42day,Lorelei,Rem Decan ND2004, この日付の書き方に慣れてどのくらい経ったか。 1.深淵での彼女の生い立ち 世界的には違えど一応の自宅で寝ていた私に突如降りかかった災難は、神様の手違いか何か知らないが再び転生(させられる)という非常に面倒くさい出来事だった。 しかも世界が違うっていう。 更にはこの世(界)に生まれ落ちる前に危うく死ぬところだったっていう。 これについてはまたおいおい明かしていくが、生まれる場所くらい考慮してほしかった。 人間界に細かくなんて手は下せないクセに無理して何かやらかしたんだろう、そんでこの始末。…あのクソ神マジで覚悟しとけと何度心の中で呪った事か。 まあ今回は二回目の人生終了時と違って誰の顔も思い出せないなんて事はなかったのが救いか。天界に強制魂帰還させないところから見るに、不老不死気味な三回目の人生の続きとして生きろってか。 しかし、かなり前にも言ったけども、数えるのはいい加減億劫。考えただけで、鬱なんだよちくしょうめ。 ――転生、つまり生まれ変わった私は胎児からのスタートだ。二回目の人生で幾度となく経験済みとはいえ何故か記憶だけはスキルと違い上手く引き継がれない仕様の私には、これから精神的ダメージがラスボス級の威力で待ち受けているだろう。これも鬱。これでも心はうら若き乙女なんだぞ(多分…)どうしてくれる…! 最初の人生で死んで以来すぐに次の生を受け続けたせいか、どんな身体でどんな種族であろうとも生命として存在する限り睡眠中以外は基本的に意識を保てるようになっている私は余計に、だ。 精神世界でもある意味意識はあるがそれは今はどうでもいい。 そんな私が、この世界での新たな母となる女性の母胎で自我を持つのにそう時間はかからなかった。 その中で外界の音、主に母である女性と彼女の夫、つまり父であろう男性の声、それと年配の女性らしき声を、この母胎内で成長し耳が形成されてから聴けるようになった。 母の声は母胎を通じて直接的によく響くのですぐわかったし、あとの二人も母に次いでよく聴こえてきたから母と身近な人物と推測する。 しかしながら何を喋っているか全く理解できず。この事からここが外国だと判断せざるを得なかった。 …まあ流石に、この時は世界が違うとまでは考えが及ぶハズもなかったんだけど。 次に、私がこの母胎で目覚めた瞬間覚えた違和感。 片手に何やら硬い物が握られていた。何かのフラグになりそうな気がしてならなかったが、とりあえず生まれるまできちんと持っていようと思った。下手に母のお腹に残しでもしたら一大事になりそうだし。 因みに羊水ドボンな状態で開眼しない方が良いだろうと思い何なのかは確認していない。ま、生まれた時のお楽しみだ。 それから更に重要な点がもう一つ。 母胎に私だけではなく“もう一人の赤子”がいる事に気付くのにもそう時間はかからなかった。 まさかの双子。 片割れの性別は前述と同じ理由で確認させてもらってないが(私は無論女のまま)、これも生まれた時にわかる事。取っておこう、楽しみを。 しかしまあ、来てしまったのは仕方ないし新たな家族の元で今度こそ平穏無事に生きていこうと思っていたさ。 兄か弟か姉妹かはわからんが一緒に生まれる事だし、この相方とも仲良くできればいいなとも思っていたさ。 この時まではな。 そこでまず第一歩として、言語をいち早く理解しようとひたすら外界の声に耳を傾ける事数十週間(体感的にだが胎児が母胎にいる時間にしてもやけに長い月日が流れた気がする)。 いかんせん母胎でじっとしてるだけなので起きている間はそれくらいしかする事がない。要するに暇だった。 だからこそ、天使能力、言葉が通じなくても相手の言葉を解せるなんてラクな手を取らなかった。地味に体力も消耗するしこれからこの世界で生きるなら、やはり正しく言語を理解するのが道理という物だろう。 そしてその後割とすぐ――まず最初に理解したのは、母の名が『シルヴィア』さん、父の名が『バダック』さんだという事だった。 やはり名前からして外国だというのは間違ってないだろう。 年配の女性はどうやらシルヴィアさんの母親、つまり私ともう一人のコから見て祖母に当たる人物のようだった。 そんな風に一つひとつ積み重ね、漸く何を話しているのかそこそこ理解できるようになってきた頃。 どうもこの国は『スコア』なる百発百中の予言的なモノに従って生きる傾向にあるのがわかった。 国の名前は『キムラスカ・ランバルディア王国』だそうで。両親の住むこの家は王都である『バチカル』に建っているようだった。 様々な話が飛び交う中、特に『スコア』と『ユリア』がこの世界での礎となっているらしいのも理解した。 両親や祖母、周りの人々の口からそれらの単語を聞かない日はなかったから。 ――そして、悟った。 うわお、もしかして外国云々レベルじゃなくて世界ごと違うってコトですかそうですよねー。 まさかのテイルズ、深淵世界。 ちょ、今いつ頃よ。できればこのまま静かに暮らしたいんだけど。大まかなストーリー以外殆ど忘却の彼方だけど! しかしその願いも虚しく、まずこの優しい両親が(会話からして私達が生まれるのをすごく楽しみにしてくれてたし)、スコア…いやもう漢字にするべきか――預言によって、引き裂かれた。 当然彼等の子供である私達にも火の粉が火系魔術の如く降りかかる。