深淵 | ナノ


同時に飛び交うは、活かしきれた経験と、活かしきれなかった経験。

天使通り越して女神なんて、当たり前だけど柄じゃない。あくまで油断大敵だと思ったから。それだけ。そして、これが前者だった。

――じゃあ、後者は?



13.煉獄と宵闇の救出劇。その代償は、



「いやいや待てェ!待つんだ私ッ!!」


最大火力ならぬ最大氷力で自身に氷雪を纏い突撃したザレッホ火山、火口内。

しかし当然、私自身が空間移動術で火口内に突撃した際拾いに…助けに、来たってのにいきなりあーれー…的にマグマボチャン!じゃ笑えない上に本末転倒、恐らくいや確実ジ・エンドなので宙に浮きながら安定しそうな足場を狙って着地し……ようと、した。

そこまでは、良かった。

ここまで来ておきながら、空中浮遊を見られて困るなんぞ今更言ってられんし言うつもりも更々ない(二人ともそれどころではないだろうけど)、そして人の命、それも一人じゃなく二人分かかってる、それもわかってる。

それに今回限りの邂逅で私と二人の関係は終わりなのだから。いや、終わらせるのだから。

そして、廃棄されると知りながら見てみぬフリなんて、ただの人間なら手がないだろうから仕方ないで終わらせざるを得ないだろうが、幸とは死んでも言いたくないけれど今回の場合から見ては不幸じゃなかった私にはこうして手があるからこそ無視出来ずにここへ、私は来た。
…のだから、空中浮遊くらいは許容の範囲とするしかないと思う…のだけれども、このたった一度の接触に於て見逃してはならない、許容する訳にはいかない点があった。

…私が神託の盾騎士団にて、労働を続ける限り。


「(それにしても、よく平気だったな二人とも…上手い具合に岩場へ落ちたってコトか)」


ところでこの灼熱地獄についてだが、流石火口内ってだけあって辺りはマグマに囲まれ、例えとして比較するなら…そうだな、1日を終えた深夜、音素灯・この世界での照明を絞り足許が見えるか見えないかという教団内の廊下よりは余程明るく、夜目は必要ない程といった感じだ。どちらにしても夜の眷属な私には関係のない事ではあるけれども。
おかげで二人を見つけるのも、波動で位置ははっきりしてたとはいえそれらも手伝い、造作もなかった。

そんな彼らは溶岩に飲まれる事なく、岩場の影で辛うじて生きてるのが見える。…いやまあ言ってしまえば、波動で生存確認が取れてたからこそこうして赴いたんだけども。

無論二人ともぐったりしてるけどつい心配になって波動をモード切り替えにより一瞬感知してみるに魂がしっかりすっぽり身体(器)に収まってるっぽい事から判断するに、命に別状はなさそうだった。火傷や落ちた衝撃だろう、最低限着せられてるといったような薄っぺらなワンピース型の服――教団に来た初日のアリエッタみたいだといやそれよりも検査の際に着るような、どちらにしても彼女のよりは下な材質な気が……ああやだやだ、きっとそこら辺のぞんざいさからして始めから…あんま言いたかないけど、能力が劣化してるコには廃棄処分を採るご予定だったからこそってか――から覗く腕や足に幾つもある打撲や擦り傷は、私のアホみたいな人外仕様の一つ(山を見下ろす雪女然り吸血鬼五感然り悪魔・天使然り…多すぎて涙目だ)、およそオタッキーな人間にゃぶっちゃけ絶滅危惧種なんじゃね?ってレベルをまた殊更遙かに超越しちゃっとるぶっ飛んだ視力で確認するに、結構酷いみたいだけど。骨もイってるかもしれない。見た目じゃそこまで変な方向に曲がってはいないみたいだが。…うへー、肝冷やすとこだったぞ…。


「(氷雪は、消した。幻覚も、よし。問題も、不具合だってない。あってたまるか)」


――で、何かさっきから助けに来たにしてはおかしくないかと。何をもたついてるのだと。
そもそも何故、彼等に触れて症状を診るのではなくいかにも、遠目で視てますっていう表現を用いてるかというと。

