深淵 | ナノ


青と黄中間恐怖症になるのも、時間の問題である。



37.これホントに以下略



ベッド脇の椅子に戻されてしまったとってもトッテモ可哀想な私は、相変わらず不機嫌そうな仮面に釘を刺している最中である。


「で?私を引き止めてまでキミは何をそんなにご所望なんだこんにゃろー。言っとくけど、身体を動かすのは当たり前だけどNGだからね」


こう言えばまさか早すぎてリハビリじゃないリハビリに付き合わされるコトもないだろう。その実態は言わずもがなリハビリという名のストレス発散、そしてその場合のサンドバッグは無論私である。
…なんて、いやまさかマジで身体を動かそうなんて思ってやしないと思うけれども。ここで暴れて総長らへんにどやされんのはキミは勿論止めきれなかった私にも漏れなく雷なんだぞ。リアル(?)サンダーブレードなんだぞ!


「そんなのわかってるよ」


釘を言うと「ハッ」とばかりに鼻で笑われた。残念ながら非常にサマになっているため自分に向けられてるコトさえ頑張って無視出来ればこれはこれでカッコイイと思えなくもない。
…悲しきかな面食い。つくづくこのカオに弱いな自分。見えてないけど。


「なら良いんだけど…じゃあシンクは何がしたいの?ぶっちゃけ話するくらいしか選択肢ないんだけど…いっその事本とか読む?読みたい本の系統候補挙げてくれたら私図書室行って何冊か借りてくるけど…」


あわよくば本に注意が行ってくれればとりあえず私の安全は保障されるので私は読書をオススメするよ!…我ながら小賢しい。

しかしシンクの反応は芳しくなかった。
(さっきは「本とかがある訳でもー」とか言ってたクセに!)。


「こんな時まで勉強?冗談じゃないね」

「あ、そう…」


ミッションフェイルァー…。


「…じゃあ同じ格闘家路線って事で体術論議でもする?それとも譜術論議?」


「シンクと談笑なんて想像出来ないけどね!」とか何とか思いながら何気なくほうった一言だったけれども、シンクから返ってきた答えに私は1秒前の私に秘奥義をかけたくなった。


「譜術、ねえ……アンタさ、それボクが使えると思っててそう言ってるの?」

「、」


……そういえば、昨日は使ってませんでしたね。

ソレで時には戦友的な、友情なんか芽生えちゃったりなんだったりする純粋な拳と拳の闘いでしたよね。語る前に終了したけど。
だけど私には朧気ながらも知識がある訳で。

シンクは体術と譜術の両刀遣いだった筈だと。


「あ、あー…えっと、別にシンクが使えるかどうかとかじゃなくてさ、事前に話しとくのも有効な策じゃないかとね、思っただけなんですけれども…」

「ま、確かにそれも一理あるね」

「だっ、だよねっ!これも作戦の内だよねっ!?」

「声引っくり返ってるけど」

「気のせいだと思うよ!」


…しっかし自己紹介ナシの名前呼びとか、ちょっと私昨日からちょこちょことしたボロ出しすぎだと思う。決定的なモノではないからまだ良いものの本気で肝銘じとかんとこのままではいつか本塁打打っちゃいそう。
イオンを基準にしちゃアカンけども彼がそうだったからしてシンクも相当頭はキレる筈。確か原作でもそんなカンジだった気が凄くする!

よって私はこれ以上ボロを出さないためにも一刻も早くこの根城からおいとまし且つ今後一切の接触を絶つべきだと思うのですけれども、現実は理想と360度…では一致してしまうので180度違ってたりするワケで。嗚呼。

何気なく零れた疑問なだけであってそこまで疑ってた訳でもないんだろう。「ただ話すだけじゃつまんないから――そうだね、いっそ何かやって見せてくれない?」と早々に切り上げてくれたシンクに万々歳だ。安堵のため息は肺一杯に吸い込みすぎて冷凍庫並のモノが出たけど…っていや、ん?


「エ、何その無茶ぶり」

「治癒術師なんだから譜術もある程度は出来るんでしょ、ホラ実演。安心しなよ、別に多少物が壊れたって告げ口なんかしないからさ。ただワザ見て盗むだけだから。まあボクに被害が飛んでくるようなら容赦はしないけど」

「安心出来ないんですけどオオ!?」


盗むのは別に職人さんの秘伝とかじゃあるまいし良いとして最後!

病室、っつか室内でフツー要求しちゃうかソレェェ!?確かに修練場は室内は室内だけど、いわば地球で言うとこの体育館とかに当たるからアリな訳だけどこの狭さ(※一人部屋)でそれはない!

しかし何と言って断るか。そもそも(怖すぎて)勇気が出ない。
ああそういえば、いつだったか…随分と昔にイオンのツンケンぶりに私は何かを思った気がするね。確かアレはそうそれこそ今とは逆で彼の譜術(ダアト式)を見てる時の彼のその態度に。ヤベー思い出した。

耐性とかまるでついてなかったコトになるチキン王名付けてチキングにはもう笑うしかない。


「譜術、ねえ…」


今度は私がさっきの彼のセリフを繰り返したところで救世主。波動は勿論足音で気づいた。ドアを見る。そしてついでに言っとくと少し前に遠くの方で謎の爆発音が聞こえた事も現状に全く関係はないが万が一(?)のためにここに記しておく。ここはあくまで神託の盾本部の一部なのだからしてきっと訓練中などこぞの譜術士が譜術に成功か失敗でもしたんだろう。

救世主だと思ったから、この状況からの脱出への安堵に口が滑った。


「誰か来るね」


…言った時には既に遅く、「何でわかるの」と言いたげに仮面がこっちへ向いたのがわかった。必死にドアに向けて限界まで顔を逸らしていたものの、見られてんのは微量の殺気でわかる!