この世界風に言うなら特大ファイアボール並。深淵で有ったかは忘れたけど。 正直、生まれる前から預言が嫌いになりそうだった。いやまあ、プレイした時から人生全部預言漬けってどうよとは思ったけども…これは、ない。 それは私達がもうすぐ誕生するであろう、臨月の頃。 既に私が粗方言語を理解できるようになっていたため、祖母の呟きを聞き取れてしまった事が最初だったと思う。 母は身体が弱いらしく、この日もベッドに横になって寝ていた。父もいつも通り傭兵稼業(これも聞き取った、何か凄く強いらしい)に出撃中。 オークランド(新しい私の苗字である)邸にて、起きてたのは祖母と既に自我のある私だけ。 お腹の子が聞いてるなんて夢にも思わないだろう。だからつい口から零れてしまったのか。 「ごめんなさいシルヴィア…これも王妃様のため、預言通りにするしかないのよ……」 言葉としては聞き取れたもののこの時は何の話かサッパリだったが、この台詞の意味する内容を理解したのは私の姉――、 メリル姉さんが生まれた直後での事だった。 私は何て名前を付けられるのやら、まあ今までの経験上クソ神の操作か何かの影響で変わりはしないんだろうな等と暢気に考えてる間、姉さんは生後幾日か後すぐに…、 あろう事か、母から見て実の母、私達から見ても祖母である彼女の手によって奪われたのだ。 何でもこのキムラスカ王国のオリビア王妃の娘、つまり王女は死産らしい。預言に詠まれてるからという理由により、彼女と姉さんをすり替えるのだとか。 話によるとどうやら他にも共犯がいるらしく…どうでもいいが腐った奴等だと思う。 ついでにまだ顔も知らぬ祖母の事が結構嫌いになった。 父はこの日も仕事で不在。母が出産の疲れから熟睡していた時の出来事だった。 だけど…その後、目覚めた母はこれにより錯乱。バチカルの海、母の大好きな場所らしい――。 そこへ身を、投げてしまった。 …私がまだ母胎にいる状態で。 ちょーっ!私まだ、生まれてすらないんですけど!? 何故これまでの経緯で私が全くもって登場しなかったのか。 単に私がまだ誕生してなかったからである。 預言に異世界生命体な私の事なぞ当然詠まれなかったらしく、両親祖母共に子供は一人だと思っていたようで。 出産後お腹がまだ膨らんでいたため、そこで祖母はやっともう一人いる事に気付いたらしい。 え、今の今まで私の存在認識されてなかったとか…と寂しく思ったのは言うまでもない。 ただし父はこの事を知らない。何故ならメリル姉さんをチラッと確認した後(記念として姉さんの写真だけは急いで撮ってたみたいだった。カシャ!とか聞こえたし)、どうしてもすぐに仕事に戻らなければならなかった…というより、祖母が何やかんやと理由を付けて少しの間父を母とメリル姉さんから遠ざけたからだ。酷すぎる。 よって私の存在を知るタイミングが皆無だったというね。何てこった。 思うに、祖母は双子という事実は伏せて後から私をメリルとして体よく父に会わせるつもりだったのかもしれない。まあ今となってはそれも不可能だし、そこまで最低な言い訳をする気はなかったかもしれないけど正直興味なんてない。知るかそんなん、知りたくもないっての。 しかしまだ私がお腹にいるというだけでは錯乱した母を思いとどまらせるには至らなかったのか、というよりあまりにも私が軽すぎたのが原因だった。 本来メリル姉さん一人の所に私が入り込んだ因果なのか、彼女に比べ超極小未熟児だった(この時点で祖母は私をメリルと父に誤魔化すのは無理があった)のと恐らく私の受け継いだ半悪魔天使の特徴故の軽さ(飛びやすいよう異常な軽量製)がいけなかった。 若干お腹が膨張してる程度で全くと言っていい程その中身を感じなかったに違いない。母の病弱な身体を思って蹴飛ばさなかったのも災いした(いや、却ってそうした方が喜ばれたのかもだけど)。 メリル姉さんを産んだ直後、身体の弱い母はすぐに意識を失ってしまったらしく、海へ向かう途中にてお腹に違和感を覚えたらしい。 つまりここに来るまで母も私の存在はわかってなかったわけで。ちゃんと認識してたのは祖母だけだったってこった。わー切ねー…。 時に私はと言うと、姉さんが生まれた直後まだ外に出る兆候がなく双子とはいえ多分数日後に誕生するんだろうな…つーかこれからこのオークランド家どうなるんだろう超不安とか考えてる最中で。 しかし目覚めた母の泣き叫ぶ声、加えて突然の震動。 彼女が走り始めたのだとわかったが普通の胎児だったらこの衝撃は不味いだろうとか思ったりしていた。ぐふっ…頭ぶつけたりもした。 しかしそれどころじゃない、一体何をする気なんだシルヴィアさんよ!?とこの時は内心かなり焦った。 産んだばかりの我が子を奪われた現実。 罪悪感からか話し出した祖母の謝罪混じりの話を聞き始めた途端、必死に止めようとする彼女を振り切り話半ばで家を飛び出した母はそのまま港へ向かったらしかった。 この世界に飛ばされる前。最初の本当の母と再会したにも拘わらずまた別れる事になって辛くないと言えば嘘になるし、忘れられはしない。 だけど、これから私の新しい母になるであろう優しく穏やかなこの人の全身全霊で訴える怒りと悲しみがない交ぜになった悲痛な嘆きも、私は一生忘れられない気がした。 いやきっと、二回目人生のように…記憶を奪われない限り、ずっと覚えてると思う。 |