深淵 | ナノ


しかし私が見てないところでダアト式譜術で気に入らない奴(主に預言がらみ)を伸しているのか、血腥くなって帰ってくる事も少なくなかった(喉を鳴らさないようにするのに必死だった)。

そう、おったまげた事に素手で敵を刺し殺すなんてお手の物、御年約6歳にしてそのダアト式譜術の威力といい、末恐ろしい次代導師サマに着々と成長中なのである。
何でこんなグロテスクに育っちゃったんだろう…あれか、いつぞやお忍び(たまには外へ出せやとイオンが上層部を脅した)でお出かけした際私達を狙った盗賊を目の前で心臓一突きしたからかそうなのか。導師(予定)にんなもん見せんなや!って注意どころかむしろ未然に防いだって事で誉め称えられちゃったけど。そういえば事件当時、イオンの瞳が輝いていたようないなかったような…あああ。

おかげで、イオンに「僕が導師になったらナマエに真っ先に導師守護役になってほしい」と普段のツンケンした態度から見るにそれらが一切混じっていない真っ白な笑顔・不本意ながら今のところ私限定。正直超可愛い――で宣われてしまった。
まあそう言われる前にもエベノス様含む上層部から再三推薦されてたんだけど。ついに本人からもお願い(命令?)されてしまったのだ。まさか本当に一人分の枠ゲットだぜ!になるとは(…イオンーこの後に続く気ない?あ、ナイですかそうですか)。
因みに拒否権はあるワケもないし断ろうとも思っていない。立場もさる事ながら、あんなカオで頼まれて断れる程の付き合いでなくなってしまったのだから(それくらいには情が移ってしまったのだと自覚済みである)。


「ナマエ何か殺気立ってる?ばかな預言もーしん者どもにやな事された?僕がやっつけようか」

「あああイオン気持ちは嬉しいけどそんな事簡単に言っちゃイケナイっていつも言ってるでしょうしかも疑問系ですらないとか…!…大丈夫、何でもないから」

「…そう?つまんない」


半分程君のせい…!と言ったところで私相手だとダアト式譜術ばりに拳が飛んでくるより悲し気な表情をされる――正直私はコレに弱いそしておそらくイオンもそれを熟知してる――事受け合いなので、垂れ流しかけた殺気を引っ込めにへらと笑いかけた。何だかんだで音素も冗談程度にしか飛ばしてこない彼が大変愛おしい今日この頃。原作介入?ね、ドウシヨッカナ…。

因みにさっきから呼び捨てタメ口なのは、イオンがある程度言葉を理解した頃「ナマエは僕のお母さん代わりなんだからおかしい」と指摘(命令、直してよね――立場上逆らえない私)してきたからである。気持ち悪いとも言われてしまった。イオンはイオンで、いつからか“ねぇね”から名前呼びにもなってたし。
…私お姉さん的ポジションじゃなかったっけ何か進化してない?あれ…アレ?

ところで、口調もさる事ながら先程の「ナマエがダアト式譜術のー」のくだりについて。

現実は無常だと思う。
遂にエベノス様がここ最近床に臥せりがちになってしまったのだ。

そう――歴代導師にのみ継がれてきたダアト式譜術を、きちんと教えられる人物がその時点でこのローレライ教団にはいなかったのである。

ご病気だとお聞きして随分前から外傷以外も治癒術で治療可だとバレていた私に(身体の弱かった母、シルヴィアさんをそうさせたのもここから来ている)白羽の矢が立ち、畏れ多くも診察させていただいたが病気は何とかなったものの単純に、こういっては失礼なのだがお年だった。こればかりは治癒術を駆使するエルフだろうが天使だろうが、はたまたその血肉に延命効果があるとされる人魚のそれを投与しようがどうしようもない。…いや、最後の部分には本当は効果があるのだけど道徳的にどうかと思うし何より聖職者、この世界においてトップの御仁にやる事じゃあないし取って良い手段でもない。

私が介入した因果、ズレが生じた結果なんだろう。
被験者イオンのダアト式譜術はまだまだ完璧でないまま、エベノス様は寝たきりになってしまったのだ。

そうして、本来はあってはいけないしありえないのだけど、イオンの一番近くにいた第七音譜術士(と思われてる)である私が、ダアト式譜術をエベノス様から許可を頂き予習し(禁書的に書物として保存はされていた)、家庭教師さながら指導していく異例の事態を招いたのである。

