深淵 | ナノ


ピジョンブラッドさながらに染まる真紅とエメラルドつまり翠緑玉。

こーらるまっぴんくな桜色。

……それと、



6.新たな接触、接触、そしてまた接触



それは私が神託の盾兵として奔走するようになり、既に10年の歳月が経ち私も15歳を過ぎた頃に訪れた、ある日の事件。


「――えーと、あなたの…お名前は?」


イオンともつまりは約10年の付き合いになるのだが、そんな彼に隠れるようにして引っ付きながらこちらを伺う――桃色をその身に纏った、おにゃのコ…幼女に。
私は冷や汗ならぬ冷や氷が全身のありとあらゆる汗腺から溢れそうになるのを止められなかった。

イオンの傍にいる限り、いつかはきたる出逢い、それがたまたま今日だったってだけなのだけど。


「アリエッタ…かな?」

「…、可愛い名前だねー…って何で疑問系?しかもイオンが答えちゃってるし…ていうか、このコどこのコ!?って、あっ」

「……っ」

「彼女、言葉がわからないんだよ。それに内気でしかも怖がりみたいだし」

「ありゃ、驚かせてごめんよ…ってか、え?通じないですと?」



「ていうかさ、僕もナマエの後ろにいるソイツがすっごく気に(入らない)………なるんだけど」

「(その間が私は気になるけども)そうだったそうだった。ハイ、じゃ挨拶!」

「……アッシュだ」


そして私も同じく原作的にアウトすぎる、さながら血の如く真紅を靡かせた人物を何と私自身で率いてきてしまってたりする。は?何ソレってカンジだよねうん、凄くわかるよ私が私に秘奥義的必殺技を出しながら一番問い詰めるべきだと思うよ。

つまり、状況をまとめるとこうなる。

――イオンが“幼女”を拾ってきたのは、彼が導師として正式に就任して暫く経ってからのコト。
――そして、私がイオンに“彼”を紹介したのも、奇しくも同日、同タイミングのコト。

そう、私が大声を上げたせいで質素なワンピースの裾を翻しながら(何だか最低限与えられたって感じである)イオンの影に完全に隠れてしまったそのコは、のちの導師守護役そして、六神将“妖獣のアリエッタ”(推定)。

そして、私の後ろでぶすっと眉間にこれでもかと言うくらいシワを寄せたまま私が背中を押してはみたものの結局そのまま無愛想極まりなく自己紹介したのが、主人公の被験者たる人物にして元貴族である、こちらものちの六神将“鮮血のアッシュ”(私が連れてきたのだ、言わずもがな確定)。

イオンの私室にて、私達四人は偶然か必然か一堂に会する、サプライズエンカウント的異様な空間を作り上げてしまっていたのだった。


***


今から2年前になる。
エベノス様の崩御により、ついにイオンは名実共に導師として君臨…じゃなかった就任した。

そして私も彼の有言実行(?)により、私へはお願いという形を取ってはくれていたけど、結局周りからしてみればイオン直々のご命令という大変名誉あるお達しによりイオン就任時からカウントして、一番乗りで導師守護役へと大抜擢される事となっていた。
断る気はないとは言った私が言えたコトではないのだけど――もうやばいなんてレベルじゃない。今更だけど、食い込みすぎた感が否めない(何にって勿論イオンとか原作的主要人物とかイオンとか…まあそんなトコだ)。

…エベノス様の事だけれど、彼は本当に眠るかのように息を引き取られた。老衰による、静かで穏やかな死だった。
流石のイオンも、彼の最期には涙を流していた。冷淡なところが目立つ彼だけど、エベノス様にはどこか気を許していたのだと思う。何だかんだで世話役だった私は一番イオンの傍に居たわけだけど、その次にエベノス様はイオンの近くにいて、そもそも私と逢う以前から(赤子で記憶のないであろう年齢と言えど)彼に良くしてもらってたのだから。
…大泣きはせず堪え忍ぶように嗚咽を漏らしていたから、あまり子供らしくはなかったけど。

そうして、イオンは弱冠8歳にして導師職に就き日夜執務に明け暮れる事となっていた。
親代わりの私(もう割り切るしかなかった。グスン)としてはもっと遊ばせてやりたかったんだけど、こればかりはどうにもならない。

それから早2年。

彼10歳私も私で14歳になり(彼とは5歳差なんだけど私のレムデーカン=1月生まれによる誕生日の関係で4コ上みたいになる時期がある)一応イオンとは幼児期から共にいたおかげ(良くも悪くも)で、今や導師守護役のまとめ役的立場にいたりする。カンタンに言ってしまえば“長”だ。
階級は因みに謡手と呼ばれる地位、響手以上奏手以下。私が面識のある人物で例えるなら…と言いたいところだが、残念ながら現段階では良い例を持ち出す術は私にはない。単に丁度いい人物がいないからである。ま、それは私的には良い傾向なんだけど。だって、ねえ?つまり接触が少ないってコトだからねオホホホ。…段々増えてってるけどな現在進行形で。
一応、しいて挙げるのなら六神将の真ん中ら辺と同等なくらいに位置していると言ったところではある。悪くはないと思う。今更だが幼き日、5歳児の頃の目指せ平社員街道驀進とか迷走状態な上、そして原作的には介入し易くなっちまうからこれ如何にぞや、だけども。