《失礼します、シンク奏長。今よろしいでしょうか》

「…開いてるよ」

「失礼致します」


新たな登場人物とあっては一々つっこんでもいられんだろう。
予想通り追求はなく、ノック後住人の許可を(無事に)得、入ってきた教団兵――制服が布い(?)のでそこからして譜術士さんだと思われる、んでココにいらっしゃるからもしかしたら治癒術師さんでもあるかもしれない――にシンクは「何か用?」と低い声で訊ねた。機嫌の悪そうなのは邪魔されたからだろう。

私はと言えば、とある(大)作戦を思いつき内心含み笑いをあげていたのだった。




完ペキとばっちりな譜術士さんは果敢にもシンクから送られてくる明らかさっきより肥大化した殺気にも負けず、用件をしっかりと伝えてから去っていった。雨ニモ負ケズ殺気ニモ負ケズ。私は彼の爪の垢を煎じてうまティーするべきだ。
そして私は先程内心笑っていられたコトからして再びソコでガッツポーズ。ここぞとばかりに勧めまくった。


「いいじゃん行ってきなよォー私別に逃げやしないしィ。ふつーに待ってるって。きっと今逃したら今日入れんの深夜になっちゃうかもよ?…てゆか、治癒術師としてそれはあまりオススメ出来ないんだけど…」


せめて遅くても10時前には寝て貰わないとね!

譜術士さんの用件はこうだった。
『入院患者専用の浴室の改良のための工事を担当した者が導入予定だった音機関の取り付けに失敗しまして……工事終了予定日は未定のため、暫くの間治癒術師達が使うシャワールームをお使い下さい』と。
…工事つか修理ですよねソレ。

どうも一般兵士は使わない(てか使っちゃいけない)入院患者のみが使用する浴室を改良に当たった業者があぼんしたらしかった。

爆発万歳フラグ万歳。さっきの爆音はまさかのココに繋がっていた。そういや、言われてみれば方向的に修練場方面…ってよりお風呂側だったわ。足音はこっちに向かってたからまだしもどこで起きてるかもわからんっつか修練場しか普通はありえないんだけど、そんなどこぞの譜術(じゃなかったけど)がまさか自分に関係してくるとは思わなんだわ。テキトーに聞いてたからどこ方面とゆか、方向なんざ一々考えてなかった。
てか音機関て。どんだけグレードアップさせたかったの。なんとゆか、流石…今更だけどもやっぱこの世界アビスだわ。こういう何気ないトコに音機関とか。工事とか、やっぱ音機関や譜業が付きもんなのかねそうなんだろうけど。浴槽のお湯とかバッチリ沸かしてる時点で無いワケじゃないんだろう。が、しかしもうここに11年もいるけどお風呂工事に音機関なんて初めて聞いた。なんか新鮮!

…にしても、改良させるハズが改悪通り越して爆破とか何事。腕ヤバすぎでしょ悪い意味で。それとも長年この世にいる割に私が知らんだけでオールドラントの業者ってのはみんなそんなモンなのか。
しかしそこで現在入院患者の一人であるシンクにもお触れが来たって訳だ。上手い事空き時間を見計らって指定された浴室を使ってほしいと。成る程成る程。

…さあ早く風呂に行くがよろしいネ、シンク…!


「私も治癒術師として召喚された時は利用するから知ってるけどさー、あそこのシャワールーム、夜間以外つまり朝とか昼が空いてる事が多いんだよ。夜は普通に業務を終えた治癒術師がどんどん使っちゃうし、その点朝以降なら夜勤明けの人くらいしか使わないから割と過疎ってるってゆーか…」

「チッ…逃げるなよ」


了承を頂けました。…舌打ちは聞かなかったコトにするよ!

カメラがないのが己にないとはいえマジで何で今日預言詠まなかったんねんと全力で後悔しちゃうくらい痛恨通り越して人生のミスすぎて、一瞬で移動出来る空間移動術を使ってでも自室に取りに行こうかちょっと本気で悩んだ。シンクが出ていった後、妄想は出来ても最終的には結局実行には移せないため「くやしいのうくやしいのう!」とか叫びながらシンクの帰還を待っていた。
地団駄した床に足がめり込んだ。




「わー…やっぱ長いんだねえ、下ろすと」

「当たり前でしょ」

「あはは、そっかあ」


先のシンクの打診(命令)に魂た…狙いを悟られぬよう口では「へーい」と気のない返事をしつつ心の中では「ええ、勿論ですとも」と良い子すぎる返事をして早数十分。仮面は流石にしたままだったけど予想通りにして内心の希望願望欲望通りに戻ってきて下さった御仁の姿に私は危うく嬌声上げかけた。


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