「横に座ってよ」

ポンと自分の隣を叩くと、ナルトが嫌そうな顔をした。

「エロいことしか考えてない……か。ま、そりゃそうだな」

ナルトらしさの欠けらもない口ぶりで呟き、隣に腰掛ける。
これが自分自身の影分身であり、ナルトではないことは甚く分かっている。
空しい行為であることも。

だが、隣に座ったナルトはどうにも可愛かった。
カカシより十センチ以上身長が低く、発育途中な為、肩幅や厚みなどもまだ頼りなさがある。
クリクリとした瞳で見上げられると、自然と手が伸びて頬に触れた。

「……」

ナルトは何も言わず、静かな眼でカカシを眺める。
輪郭を指先でなぞり、唇に親指の腹で触れると、プニッと柔らかい感触が皮膚を伝った。
桃色の唇が薄く開く。

「何て言うか……我ながら変態っぽいな」

かけられた辛辣な台詞に、カカシは眉根を寄せた。

「いちいち水を差すなよ」

「そうは言っても鼻息荒くして触られる方は結構いい気分しないからね。……ま、時間限定だ。演技くらいしてやるよ」

ふう、と一呼吸置いて瞼を閉じ、碧の瞳は再びカカシに向けられた。

「カカシ先生」

カカシは、ナルトに『先生』と呼ばれるのが好きだった。
慕い、尊敬しているからこそ紡がれる敬称。
同時に、そんな相手に劣情を抱く自身に背徳感を感じ、奇妙な高揚感に包まれる。
それが分かっているから、影分身は敢えてその言葉を使っているのだ。

「先生」

「ナルト……」

揺るがない眼差しのナルトに吸い寄せられるように顔を寄せた。
頬を撫でた手は肩に回り、唇を重ねる。
相変わらずナルトは冷めた眼をしていたが、避けず、却って口を開き、カカシの唇を柔く食んだ。
誘うような仕種。
本物のナルトであれば、果たしてこのようなことが出来るか分からない。
されれば、逆にカカシは切なくなるかもしれない。

ナルトに卑猥な妄想を働かせる一方で、汚れて欲しくはないと思う。
否、汚すのは自分でありたいのか……。

「ん……」

口づけを交わしながらベッドに押し倒すと、ナルトの腕がカカシの頚に回った。
唇の間で舌が触れ合う。

(――ダメだ……)

全て忘れそうになる。
相手が自分の影分身であるということも、頭から飛びそうだ。

頚に回る腕を解き、上体を起こして荒々しくベストを脱ぎ捨てた。
床に落とされるベストに視線を流し、ナルトがカカシを見上げる。

言及はしなくとも自分自身であるから、限界なことは百も承知だと思う。

ナルトが好きだ。
触れたい。
キスしたい。
――抱きたい。

もう我慢出来ないのだ。
このままではいつか箍が外れ、本物のナルトをそうしてしまいそうだ。
口車に乗せて自室に連れ込み、力にものを言わせて抱く。
きっと出来る。
だが、したくない。
ナルトを悲しませるようなことだけは。

一過性の欲を、自分自身の影分身でやり過ごすことは、抑止となってナルトを守る。





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