さらさらと霧のような雨が降っている。

「ダメよ、関わっちゃ」


こちらに寄って来ようとした少女の手を引っ張り、母親が制止した。
「どうして?」と訊く子供に「いいから」と言って、汚らしいと言いたげな目をこちらに向ける。
遠ざかって行く二つの傘を眺め、ナルトは小さく息をついた。

(なんか、昔に戻ったみたいだってばよ)

蔑むような目、冷たい視線。
遠巻きに眺め、決して近寄っては来ない人々。

少年時代のナルトが嫌というほど経験した辛い記憶。
時を経て、木ノ葉の里を救ったことから英雄などと持て囃される存在になったはずだったけれど――現在のこの状況は、自業自得だ。




お持ち帰り





「ダメだって言ったらダメだ!」

「なぁんでだよ、イルカ先生のケチ!」

ナルトが狐のように目を細め、口を尖らせていたのは、本日の昼過ぎ……かれこれ二時間ほど前のことだ。

「お前のことだ。変なトラブルに成り兼ねん」

「大丈夫だってばよ、ただ巻物見るだけだって!いい加減、暇なんだってばよ。せっかくの休暇なのに、雨ばっか!外にも出れねーし、この機会を巻物の勉強に活かそうっつーことの何がワリィの!?」

ナルトは受付所に居るイルカに不平を述べ、イルカは如何にも先生といった風情で首を横に振っていた。

「アカデミーの書庫に置いてある巻物は、禁術も含んでる。面倒になったら大変だからな」

「だからー面倒なことになんかならねえって」

「ナルト、しつこいぞ」

ぶうぶうと文句を垂れても、まるで相手にしてくれない。毅然として譲らないのは、ナルトのもう一人の先生であるカカシより明らかだ。
ナルトの後ろに、受付に用がある忍が来たことに気付き、イルカは「行った行った」と手を払った。

(……)

ナルトは憮然として後ろに下がったが、部屋を出て、続く廊下を眺め、ふと巻物や古書が置かれる部屋のある方向を眺める。
廊下に人通りはない。
イルカの方を窺うと、イルカは報告書の受取を兼ねて、同世代の忍と笑顔で話し込んでいた。

一度、ペインに破壊されてから、木ノ葉の里の重要文書を保管する部屋も、前ほど厳重ではない状態だ。
単純に手がそこまで回っておらず、手薄なのである。
ナルトはにやりと人の悪そうな笑みを浮かべ、忍足で禁術の巻物が置いてある部屋へと足を差し向けた。

横開きの扉を音を立てないようにそっと開き、中を覗き込む。
薄暗い倉庫には、これが禁術の巻物の扱い方かというくらい雑多な様子で、数箱の段ボールに山のように積み重なった巻物が置いてあった。
巻物の匂いなのか、古臭い匂いが立ち込めている。
ナルトは鼻の前で手を振って奥にある窓を開けた。

薄暗いのは、部屋の日の当たりが悪いせいではない。
空に雲がかかり、外自体が薄暗いのだ。光が入らない。
電気をつけようと吊されている電球に足を踏み出すと、巻物が山積みの段ボールに蹴つまずき、バサバサと巻物数個が転げ落ちた。

「一応、重要な巻物なんだよなーこれでも」

ひでぇ扱いだな、と一個、二個、と元の位置に積み上げる。
三個目を拾おうとすると、巻物に巻かれていた紐がぶつりと切れた。
元々、切れ掛かっていたのだ。

「あ」

バラッという音と共に巻物が開く。
その途端、ナルトの視界はぐらりと歪んだ。









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