うなという話らしい。

全くもって、その通りだ。
想いを寄せる部下のナルトは無邪気にカカシに懐き、近頃はその髪を撫でてやるだけではおさまらなくなってきた。
頬に触れたい。唇に触れたい。
キスしたらどんな具合だろうか。
その先は――……。

任務帰りに一楽に寄ろうと強請るナルトに腰にしがみつかれ、堪らない気分になって振り切って帰ってきた。
欲求がおさまらず、頭に過ぎった邪な感情を抑止出来ず、勢いに任せて影分身して今に至る。

「カカシ先生、カカシ先生って……無邪気な顔して、あいつは全然分かってないよねぇ。あいつが慕ってる先生は、尤もな先生づらして、家では股間おっ勃ててるんだから」

「言うな」

自分が考えそうなことではあるし、考えていることでもあるが、声に出されて言われては不快だ。
影分身の己に顎を掬われ、口布を引き下ろされて眉を寄せた。

「触る前に変化しろ。自分に触られても気持ちが悪い」

「同感だが……俺だって自分に触られるのは気が乗らないよ。俺がナルトに変化したら、ヤるでしょ」

「そこまではしない。……多分」

「ハイハイ」

信用していない口調で頚の後ろを掻いて、影分身のカカシは印を結んだ。
ボフンと煙が立ち、ナルトが現れる。

オレンジ色のジャージに、眩しいほどの金髪。
空のように青く澄んだ瞳。

自室にナルトを入れたこと自体、あまりない。
そこにナルトが居るという事実だけでドキドキと胸が逸り、興奮した。
こちらを真っすぐに見据えたナルトが口を開く。

「……随分いかがわしい眼で見てくれてるけど、俺がお前自身だってのは分かってるよね?」

呆れた口調とその喋り方にハッとした。
一瞬、忘れていた。

「……分かってるよ」

落ち着いて見てみれば、様相は確かにナルトそのものだが、眼が冷めており、仕種もナルトらしくない。
本物のナルトではないのだから、ナルトらしくない、という言い方も違うかもしれないが。





前へ 次へ
戻る1/5




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -