深淵 | ナノ


廊下は走っちゃいけません。



40.今度こそ閑話にする。しとく



「ねーナマエー今日はナマエのご飯食べたーい!」

「何だと」




「てなワケで本日の授業は家庭科になりました」

「わーい!」

「わーい、…です」


え、なんか今変な声混じってなかったって?うん私もそう思う。あ、当たり前だけど声が変なんじゃなく「何でこの場に?」って話だよねうん私も以下同文。

でもかけ合わせてみたらお互いの性格から記号で言うなら『F>A』みたいなモンで。片方が片方に押され気味だから意気投合!とまではいかずとも流石に案外相性は悪くないみたいで、少なくとも第四音素と第五音素なんて事態にはならなかった。つまりは水と油的な。あのどんなに頑張っても混合してくれない混ざらなさ具合。

…まあね、片や人懐こいし片やこう言っちゃ何だが大好きなひとの血縁者を相手にしてるみたいなもんだしね。被験者の命を喰らった訳でもない。無論厳密に言えば身体の弱かった彼だ、この子(ら)の誕生に寿命に少なくはない影響を与えただろうがそれは私が相殺の日々だし。

結論。「いがみ合え!」って方が無茶だろう。
イオンに知られたらブッ殺されそうだけど(私が)。

遠い目をした瞬間じゃがいも(材料)に当ててた包丁(ここでは国柄っつか世界柄ナイフのが私の台所以外では主流なんだけども)でやらかした。
ファーストエイドと呟いた。




そもそもこのAアリエッタFフローリアンの出会い(と書いてハプニングと読む)にはビミョーに訳がある。

単にフローリアンをほっぽっといたのがいけなかった。
説明終了。

…とまあそれだと短すぎるんで詳しく言っとくと、以前リグレット奏手んとこにお世話になった際軽く夜食をご馳走になった訳だがそん時フローリアンに言われちゃったのだ。『今度ナマエのご飯も食べてみたい』…って。
それに対し「機会があったらね」と答えた過去の自分を抹殺したい。

昨日今日とつまりは昨日のデザート(アイス)三昧と合わせて貴重な実は二日連チャンでの休みだった。
因みに昨日のディストさんだが……まあ余程感動したんだろうね、たかだか紅目でピンときちゃったんだもんね幼少時の面影を今の私から見事(と書いてめんどう事と読…)探し当てきっちゃったワケだし。まあ偏に幼馴染みの現在もとい当時をして印象に残らしめたー、ってだけなんだろうけど。何だかんだでジェイド大好きだよなお前。

フローリアンの話に戻るが、どこから聞きつけたのかそんな彼にとってのチャンスをこの属性ワンコ(今のところ私のみ効果は発揮される…)が見逃すハズもなかった。

そしてあれよあれよとフローリアンの部屋専用簡易キッチンに押し込められたっていう。まあ正確にはフローリアンのうるうる攻撃にあえなく敗北してほぼ自発的にキッチンへの扉(ないけど)をくぐったんだけど。因みにマイ包丁片手に、装備品はエプロンである。無駄にフリフリしてるのは母からの仕送りという時点でもう終わってたよね。「似合ってるよ!」とか素でご褒美くれちゃった彼に「そうかい、ありがとよ」としか返せなかった私は最近の激務(語弊アリ)に大分干からびていると思う。そろそろ干物になれるかもしれない。魚なだけに。半分だけど。

そこでまたどこで見つけてきたんだか「この前本で見たんだけど、この『××』っていうのが美味しそうだよ!」とか微妙に私への拷問としか思えない注文してくるし。
何でその一番大事なトコにモザイクかかってるかって、これから起きるコトになる事件(?)により『なんかヤになんないように』、という無駄な配慮からである。主にフローリアンの好みに合ってしまった場合そして私がよくある(誠に遺憾である)何らかの事情によりヘマしなかった場合。再リクエストされるたび彷彿とさせられるなんてアレすぎる。トラウマってヤツだ。
「結局また作ってあげちゃうんだね…」ってツッコミは聞かなかったコトにする。

だがしかしそれはそれなりに煮込む系の料理なのが致命的だった。とりあえず内容はご想像にお任せする。そして出来れば嫌いなモンを想像する事をオススメする。いっそ闇鍋でも想像しとけばいいんじゃないかな。あ、過去作のでなく(確かどっかにあったよね?)。
しかしよりによってじっくりコトコト系とか私に溶けろと?「え、何それってもしかしなくても総長がフローリアンの部屋に置いてった絵本か料理本ってコト?総長マジブッ殺。」と一瞬殺意が沸いた私は悪くないと思う。
まあ最近ほったらかしてたのは本当だからやっちゃうけども。うるうる以下略。

で、フローリアン宅お台所でトントンだのグツグツだのやってるとこのタイミング並びにこの地へとやってきてしまったあろう事かのアリエッタ。とそのお供(×2)。

この部屋の意味を知る教団員は少ないからノック音にきっと総長かリグレット奏手辺りだろうと踏んでよく確認もせずドアを開けるとあーらビックリ、お隣(どころか一棟以上離れてるけど)のアリエッタさんじゃございませんこと…じゃねえから!

誰誰?ってな感じに傍まで寄って来たフローリアンをうっかり奥の部屋まで蹴り飛ばしたのは言うまでもない。
勿論後で全力で謝った&治癒術をお納めさせて頂いたけど。

で、こうなっては今更誤魔化すべくもないとしきり直しとばかりに冒頭二番目のセリフ、という訳である。
まあもう大半出来あがっちゃってきてるからしてあんま意味ないんだけど。

因みに何でわざわざこの部屋に?とアリエッタに訊くとライガ君が「いいニオイがする」「ナマエの声もする」と言ったかららしい。アリエッタのお友達じゃなかったら私「ライガ鍋って旨いだろうか…」くらいは考えてたと思う。包丁後ろ手に隠し持ちながら。いやナイツフェンサーか(支給品)。


「んもーアリエッタ、元気が足りないよ?ほら、もう一回!わーい!」

「わ、わーい!…です!」

「そうそう!」

「楽しそうだねえ、フローリアン」

「うん!だってボク、ナマエ以外にお友達になれそうな人初めてなんだもん」

「…っ、…、」


にこっと笑ったフローリアンの顔が顔だからいつもの百倍増しに照れてる可愛いアリエッタに加えさりげなく総長とリグレット奏手を除外してるキミが好きよ。冷たかったであろう総長はさておき単にリグレット奏手は年上すぎるからかもしれんけど。


「あと5分くらいかなあ」


鍋をかき混ぜながら背後のカワイコちゃん達に「ああは言ったけどぶっちゃけ後は煮込むだけだから居間で遊んでていーよー」と声をかける。これまたどこで仕入れたのか味見なるものをねだるフローリアンに小皿で餌付けし仕上げに取りかかった。実は間接的なアレになってたコトには触れまい。


「さーて後は…お皿お皿っと――!?」


驚きすぎて声も出なかった。
何故なら台所の…いやおうちの敵むしろ人類の敵が視界をかすめたからである。別称あぶらむし。またの名をG。

黒光りする、ヤツ。

何とそいつが台所の角を、うろちょろと…。しかも鍋側。頼むから飛んで鍋に入るダアトの虫だけはしないでくれよ。
…そういやココ、総長曰くあらかた掃除したらしいけど元・物置小屋に近かったらしいしな…。


「ギャアアア!…なんて言うと思ったか!」


それもそのハズ、生前はさておき二回目人生からは怒濤の連続。逞しくなくっちゃやってらんない。余裕がある時は騒ぐけど。チキンは今みたいな焦らずにはいられないタイミングでなければいつでも元気に作動中なのだ。
しかしそんなワケで今の私はちょっとした虫程度なら「ふんっ!」とか言いながら片手でわし掴み出来るね。まあそうする前に煮るなり焼くなり凍らせたりすんのがベストだけどね!

ただし今上で申し上げたようにここにはお料理それもよそわれるのをそろそろ今か今かと秒読み段階突入したそれがあるのですよ。アリエッタやフローリアンが来たらパニックになって鍋をも巻き込んでのつまりは引っくり返ってハイおじゃん、な展開も無きにしもあらずなワケ。この世には譜術があるからねー。

よって今のツッコミは二人に届かんよう極めて小声である。
折角の昼食パアにしてたまるか。

そら、アリエッタは野生児だからまだ耐性ありそうだけどフローリアンは果たして初めて見るであろうそれにどんな反応するか未知数すぎて今ここでは絶対に見せられないと思う。まあザレッホ火山出た後私は見かけなかったしフローリアン(シンクもだけど)も変な動きはしてなかったから私が消えた後にでも見た事あるかもだけど。あんなナリでも男の子なんだから強いと信じたい。


(1/2)
[back] [top]
- 105/122 -
×