深淵 | ナノ


すっくすく。しゃきーん…?



5.子供は3ヶ月で差がわかる



イオン様の遊び相手及びお世話役――エベノス様は手伝いって言ってたけど実際はかなり本格的だった、それもそうか何てったって次代導師であらせられるんだもんな――になるに当たって、私の神託の盾騎士団での立場並びに生活・環境は大幅に変化を迎えていた。少なくともポッケの中身の大半を占めていたグミやライフボトルは減った。もー踏ませないぞ!

…コホン、まず第一に。
私が寝泊まりしていた寄宿舎の四人部屋から、擬似超振動?(仮)でブチ込まれたベビールーム・もといイオン様の部屋のお隣という名の束縛以上軟禁以下部屋にお引っ越しへと追い込まれた。あ、ハンカチ貸してくれるの?ご丁寧にありがとうございます道案内の教団員サン…。

新人からは半年経ってるしザ・教団アレコレがマシになった頃には既に卒業していたため、最初の新人専用部屋からではなく一般兵士用の部屋からのお引っ越しとなったわけだが、そうは言いつつも実のところ残念な事に移動してまだ日が浅かったりする。おかげで荷物を広げたかと思えば、また荷造りする羽目になった。因みにそのせいでたんまり買い込んであったストック薔薇の幾つかが傷んだ。

それでも以前の新人専用部屋ではルームメイト全員が目指せポケモソマスター!ならぬ目指せ導師守護役!(導師なら語呂が良かったと思う。声だってねぇ…ごめんごめんってばイオン様ァ音素イタイ!)だったので助かったと言えば助かったのだと思う。
まだ公ではないとはいえ、導師のお世話役ともなれば導師守護役とまでいかなくとも彼女らにしてみればぽっと出のようなただのガキに一人分の枠を盗られた気分になるだろう。あんま良いカオはされなかったに違いない。皆キンキラキン(星&はあと!)な瞳で語ってくれたのに、一気に暗いギンギラギンな眼光で睨まれるとか胃痛以外の何もんでもなかろうよ。
…まあ、異動の理由は話したくとも後述によりムリだったのだけど。

何故、イオン様の隣に行く(むしろ逝くだよねコレ)事態へと陥ったのかと言うと。

いずれ次代導師とわかる時は来れども、それは今ではなかったのに私がイオン様と出会ってしまったからで。
イオン様の存在は現時点では極秘、つまり秘預言か何かに詠まれた内容なんだと思う。詠師職以上で尚且つ一部の人間しか本来知り得ない事だからエベノス様から特に告げられたわけではないけれど、私も一応神託の盾兵の一員。多分預言がらみ、しかも秘預言の方じゃないかと記憶が年月によって無いなりにも予想する。

でなければ、私をイオン様のお世話役に仕立てるだけならまだしもあまつさえ隣部屋にする意味がわからない。
多分、イオン様が懐いたっぽい<情報漏洩の可能性少しでも減らしてやんよ!…こんな上層部脳内での数式故に決まってる。

ただ、懐いてくれたから大目に見てくれただけであって、教団の最高機密をただのしたっぱが事故とはいえ知ってしまったのだから、イオン様に嫌われでもしていたら消されていたのだろうか。…流石に数年後オールドラント中の人々に知れ渡る事だろうから、それは考えすぎだと思いたいが。

…まあ、イオン様が正式に導師へと就任して下されば、私の任は解かれるのだ。あれこれ悩んでいても詮のない事だと思う。多分。

…だけれども。
後から周知の事実になるのだし私も別に言いふらしたりするワケもなし、加えてなったからには寄宿舎からでも胃薬なりライフボトルなり何なり携えてきっちりかっちり通うってのに、そうもいかない事がすぐ判明した。


「ねぇね!ねぇねー!」

「イオンはナマエ殿を実の姉のように慕っていますね。誰にも懐く様子もなくこれからどうなるのやらと心配でしたから私も安心しましたよはははは」

「エベノス様ソレハヨウゴザイマシタ…(どうしてこうなった)」


イオン様、ナゼ私から、離れない。(一句。)

要するに私の秘預言、ですよねー!とか散々邪推したのは杞憂であって、イオン様のご要望に上層部がお応えした結果だったらしい。
…ちょびっと安心はしたが、あまりいや全然頂けないノーセンキュウこの上ない。さっきからキリキリする腹の上・中心部分は気のせいではあるまい。いつかナマエの口から真っ赤な彼女にとっての生命力がサヨウナラするであろう(預言風…笑えん)。

