でもさ、奴等ってさ、大声出すと聞こえてんだか何なんだか何でかピタッて止まるやん?で、そこから更に慌てず騒がずゴキなジェットまでそろりそろりにじり寄るのが吉じゃねとか作戦企てるやん? だから、なのか。 「ちょっ、どこへ行く!?」 いっそほんとに叫んで動きを止めれば良かったのか。 しかしついでにスプレーが近くに無く(自室にはあるが今日という日に調理器具以外持ち込む訳もなかった)またあったにしても料理にかかる事を危惧して躊躇しただろうから同じ事だった。 私の方に「ピョーイ!」なんつって飛んでこられるのも困るが、ヤツは何でだかいやありがたい事ではあるんだけど。 どんだけ素早いんだか瞬きをした次の瞬間には、あえて鍋を無視しキッチンを飛び出していった。 …な、何だよ虫なだけに無視かよ! 「ヒイイイ何でそっちに…!…ッごめんアリエッタもうちょいで出来上がるから出来たら先に二人で食べてて!ヤツを始末したらすぐ戻るから!」 「えっナマエママ!?」 「なになにナマエ、どうかしたのー?」 「詳細はあとで話す!」 居間に向かって言い捨てて、短い廊下(言うまでもないかもだが私達の部屋より狭いのだ)を殺気でも感じたのか猛然と走り抜け何と通れちゃったらしいドアの下の隙間から外に出やがったゴキブソやろうを追って、私は何を思ったか気づけばしっかり手に取ってしまっていた包丁を片手にフローリアンの部屋を飛び出したのだった。 アリエッタだが、かつてイオンと一緒に教えたから今ではある程度自炊出来る故の任せ具合(丸投げともいう)である。 そのままイオンのお嫁さんになればいいと思う(言ったら真っ赤になってたけど)。 *** 「あああ魔じゅ…譜術ぶっぱなして仕留めてーぇ!」 フローリアンの部屋の周辺であるからしてこのぶっちゃけな本音である独り言(割とでかめ)は誰にも聞かれないのが幸いか。 ちょこまかと意外に、ではなくつい今しがたにわかってたとはいえ異様に素早いヤツに遊ばれるコト数分。一体何が悲しくてGと鬼ごっこせにゃならんのか。いやでも見つけちゃったからにはさっさと退治しとかないと部屋の外に追いやったとこで結局は教会内である事に変わりはないのであってつまりはいつかまた遭遇する可能性があるというコトでだな…。 第一ここでほっといて大家族築き上げられちゃっても困る。焼け石に水という事なかれ、『一匹いたらー』の法則も知らないしツッコミも要らないよ。 しかしいい加減イヤんなってきた。もう今言った通り魔術らへんで殺っちゃっていいんじゃないかな。いいよね。ただし外からこのパイプオルガンなデザインに見とれるとか何とかでここ教会を見上げてる信者さんとかいたらまあ言わずもがなだよね。 教会のてっぺんよりちょい下のわきっちょ辺りから「ドゴン!」て何かが爆破されんの目撃されちゃう可能性が大なワケだけど。 だがしかし流石にそれやっちゃうといくら譜術が根付いたこの世でも普通に謹慎コースですので。 「ここは『ナマエのふぶきー!』ってね!…なんつって――って、あっ」 一瞬のスキは見逃さない、というか見逃せなかった人生。見逃したら生死に関わるから。 それがたかだか虫如きに発揮されるってのも何だか微妙な気分だけど、役に立った事だけは間違いなかった。 正面から唐突にマジカワユスなお声(ドン引き気味)。 …あれコレ役に立ってる? 「…アンタ、こんなとこで何して――」 ああ何で階段の終点に扉があったのローレライ。何でこんな辺鄙な場所なのにそこへよりによって一番誤解させちゃいけないタイプ喚んじゃったのローレライ(変換はあえてのコレである)。 フローリアンの部屋のあるこの階層はMAXではなく実は更に上階がある的な設定は今さっき言った通りだ。 階段を今頃になって数段飛ばしをかましやがったヤツをこちらも人目の皆無さにラッキーと負けじと飛んで(not比喩)った先にある真正面の壁。てゆか扉。 せめて斜め上に並ぶ音素灯にでも行けばよいものをここ特有の凹凸のある装飾が一休みには丁度良かったのか。 そこに止まったヤツは人によっては丁度顔の高さと同じくらい。 …そこを攻撃した場合中から出てきた人への威嚇射撃にはバツグンで丁度いいくらい。 因みに仕留め損ねていた。流石武器の扱いの下手クソな私(ヒント:剣)。いや後で使う事考えたら…まあ、うん。しかし自分でやったコトだが何故投げた。ついって怖い。うっかりとも言うが。 包丁を投げるな魔術を投げろってよく言うじゃない。まァネタだけど私の場合は中々至言なのに。 咄嗟に投げた包丁はシンクの顔の横で「ビィィン…」とか言いながらぶっ刺さっていた。 暫く(シンクに)追い回されたのは言うまでもない。 |