私の視界に二人ともしっかり入ってる。それは間違いない。じゃなきゃ服装云々までわかりゃしない。
波動じゃどう頑張っても肉体の状態までしか判断できない、何を身に纏うかまでは流石に逆立ちしても無理な次元。しかし魂の抜け具合はわかるんだ、かなり集中すればどれだけ傷付いてるかは視れるし感じ取れる…のだけど、この灼熱地獄に耐え抜かなければならない今の過酷な状況下でそこまでTPいやどちらかというとHP?とにかく体力を消耗する事はさけたいので視力に頼るしかない。

よって、対象者の二人に私は目を落とす。

…そうなのだ、私はまだ、彼等が今にも死にそうって程…絶体絶命ではないと、今すぐ治癒術直行しなくてもほんの僅か時間をおいても大丈夫だろうと波動で視て、実際にも見て――遠目に値する位置、火口内の上空つまり空中から二つの深緑を見下ろしていたのである。


「おわっ!?フー…全く、油断もスキもあったもんじゃねー…」


いくらここが暑かろうとも流石に雪だるま状態のまんま彼等に直接触れる訳にはいかないので、一旦氷雪はご退場。

だけどその瞬間、急に滅され吹雪の如く辺りに舞い散ったそれと、あえてそこ狙ったのかよコノヤロウと言わんばかりに私の身体に吹き付けてきた火口内を象徴するかのようなマグマから発せられる私にとってありえない、防御術もなんもなかったらこの刹那の内で融解即死な熱気に煽られ、無論咄嗟によけはしたのだけれどその際視界を掠めた私の――普段の、教団のそれもここ最近約1ヶ月の間、引っ張り蛸級な激務のおかげでケアしてる余裕なんかなくてパサついた、“名前顔”の髪の毛ではなく。

髪の毛に良いとされるありとあらゆるモンを毎日摂取しすぎたんじゃないですかと、ビューティーヘアー選手権とか出たらぶっちぎり第一位ゲットだぜ!ってくらいにはこの世のどんな上等なシルクでも敵わないような私の――第二の人生時に於て、私が望みもしないのに享受するハメに陥った“美人顔”と共に私に備わった髪の毛が表す、今の私の状態。姿。

今の状況は言うなれば、あの瞬間に似ている。

イオンに変化つまり忍術による――“姫似顔”がバレた、あの…今日(こんにち)にまで続く事態に陥った、ある意味事件の始まりとなってしまったあのひと月前、私自身の魔術でほっぺを叩き付けてきやがった(や、原因は魔術の手加減をしなかった私なんだけどさ)さながら人形の如く現実離れとしか言い様がない程ずるっずるに伸ばしてるあの髪の毛を目にした一瞬間、普段の教団でのモノとは似ても似つかない見目形の確固たる証憑となった、あの時。


「(…やれやれ、まさかここに来てこの――二回目人生時の、どこの絶世の美女サマだよってカンジの姿に……忍術を用いて変化する事に、なろうとは)」


私がもたもたしてたのは…とは言っても忍術で変化ーなんて、はいドロン!と刹那にして完了だし彼らの様子見も瞬間的に終えたから合計したところで時間にしたら然程ではないのだけど――私が、忍術を用いて『二回目の(整いすぎてるって点が)異常な姿』に一旦変化を遂げてたからだった。