暫く空白だったらしいけど何ともはや、私がその立ち位置に座る事となってしまったワケだ。でも正直、エベノス様時代から導師守護役をしている娘達からの視線は決して友好的とは言いがたかった。そりゃそうだ私のせいで一人解任、しかもどう見ても特別扱いあろう事かリーダーだとこのアマァ!ってカンジだろうし。導師守護役は基本皆おなごだが。
…文句はイオンにお願いします言えば首飛ぶだろうけど。流石に物理的ではなく役職的にだろうけど。…多分。

しかし導師守護役になったおかげで逆に私の神託の盾騎士団生活はやっとこさ、割とマシになった。
導師守護役になるまで色々、イロイロ兼任紛いの労働だったので、いざ導師守護役になってしまえばソレに専念する事になったからである。

しかしながらそれまでの私は、イオンが成長するにつれ手も離れるからと(元々優秀なためそこまで手のかかるコではなかったけども)、教団内だけでなく外も駆けずり回る事も多くなっていた。
…まあ、それはイオンの傍にいなきゃいけなかったからであって、最初彼と遭遇する前の半年間は外回りをした事もあったんだけど。

内容は主に魔物の退治から、それこそまさかの戦争まで参戦したりと実に幅広かった。生きた心地がしない、九死に一生なんて体験もザラだった。
…まさかここに来て、二回目の人生時と同じような目に遭うとは。胃痛、白目、遠い目に同時に殺られ灰のように枯れ果てたサマを呈するコトになった私は、他人から見ればさぞや奇妙だったろう。つつかれたら崩れてサラサラーッと吹き飛んでたと思う。

ま、とりあえず私の参加した戦いでは勝敗より戦死者だけは極力出さないようにしたんだけど。後味悪すぎるし。天使としての血の意志もまた、無益な殺戮に対し邪魔をしてきたのもある。
おかげで治癒術師として怪我人の間を飛び回ってたせいで『戦場の妖精(フェアリー)(笑)(笑)』とか呼ばれてた時期もあった。
確かに当時は幼女だったけどもコレは笑うしかない。天使でさえ私にゃ似合わんてか烏滸がましいってのに、言うに事欠いてフェアリーとか。
おかげで私の本性を知るイオンを始めいつの間にか身近になっていた音律士だとか剣術等の仲間達には、揃いも揃って爆笑されましたとも。因みにうまティーしばいてたヤツらも揃いも揃って噴き出していた。勿論笑いに耐えかねてだ。後でこっそりそいつらの飲みモンにダークボトルの中身混ぜといてやったがな。

とにかく、秘預言で本来死ぬとか言われてたというか詠まれてた人々も、余裕で生きてるって事だ。誰が生きてても安全で誰が死ぬって詠まれたかなんて多すぎてわかるわけもないから(流石に当時の導師であるエベノス様にそこまで詠んでもらうのはムリがあったし私が知っていい事でもなかった)、そこはイオン経由でエベノス様にお願いしてもらって、戦争に参加した人間を秘密裏に例外を除き地方に遠ざけてもらったけど。
何でも、常に左遷されてる信頼のおける人物とやらに預かってもらってるとか…らしい。だけど、皆生きてるならそれでいいと思う。命あっての何とやらだ。折角救助したのに預言狂信者な上層部にまた消されるとか徒労もいいトコだし。

――そして、数多の戦いの中、知らず知らず窮地を救ってしまっていた例外。

それが初陣で二進も三進も行かなくなってたらしい、アッシュだった。

私は当時、敵陣に囲まれた目立つ赤髪の神託の盾兵の子供がいたような気がするようなしないような…と正直顔も覚えていなかった。まあ敵を魔術で一掃してさっさと他の神託の盾兵の救助に向かったのだからムリもないと思う。
回復に充てる時間は戦場ではあまり取れないのが常、唄って――譜歌モドキと見られてるのだから“詠う”と言うべきか――治癒術を振り撒きながら神託の盾兵の間を縫うように爆走しての移動で、この時もとにかく急いでいて怪我の有無は一々訊かずに、彼の目の前を過ぎ去っていったんだと思う。

しかし、ある日の剣術の修業中の事。
修練場で一人、皆に混じらず端の方で佇む子供の兵士に気が付いた私は、その子に声をかけた。
例えるなら、一人遠巻きに遊ぶ子供達を指をくわえて見つつ自分も入れてほしいのに一歩を踏み出せずにいる子を、見かねた大人の心境とでも言えばよいのか(一瞬老婆心とか思った自分が中身年齢的に残念すぎだった)。

とにかくそんなカンジで勝手にそう想像した私は、特に深くも考えず誘ってみたのだ。

「一緒に剣術の訓練をしよう」と。


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