…だけど、ダアト式譜術を学び始めた時、どういうわけか僅かな違和感があった。ソレが何なのかさえよくわからないんだけども。
そもそも扱えたって時点で何かがおかしすぎるのだ。

一応心当たりと言えば、悪魔が空間を統べるのに対し(だからこその空間移動術だ)天使は時間とか司ってたりするのであって、尚且つ回復系は得意中の得意とするところだとかその辺りの特殊・異常さが作用してるのか――くらいしかないのだが、それにしても常軌を逸した事象としか思えない。
因みに有り体に言う転生特典とやらは正直あまり信用していない。何故なら、身体、肉体だけは強く生まれても中身は結局現代女子高生でしかなかった私は、生き残るための実力は自身で鍛えるなり何なりしてもぎ取らなければならなかったから。天才なんかじゃあない、底辺も底辺だった。
よってこの世界にブッ飛ばされたからと言って、今までの経験上ひょいっと備わるとは少々考えにくいと言うのが私の持論。

まあそんな私的推理はさておき、そりゃあもうエベノス様は私に素養があったのだと誉めつつ驚いてたモノだったけど、こういうコトってありえるのでしょうか?とお訊きしてはみたが、思い当たる点は何もないとおっしゃっていた。だからこその驚嘆なのだろうけれども。

誰にもイオンにさえ言ってない、しかし日々の激務と何とかして彼を一人前にしなきゃこの先どうなるってのさまさかの原作改変(笑…えねー!)とか超お断りだからマジで…!と必死すぎてその疑問を深く考えるヒマはなかったから、実質現在進行形で保留状態となっている。

まあおかげ様で、私の魔術体術レパートリーにダアト式譜術ももれなく追加される事となったワケだ。ね、ありえないよねー…だってさ、今更久しぶりだけど、自分の人外化にまた拍車をかけてしまった件これ如何にだぜ?今なら第一音素系連発出来そう。気分はエンドレスブラッディハウリング。


「…ナマエ今度は萎びてるけど、本当に平気なの?」

「ウン、ダイジョブ…エヘヘ。あ、そろそろ夕飯だわね。――『在るべき姿に戻せ、癒しの息吹よー』…なんちゃって」

「…相変わらずナマエの治癒術って規格外だよね。どうなってるのかさっぱりなんだけど」

「自然破壊ってなるべく避けたいと思うわけでして」

「答えになってないし。まあいつもの事だけど。…ご指導ありがとうございました」

「いえいえ。イオンもお疲れ様でした」


何かをしてもらったらお礼しないと等、礼儀作法も教えたけど、何となんと私に対しても律儀に守るイオンだったりする。ぺこっとしたお辞儀(多分私の日本的習慣が移っちゃったんだと思われる)が親バカ的に鼻血級にカワユイのです。私今だらしないカオしてる自信ある、スゴく。でれでれって効果音が違和感ないに違いない。
しかし…イオンのこういうところはすごく誉められたモンなのに、私以外への仕打ちがだね…やめよう、不毛だ。

本日もイオンは元気にダアト式譜術無双だったおかげで、中庭は元の心洗われる景観の影すらなくなっていたため、治癒術で元通りの自然にする(二回目にて人間とか動物以外にも適用するよう死に物狂いで修得しましたっていう…主にアリバイとか保身的意味合いだったがな)。

そうして夕日を背に二人でカラスと一緒に(ここではグリフィンとかか?…あ、デカい?)帰りーまーしょー(懐かしきかな夕焼けこやけ)と、イオンのお部屋へ夕飯の用意も兼ね(大体ここのキッチンで作って一緒に食べるようになった、相変わらず両手はぷるっぷるなり)帰宅したのだった。
因みにおーてーて、つーないで状態でもあったり。イオンもそういう意味ではまだ6歳だし。ホント、ついこの前まではちっちゃかったのに今や私と頭一つ分くらいしか差がないとか、子供の成長とは著しく早いものである。

…そして大きくなるたび美味しそうに見えてくる点。赤子の頃からとーってもカワユかった彼は、日に日にご馳走として私の目に映るように…ウォッホン!
…じゅる。




「あれが次代・導師イオンと彼の家庭教師代わりの…」


そして、そんな私達を遠くから見つめる人物に私は殺気は含まれていなかったため残念ながら気づかず、育ち盛りのイオンのための夕飯メニュー(預言メニューはって?いやいやまさか)で頭が一杯になってたんだけれども。


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