「あと、は…声も、オッケー(服も平凡且つ動き易いのにした。そんで瞳は…うん、ちぐはぐだ!…明るく言うコトじゃないがな!)」


そうして見た目もさる事ながら、声も特に留意する必要があった。さっきのビビり声と独り言でわかってはいたけど、確認の為もう一度発声してみる。
方法としては、幻術でも相手の脳に訴えかけるから誤魔化せるが変化なんて出来ちゃう忍術ならもっと簡単に変えられるってだけである。いやだって、それこそダアトの街中で姫似だったにも拘わらず即座に私だとイオンに察知された原因は、“声は同じ”だったって部分も含まれてた。つまりそこからこの二回目の異常顔な私に結びつく可能性も否めない。
ああそう、声色はどこの美声の持ち主だよってくらい玲瓏且つ鈴まで転がしちゃうようなお声でございます。なんつーか、万人受けしそうな萌えボイス?でもじゃなきゃ一応はこの作りモンみたいな造形の見た目に合わん。いっそイオンのあのお声をおなごバージョンにしたようなカンジ?だからって色々イロイロ自分でやらか(試)したりはしないけど。アレ(がナニかはあえて省く)はイオンにやらせるから夢があるんだし……ってめっちゃ話ズレたついこの場に彼がいないからってちょーしこいたわ(まつわるコ達?…ハハハ!)。いくらこのぷりちぃうぃっちぃ姿な上挙げ句私自身魔女っ子だからって想像する方向がマズかった。

…まあ何にしてもだね、変化を必須とするもっと最たる理由は後述に伴うんすよ。
今あえて言うなら彼等を連れて教団に戻るのに対し、目撃者完全回避は夜とはいえ深夜ではない現在の時間帯からして難しいって事。

あと、これも結構大事だと思われる、身に纏う服にしてもいつものピンクーい導師守護役服ではなかったりする。何故ならそんなんで行動しようもんなら万が一にも目撃者がいた場合(勿論そうならんようこれからさっさとずらかる予定だが)要らぬ疑いを招く事請け合いだからだ。二人に記憶されても困る。
だってコレ30名にしか許されてない品モノだもの。いくらその昔、私が導師守護役になりたての頃イオンのお気に入り(と曲解されてた)だった私を他のおにゃのコらが白眼視してきたからといって私の迂闊さでそんな関係ない娘達に疑いと最悪レプリカ情報漏れたんじゃねこうなったら全員消すしかないんじゃね?なんてイオンのレプリカ作戦でのグルども(=上層部ら辺。私ゃ預言野郎しか知らないコトになっとるが)からの証拠隠滅っつーデカすぎる火の粉(それこそ確か…昔私が平穏ぶち壊しの気配により背筋を震わせた特大ファイアボール級)ぶっかけてどうするって話だろうよ火山なだけにってか笑えねーよ。
つーかな、そもそも導師守護役にはアリエッタも含まれてる。何の為に彼女に真実を告げてないと思ってんだ。そりゃ近い内にイオンの病気はきちんと完治させるつもりだ、だけどその前に彼女にバレでもしてみろ。それこそ発狂しておかしくなっちまう。あの娘はさあ、イオンの事、大好き……通り越して愛してるんだから。まだ野生化の煽りで子供チック(キャワユイから良いんだけどとゆかそのままでいてほしいっつーのが私の本音だ)なコだから本人はわかってないだろうけどきっとそれと遜色ない程の感情をいだいてる。そして、逆も然り。つまり紛う方なき相思相愛。
……うん、何かつい語っちゃったけどそんなカンジだから導師守護役服を作戦コスに選ぶワケにはいかなかったって話ね。

でも…更にぶっちゃけた話、まじで導師守護役全員アリバイ調査ーなんて事態になった日にゃ本日この夜それを証明できないのは、アリエッタとアッシュを筆頭に「私今日任務行(逝…今回のような最悪ダンジョンでなくともしばしばこの漢字が当てられるのさ…)き」と周りの仲間達に口頭でしか告げてない私のみ(つまり明確な証拠がない)なんだろうから、結局私自身の為になるってオチだったりする。…つくづくヤなヤツだな、私(保身が恋人ってコトですよいやしかしイオンとアリエッタっていう素敵カップルから考えて私どんだけだ)。

…色々ペラペラしちゃったけどもそれらからして、このオールドラントでも浮かなそうなしかし機動力を損ねないような地球風で例えるところの…Tシャツ短パンコスを取ったのである。手足にょっきり晒してマグマとか大丈夫なのかよ?って疑問はしかしそこは防御術ありきだ。よって長袖長ズボンは私にゃあっついからっつー単純な理由で却下しても問題なかった。

あ、それこそ適当な教団服にしなかったのもダアトから目を逸らすためだったりする。今だけ私はどこともしれぬ地の住人設定だ。
…むしろ中身は世界規模で別次元出身だがな。


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