身体に言い知れぬ衝撃が走り、心臓がばくんと弾む。
何が起こったのか分からなかったが、衝撃によって反射的に目を瞑った。

辺りには、静寂が立ち込めていた。
いや、正確にはナルト自身が動きを止めたから、この部屋が静かになったというだけのことかもしれない。
実際、少し離れた受付所からは忍達の生活音が聞こえ、窓の外からは、しとしとと雨音が聞こえた。

ナルトは恐る恐る目を開けた。

(……?)

最初に目に入ったのは、先程の巻物だった。
開かれて転がっている。

けれど、地面に転がっている巻物と自分の距離が異様に近い。
その後で自分が倒れているからかと思った。倒れた覚えもなかったが。

(……何だ?)

部屋にある巻物、巻物の入った段ボール、部屋、部屋のドア。全てが先程より大きく見える。天井が異様に高い。
違和感を覚えて立ち上がろうとし、自分の手が目に入った。

「……」

毛むくじゃらで小さな手。

「ニャ、アア」

(!?)

は、何だってばよこれ、と口に出したつもりが、出たのは猫の声。思わず息を飲む。

しまった、やってしまった。
いや、違う。俺は何もやってねぇ。

焦りのあまり、相反する考えが頭の中でぶつかった。

勝手に禁術の巻物のある部屋に入ったのは「やってしまった部分」だが、部屋に入ってナルトがやったのは窓を開けて電気をつけようとしただけ。
そうしたら粗雑に積まれた巻物が崩れて転がり、勝手に開いて発動した。

どちらにしろ、イルカには怒られるだろう。
だから言ったんだ、と説教されるのは間違いない。

(とにかく、この巻物だよな……)

紐が切れて勝手に開いた巻物。
この巻物が、ナルトを――この手や声からして恐らく――「猫」にしている。
解術を……そう思い、目を通そうとした時、


「コラッ!!」

(……!!)

誰かに大きな声で怒鳴られ、ナルトは心臓が口から飛び出そうになった。
肩を揺らし、顔を上げると、イルカではない……だが、アカデミーで何らかの仕事に携わっている忍だろう。木ノ葉の忍装束を纏った忍が仁王立ちで立っていた。

「ったく、いたずらしやがって!猫が入って来てるじゃないか、誰が窓を開けたんだ?」

「ニャ、ニャニャ!(ちが、違うんだってばよ!)」

誰かが窓を開けて部屋を離れ、そこに外から野良猫が入って来て巻物にいたずらをしたと思っているのだ。
勢いよくこちらに足を踏み出され、ナルトは尻込みした。
獣の身体……しかも、猫となれば大きくはない。その状態で見上げた人間は大きく、ひどく威圧感がある。

「ホラ、出てけっ!しっ!!」

「ニャ(ちが)」

しっしっと払う片手間に、忍が、ナルトをこんな姿にした巻物をぐるぐると巻いて段ボールへと積み上げた。
その巻物がないと――というか、どの巻物か分からなくなると、後々厄介なのではないか。

立ち去るわけにはいかないナルトは再び巻物に寄ろうとしたが、手を振り上げられ、慌てて窓へと飛び乗った。

「ニャア!」

「本当……困ったもんだ。戸締まりはきちんとするよう通知しておかなきゃな」

桟で身構えたのも束の間、両脇を抱えられたかと思うと、そのまま外へと放り投げられる。
自衛本能はあるが、何しろナルトだって猫にはなったばかりだ。
ぎょっとし、かろうじてニャンクルリをして地面に着地した。

直後、背後でパシンと窓が閉められ、鍵をかけて忍がその場から離れるのを見た。









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