や、イオン様が嫌いとかそんなんじゃないのよ決して。被験者の性格はあんま知らんてか覚えてないけど。むしろ将来とっても有望かぶラッドだし…ウホッ。

いやね、ちょいとふざけましたけどもそれを差し引いても、私には原作がチラつくだけで内臓がどうにかなりそうなんだよちくしょうめ…!平穏がルーンボトル使ったかの如く不穏に切り替わるんだぞ何で悪化してんのって話だがな!
エ、口許から第四音素が液体状に流れ落ちてるって?ああもうそこは突っ込んだらあきまへんでなのイオン様も笑わないで下さいよ毒牙の対象アナタなんですからね!

あー…気を取り直して、とゆか欲望は程々に、次の第二において。
音律士やら研究の仕事より、イオン様の相手が優先されるようになった。ま、冒頭の通り当然といえば当然だろうて。そして勘の良い方はわかって頂けたかもしれないが、グミ&ライフボトル減りの所以はここにある。

緊急時は治癒術師としての業務がトップだけど、どうしても人手が足りない場合駆り出されるだけに切り替わったので以前程お呼びはかからず、実質的にイオン様が最優先になったのである。
一応周囲には特別任務って話で上層部から通されてるので根掘り葉掘り訊かれたりはしない。暗黙の了解ってヤツなんだろうけど、何故か皆ナマエなら仕方ないと目で語る。オイ噂…。

しかしながら細かくツッコむなら、ずっとイオン様にかかりっきりではなく本来の仕事も手が空いた時はそれなりにこなすので、ホント部屋移動の理由…!といったところ。そこで縛られても結局は他の仕事もしなければならないのなら、動きの取れる一般兵士用の部屋だったらどれだけ働きやすかったか。
あう、ごめんなさいハンカチぐしょぐしょになっちゃった、洗濯機ならぬミニタイダルウェイブで洗って返しますんで…。

…結局、情報漏洩とか全く関係なかったわけである。


***


そうして、音律士の執務室や修練場に治療部屋はたまた研究室、イオン様シッターの為彼の傍へと忙しなく飛び回るローテーション生活を送り続けて(彼の相手に慣れてきたって判断されたらまた仕事増やされてたっていう)、既に5年程が経過しようとしていた。


「イオン、今のダアト式譜術凄かったマジで!」

「ナマエが悪い部分指摘してくれたから。マスターして当然でしょ」

「はは、さいですか…」


イオン専用修行場である秘された中庭にて。彼の訓練を私は少し離れた場で見守っていた。

彼は、多少…ツンケンした性格になれどこの5年間すっくすっく成長していた。

しかし一体どこをどう間違えたのか、私には5年という歳月の付き合い故か一応時偶デレてはくれるものの、他の人には恐ろしい程冷酷でツンツンツンツン…デレとかまじドコデスカー状態。子供だし次期導師としてただでさえ縛られがちなイオンなのだから自由にしていい部分は好きにやらせてきたけど(やる事やったら存分に遊ばせるとか)、流石にマズくなり諌める事もしばしばだった。
…実は、赤子の時いつだったか、全身を包む深緑に勝手に将来穏やかな性格になるんじゃね?とか想像したりした事もあったんだけど(音素飛ばされたがな…)…あれまじ見当違いだった真逆もいいトコだった。

そうか被験者はこんなコなのね…と“あの”イオン様と比べるのは間違ってるってのは重々承知してるけど、まさにこの性格という点においても真逆なのだと実感せざるを得なかった。

ああそういえば、確か似たようなコいたよねこちらもまあ当然と言えばそうなのだがまさに緑っ子で、こんなツンツンツン(デレ?あったっけ…)でその中々にカワユスなおカオを隠したあの…関わるつもりは当たり前だが毛頭ないけれど、耐性が否が応でも備わる気がしてならない。
や、そもそもこの分でいったらホントに回避できるのだろうか。…コワ。

ところで預言に関してだが、私自身地球脳だしゲームをプレイしたせいかどちらかというと微妙に否定的なため、そんな私に育てられたイオンももれなく預言ギライになっていたりする。大変頭の宜しいコなので公の場、特に預言狂信者の目前でソレを匂わせたりは絶対にしないけど。
(そして私に音素をブッ飛ばすのも絶対に他人の視界に入らない瞬間のみっていうね…)。


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