深淵 | ナノ


そして最後の部分、瞳の色。
カオ変えてんだから深紅のままで良い気もするんだけど、洞察力のある人間に同じ色の双眼を持つからって何か勘づかれるのは御免なので(例を挙げるなら血縁者疑惑とかだろうか。異常美女と不思議顔立ち=地球産ってだけだけど……彼女とナマエ謡手に何の繋がりが!?とな…おおコワ…)念には念をって事で、もういっその事とオッドアイにしてしまった。
や、だってオッドアイを引き継いでる現在の私は変化を解くだけでこの両目血の目じゃなくなるだけなんだし。つまりラク。全身変化しといて言うのも何だが、ここは一応灼熱地獄だから気に留めなくて手間が省けるならそれに越した事もない。TPの無駄遣いはさけようってこった。

…しかし、これでほぼまんま二回目の異常姿になってしまったワケだが。
何というか、激しくここまでTシャツ短パンがミスマッチな容姿もない気がする。自分で言う事でもないし言いたくもないがこの整い具合こそまさに母のあの趣味がピッタリってか…。

――だけども何故、ここまで七面倒くさい、しかも異常っぷりからして目立つであろう変化なんぞかましてるか。

まず二回目の姿が私にとって、ある意味というか人生の長さ的に、まじくそ不本意極まりないのだけどそれでも、名前顔よか実のところ変化しやすかったりするからってのが一つ。どちらにしても名前の姿を匂わせる訳にはいかないから変化せざるを得ないが、とりあえずそういう事だ。そして言ってしまえばこの異常姿が一番私にとって易いからこそ、この灼熱地獄において最も有効手段なのである。TP節約って点で。

そして二つ目。
これが此度の珍変化の原因にして、最たる狙い。

イオンのレプリカである二人…特にのちの――六神将の一人になるであろうどちらかに、私の印象を1ミリたりとも、残すワケにはいかんだろうよ。

や、だってさ、何で助けやがったこんの腐れ導師守護役めが(イオン口調だったと記憶してるからそんな言い方はせんだろうけども)とかさ…よってさっき考えた決定的な内容に繋がるんだけども――今のところ神託の盾騎士団にて社会人生活送る予定(一応は)バリバリな私にとって、バレたらそれこそ延々恨まれ憎まれ虐げられ生活とかフツーにイヤすぎるもの。
モチのロンで出くわさんよう全力で教団内外逃げ回るけどももしもだ、あえなく取っ捕まりでもしてみろよ胃痛(精神的)じゃなくボロ雑巾(物理的)にされんの確定だろ?…問答無用で拳か(確か彼は格闘家だ)それともおっとどっこいダアト式譜術?(これも確か…彼も使えたよね)。イオンみたいに音素無双なんて可愛く済む(命が無事って意味でね…第五音素も所詮死には、しないし…対照的に両目は第四音素まみれだが)ハズないよね確実に?で、また延々とさ、ブッ殺されるまでまあそこまでねちっこくないかもだけどそれでも最悪地の果てっつー外殻大地通り越して魔界(クリフォト)とかにまで追われ続けでもしてみろよ死亡フラグゥ!なんてぶっこくいとますらないんだよきっとあああやっぱりコワいコワすぎる…!
だってあのコ……生まれた事すらすげームカつく!みたいな?まあそんなカンジのツン(デレ…はやっぱなかった…ような…)のコだったよね?ぶっちゃけある意味主人公と真逆な立ち位置、的な?

…あーあ、それでもだよ。
私から見て、ただのレプリカじゃなく…イオンにまつわるこのコ達に、何だかんだ言いつつも呪術で記憶を塗り替える邪道を取れない私は、


「…じゃあ、今度こそ」


だからこそ、最初・冒頭にて、私は私に待ったをかけたのである。





「おーい二人とも大丈ー…ぶっ?!……あー…、」


「…っ!」
「…うっ…」


「…、あんた意外と元気ねー…。こっちのコはあんま大丈夫じゃなさそうだけど。…でも悪いけど二人とも治癒術は待っててよねー…って通じない、かあ…。
それにしても…あっつー…」


前置きちょー長くなったけど実際今の私はだね、君らより死にかけてる気がすんの恐らくね、ウソじゃないと思うんだ。
…うん、だから本当ごめん二人とも、さっき治癒術直行とかほざいたけどあれフツーにムリだった。
…少なくとも私が、火山から脱出しない限りは。

変化の済んだ私は二人の傍に空中からマグマをよけながら火口内の特徴故か赤茶けた大地に着地し、お互い2m程しか離れてなかった地べたに伏せる彼等の肩にそれぞれ順番に軽く手を置き揺すって声をかけてはみたものの、意識が朦朧としてるのか反応が薄い。

…ただしそれは、片方だけだった。
因みに一番目にゆさゆさした方。

もう一人のつまり二番目、残りの元気なコは何とまあ警戒心が既に養われつつあるのか肩に置いた私の手を上半身を起こし払ってきた――もしかして……このコ?まあ、それは置いといて。
ああ、これくらいで怒る程心狭くないつもりだよ私、だって中身年齢からしてわしゃー心の穏やかオバア…それこそ置いとくべきじゃの…。


「…や、やほー…?」

「……、」


彼の深緑と私の不揃いの眸が交わる。私の全貌に瞬間的に視線が走らされたのがわかった。特にニ色のそれらに注がれる時間は全身に比べ数秒程ではあるが長めな気がした。何でばらばら?とか思ったんだろうか。生まれたばかりで中身が赤子らしい、彼なりに。だけども弾かれちゃったくらいだし嫌悪感剥き出しにでもされるのかと思いきや、そうでもなかった。
何故なら心なしか「しまった」なんてカオをしたから。眉が一瞬ひそめられ瞳がうっすら頼りなさげに泳いだように見える。
私の動体視力と勘は長年の死地で得たモノだから、憶断でしかないけども多分合ってると思う。

