深淵 | ナノ


まさかこの姿を拝める日が来ようとは…ッ!

先の治癒術師達御用達な浴室へ渋々向かったシンク。その背に向かって、事態の打開や好転目的は勿論だけどヨコシマな願望もあったためニヤけそうなのを全力で耐えつつ「因みにビジョビジョのままでもOKなのって私が近くにいる時のみだったりするかもよー」とか投げ掛けた私。だがしかしそれってあながちウソでもなかったりするワケで。それもその筈、この世にはドライヤーンなるモノがないからだ。…ん?まさか新たなる音機関てまさかそれだったり…?いやまさか、ショートしたとかならまだしも爆発はないだろ、うん。

そしてお風呂から帰ってきたシンクは、果たしてぬれっぱだったワケで。まあここでは当たり前なんだけど。
つまり髪が下りている。

…よくやった自分!


「で、アンタに言われた通りビジョビジョのまま帰ってきたけど。一体何するつもり?」

「ふっふっふ、それは見てのお楽しみってヤツなのです」


シンクがビジョビジョとか言うと激しく似合わんのは何でだろう。レアだとは思うけど。

願望とはつまりアレ。アビスをプレイしたならば、もとい六神将or彼好きのおにゃのこあいやまさかおとこにょこもか?まあなんでもいいんだけど、そんな人達は恐らく特に気になって気になって仕方なかったであろうその実態。姿。

…『Q.シンクが髪下ろしたらどんくらいの長さがあるのか?』ですよ!
んでその答えが感嘆のため息を漏らしたさっきの私の感想参照、

『A.男の子にしては少し長い、バラつきはあるものの肩に余裕でつく髪。』

でした。バラつき云々は立てるのと顔の脇に下ろすのとがあるからだろう。
へちょんとした髪がなんか可愛い。間違えたスゴク可愛い。…うん、ちょっと動悸がヤバいかもしれない。萌え的な意味で。
…ヤバイ、今日の私パジャマもだったけど、このためにここにいるのかもしれない。

この極上のフリをくれた者に感謝せねばなるまい。
どこの誰だか知らないけれど、浴室爆破してくれてありがとう!


「よーし」


んではここいらでそろそろ、わざわざ念を押してまでシンクを風呂に嫁がせた最大の理由を披露しようと思う。シンクの要望も叶えられる(に違いない)、その一手を。
これで生譜術は終わりと、また討論するに値すると、そしてもひとつオマケであくまで卓上譜術で今日という日が終われば文句ナシ。


「それじゃあシンク」

「…」

「ちょ、構えないでよ!別に危害は加えないし」

「危害は、って事は何か別の事は企んでるって腹なんじゃないの?」

「挙げ足取らない!」


私は利き手を顔の前に、シンクの方に向かって掲げた。何かされると思ったのかなんか無言で構え取られたけど勿論スルー。いや穏便は求めたけど。
警戒心の高いコトは軍人の特性だと思うけどちょっと高すぎると思うよ!

私は晴れで無能だけど、なんか雨の日は無能になるとかいうどこぞの大佐みたいだなとか思いながら、私は指を鳴らした。摩擦熱が私にゃちと痛い。
シンクからまあ当たり前なんだろう自然低い声が飛び出した。


「…は?」


シンクの髪から第四音素の化身ともいえるモノが消し飛んだから。
もっと単純に言えば、水分が蒸発したから。

つまり乾いちゃったから。


「……何、今の」


未知のモノに対する警戒と探るような目(とゆか口)に、私はあらかじめ用意しておいた答えを渡した。
アリエッタだけではなくイオンをも騙し通せたこの世だからこそ通用する、その答えを。


「譜術。…の、応用」


ウソだけど。ホントは魔術ですけど。詳細は求むアリエッタ編参照。
まさかこんなとこに来てまで、彼相手にまで役に立つとは…。

別に指パッチンしなくてもかつての(二回目等)度重なる死亡事故により詠唱してるヒマなんぞあるかと無詠唱が基本となりつつある私であるからして直立不動のままでも良かったんだけど、なんかしらアクションしとかないとコノ子の場合そこでまたツッコミが入りそうで…。


「譜術見たかったんだよね?でも当たり前だけど派手なのなんて出来ないし。譜術にはこんな使い方もあるんだよって事で、後は譜術討論でもするとして実演はこんなもんで勘弁して頂けると…」

「…ソレ。」

「はい?」

「初めて見たけど、成る程ね」


何が!?


「『アンタがいる時のみ』って事は、言い換えればアンタがいなければ使えない…つまり、今のところアンタしかここ神託の盾で使えるヤツはいないって事だよね、違う?」

「…、違わないデスネ」


嗚呼頭の回転が。


「便利そうだね」


あっヤな予か――


「教えなよ」


やべーメッチャ食いついた。




「…そして貴様また命令形かよ!」と内心ツッコミつつ、私はかつてイオンやアリエッタの失敗を踏んで少しでも成功に導けるよう音素講義なんつーモンをシンクに披露していた。きっと刷り込みorヴァン組略してヴァ組(そういやどっかでこんな名付け方があるとかないとか…)に既に基本授業は受けてる筈、退屈しないよう目の前で音素を視認可出来る程お呼びしたりとかしながら。ああそれこそ最初(第一)から最後(第七)まで。
(因みに七番目のに至っては集めた瞬間めちゃくちゃ睨まれた)。

幸い音素さん方はここに来た当時から好意的だったし、それにたとえその歓待がなかったとしても魔術で(敵を)喰ってきた私には出来ない事でもないんだろう。…って私何でシンク(敵)相手にこんな、無い頭使って工夫凝らしちゃってんだろか…。
因みにその音素集めに対しシンクのメッチャ物言いたそうな顔いや仮面?に「訓練すれば出来るようになるよー」をまるでその辺に良く言えばヒント悪く言えばただの雑談のためだけに突っ立ってるゲームキャラの如く繰り返してみた。「ヴァンでもそんな事してるの見た事ないんだけど」とか突っ込まれてぶっ飛びたくなったけど。

そして結局軽い譜術モドキ等も強制発動させられた(幾つか家具が欠けた)(ツッコミヤだったのであえてそのままにしといた)のは総長には秘密にしておこうと思う。だが詳細は省く。ただ、しいて言わせてもらうならばパイングミ辺りが大量にあれば非常に役立ったと思われる。
余談だが、秘密云々はなんとシンクの希望でもあったりする。『ヒゲめんどくせえ』――シンクと私のヒゲ渾身のサンダーブレード避けたい一心がまさかのシンクロしたのは、後にも先にもこの瞬間だけだったコトだろうと私は思う。

匙投げろー匙投げろーと念じ続けて(そして何の効果も得られず)数時間。
結局この日はうっかりシンク社長の許で8時間労働してしまった平社員ナマエは、やっぱり新人・フローリアン君の面倒を見に行くコト(逃亡)は出来なかったのだった。

オール音素の素養反応が出たコトがトクだったり、とにかく強みになりこそすれ弊害になるなんて誰も考えやしないよ。…あ、いやそうでもないわな。激務の発端だったわ。
お手玉の如く七つの音素を空中回し(?)して遊んでる私を見て、脇でなんか更にやる気を燃やしちゃってる御仁はきっと、わかっていた事とはいえさぞかし優秀な譜術士となるコトだろう。

とりあえず、シンクが第四音素(かき集めて、)オアいやアンド?第五音素(蒸発させる。)の譜術に過敏もしくは愛用ましてや威力の底上げが図られたら、それらは確実に私のせいである。


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