別に気にしてないよ、という気持ちを込めてへらっと笑いながら挨拶してみる。言葉の意味はわからないだろうから無言だったけど、気まずそうに逸らされた深緑の双眸に敵意は皆無のように思えた。
こう言うのもどうかと思うけど…イオンと酷似したそのカオは、判断しやすい気がする。だって私だし。かれこれ11年親代わりやってきたし。

しかしやはり辛かったんだろう、払う気力しかなかったからこそ今度こそ彼と私の視線は交わらなくなった。彼の上半身がまた地面へばたんきゅー…ばりに逆戻りしたからである。

――しかしながら、ここにぶっ飛ぶ直前の衛星ルナや薔薇効果あっから防御術とか忍術は解けずに済んでるだけであって…本気(マジ)ですよ治癒術の余裕なさすぎるホント雪女ナメんな暑い熱い嗚呼溶ける私ドーロドロ。二人の肩に…まあ片方の手は残念ながら弾かれてしまったので寂しくぷらーん…と宙をさ迷ってるが…それらが防御術じゃ間に合わなくなってきて早くも柔らかくなりかけとるよどうしたらいい。
…うっわほんとどうしよ教団まで持(保)つかな私、いやこの際(このコらを持ち)帰ったら教団の食堂のデカ冷凍庫な倉庫(夥多なる兵数の食料確保に比例してメチャクチャ広い)に忍び込んで回復すんの待てばイケるかな。…このコ達を安全な部屋とかに隠してからいっそザレッホ火山と対極的なロニール雪山までぶっ飛んじゃう?暇ないけど。

あとな、地味に最近の重労働の疲労を引きずってるのも敗因なんだよ実は。まさかこんな非常(…むしろ非情か)事態に来てまで影響するとは思わなかったんだけどコンチクショー…。
…六神将になるっぽい(=ゆくゆくは地位ゲットだぜ!…この後に是非ともアレ言わせたいですね!)、この、マイハンドバッチン!してきたコに、今の内に労働基準法刷り込みたいとか考えちゃった私は間違ってないと思うのだがね。


「とりあえず、こっから出ないとだね…失礼、二人とも。
よっこい…くあーっ!もー…普段なら訳ないってのに……あぎゃ!」


ここが正念場、リアル火事場(だってここまじもん火山だもの…)の馬鹿力じゃあ!と二人の腰に手を回し両脇に抱える。何か呻き声っぽいの両側から聞こえてきたけど仕方ないんだよ苦しいだろうが我慢してくれ。

…いやだからさ何でじゃいアンタさっき大人しくなったじゃんかジタバタすんなよ意外と実はまだ元気だったっぽいコ未来の多分、仮面(仮)めがァ!
あーもー、もう一人はキョロキョロしてるだけなのに嗚呼何てカワイイもんなの…!?って痛い痛い手ェ叩くな爪立てんな引っ掻くな何でじ(略)こんなトコで個性発揮しなくていいと思うんだけど切実にィ!しかも溶けかけなせいで普段より爪食い込んじゃうよ大事すぎる私のッ血がッただでさえ貴重なのにあっ垂れたヒイィやぁめぇてぇ…!
…オイコラくっちまうぞ吸血って意味だがなそれかいつか絶対アレ言わせんぞこの仮面(仮)ヤローがァ!(対面はこれっきりだけどな!)。…扱いが悪くなってる?許す!私が!

…、…ハア…それでもしっかり抑え込むしかないんだけど、何故こんなまどろっこしい手段を取っているかといえば。
空間移動術は本来一人用、しかも悪魔だからこそ耐えうるというか適合する異空間の通過、つまりあくまで悪魔専用(狙った訳ではなくマジな話である)。当たり前だが生身の人間を巻き込んだりはたまたブチ込んだ事なぞないもんだからどんな弊害が起こるかわかったもんじゃない。よって使用不可。

だから私が二人を両脇に引っ提げたまま、飛んで上空数十m程に聳える火口、出口から脱出するしかないのである。

そしてそんな出口サンは、首を限界まで上に向けなければ確認できないくらいの高さに鎮座してると来た。…私はその付近をブンブンしてた訳だが。忍術変化にかけた時間からしてたった一瞬だったけども。

…にしてもさあ、こんな高さから落とされたなんてさぞ痛かったんじゃなかろうか。
本当はこんなガッチリ抱えるのも怪我に響くだろうから普通に可哀想でヤなんだけど、他に方法もないから致し方ない。
あえて言うが私ゃ、ザレッホ火山をクリアしたのは気の遠くなるような大昔。攻略の道順なんぞ覚えてるハズがない。一応教団に繋がってるってウワサをここに来て…要するにこの世界、神託の盾騎士団に入隊してイオンからコッソリ聞いてはいるけども結局それくらいの知識しか有してないかんね。空間移動術で火山の麓にショートカットかましたのはそのせいってのも僅かながらあった。…ま、たとえ詳しく火山内のルート知ってたとしても内部から攻めんのは私解凍フラグからして御免だったがな。しかも廃棄されんの待ち構えてもいるように見えて何かヤな話だ。

…だからほんと、私も(色んな意味で)けして出来た人間とは言わんけど人間をそれも、生きたままポイ捨てとか(かといって死んでりゃ良いってモンでもないだろうが)どんな神経してんだか。
レプリカ云々って時点で突っ込んだところで通じる相手どもでもないんだろうけども(研究員に近い内私の一番の得意系統、テイルズでいうトコのインブレイスエンド辺りとかくらわせても許されんじゃね?)。


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