復活 | ナノ


きっと雪女最強の遊戯。



20.コタツに蜜柑は雪女にはムリがある



体育祭後雲雀さんファンであろう女子…主に先輩のお姉様方から睨まれたりはしたものの、あれから特に噂もないため(てゆか全力で立ち回ったため)(そしてある日を境にピタッと…。…風紀?)それ以上のこれといった被害はなく、季節はあっという間に晩秋を過ぎ真冬に入っていた。


「やべえ雪超降り積もってる。…ヒヒッ」

「あら名前、あなたそんなに雪好きだったの?お母さん知らなかったわ。…というより去年まで『私は雪で霜焼け作るくらいならお部屋でぬくぬくしながらゲームして親指にタコ作る』とか言ってなかったかしら…」

「あー…いや、ハハ」


実はのちになって、というか僅か数分後になってあながち余談ではなかったと私は思い知る訳なのだけれどもそれはさておき、雪女の名残が一番濃い私は寒さで少なからずテンションが上がり気味だったりする。おかげで自宅の居間の窓に張り付く私にお母さんは目が点だ。Oh

そして生前の私はそんな事言ってたのか…。ただでさえ保身はともかくいまいち命には関わらないせいか(いや関わってくれなくて大いに結構なんだけど)毎日学んでるハズの中学校レベルでさえ頭に留めておけないスペックが残念な私が大昔に口走った事を覚えてられると?答えは言うまでもないだろうよそんなん全部忘れたわ!ごめん!

…ま、そんなちょっとおかしいテンション(いつもとか言うな)だからといって日常は特に変わらないんだけどな。

しいて言うなら冬の太陽は夏に比べれば雲泥の差なので外出への抵抗が減ったというところくらいか。むしろ寒空の下で過ごしたいとか。だって家は家で暖房でヤバイのさ。気を利かせてくれる母には申し訳ない話なんだけどさだからお母さんその手に持つリモコンの上ボタンこれ以上おお押さないでくれ…ってあっちょ「ピッピッピッ」じゃなくて……ギャアアア!

…本題。

以前にも増して警戒度を強め校内ましてや教室内で何が起ころうが我関せずを貫き通し黒い赤ん坊その他の波動(クラスメイトは授業のみ許容)も完ぺき避け続けて。
その上で不可避な学校行事は経験上何かしらが起きるとよくわかったので(例・体育祭)、最終手段として仮病による欠席をかまし(ズル休み?何のコトかな…)、この数ヶ月奇跡的に何事にも巻き込まれずに済んだ。

ついでにあの南国果実にもNot遭遇。
てか、コレに至っては夢の世界なためどうしようもないのだけど『また』があるなんて案外私の考えすぎだったんだろうなと最近思い始めている。

そしてついに新年を超無事に迎える事ができた私。

…なのだが、しかしここでコレが普通だと気付いた私は大分自分の認識レベルが奴等に汚染されていたコトに軽くショックを受けた。
しかしそれはそれ、お正月もおせちを食したりのんびりしたりと堪能はしたが。

更についでに3学期に突入し一応ひと月が意外に…じゃないよコレが普通なんだよだから当然平穏に過ぎ2月にも入ったのだけれども、正直架空バレンタインデーなら画面越しには何度も経験すれどもリアルバレンタインデーなぞ当たり前だが(視界がぼやける気がするが雪が目に入っただけというコトにしておこう室内だけど)私には無縁なため父に母と作った義理チョコを渡しただけで終了した。…なんというか、甘さもへったくれもなかった。チョコなのに。

そんな何気ない日常を満喫し平和を噛み締めていたある日の日曜の風景が、家の外を銀世界に染め上げた猫にマタタビなら雪女に雪と言わんばかりのそれの山、冒頭のドン引き…とは精神が(私と違い)ギャグではない母なためいかないが、少なからず異様に目に映ったらしい(中身好い年こいて)はっちゃける私。

結構今更だけど、私はこの世界で焦がれに焦がれた両親に再会できた歓喜により、というか親孝行は出来る時にしておくべきと生前身を以て学んだため手伝い等は自らするようにしてた訳さ。どのくらいかといえば以前「気持ちは嬉しいけどそれより勉強しなきゃ!」と母に止められた程。どこの良い子かと自分で自分に突っ込んだ日も久しい。しかしゲーム没収で懲りた私はそれから普通に勉強し続けたので最近の成績は上々、そんなお叱りを受ける事も無くなっていた。
そこで休日である今日、そんな母が朝食中しまったと呟いた。因みに父は仕事疲れかまだ布団の中なのでこの場には居ない。何でも醤油が残り僅かなのを忘れていたらしい。

そういえば少し前に私が夕飯担当した時もギリギリだったような…?納得しつつ、「まだ雪積もってるし危ないわよ」と渋る母へは私雪道って意外と得意だからと(何たって雪女)結構意味不明であろう御託を並べて、全くと言っていい程面倒くさがりもせずに商店街へ出掛ける事にした。

そしてこれはホントに余談だが、エセ行方不明設定のおかげで外出に制限がかかるかと春先は踏んだものだが、両親は子供を学校以外で家に閉じ込めるのは些か過保護だろうという考えらしく、その辺は寛容だった。そのため今回のように必要があれば普通に出掛けている。(じゃなきゃ薔薇とか漫画とか今頃全部通販頼みになっている)。
そら、門限は6時厳守だけど。しかし私は中学生(仮)なので妥当といえば妥当。

…まあ、誘拐ではないって言い訳しちゃったしな。加えて遊ぶような友達がいないワケでもないけど彼女のその内見え隠れし始めるであろうボンなんちゃらな背景のために誘われたところで基本なにかと理由をつけては断ってきた。そんなオタクならでは、半引きこもり生活を地で行く私にはあまり関係のない事ではあるけれども。ゲーセンだってこの姿じゃ早々に追い出されるだろうしな。ここに来てからは行ってないのでわからんけども。

しかし考えたらあと約一ヶ月でこの世界に来て丸一年とか…。
何だかあっという間だったけど、久しぶりの人間界なせいか割と濃い一年だったよねホント。いかんせん長生きしすぎて時間の感覚がマヒ気味だから日常に変化がないと薄っぺらに感じるんだよな…。

あまり宜しくない展開が殆どだったけれども。


***


外に出てみると白すぎて目がチカチカした。ここ何日か並盛町には雪が降り一面銀世界…とまではいかずとも、中々の雪景色を演出していたからだ。
…うむ、やはり私も雪女。雪に囲まれると花を愛でるかの如く気分が浮上する…なんか私が言うと微妙だな。じゃなくて、そうだついでに薔薇も買って帰ろう。
そして吹き飛ぶお年玉。


「…まだ(まだ)暑いんだけどねー」


辺りには刺すような風が吹き荒んでいるものの私にとってはそれでもまだ暑い訳で。しかし流石に私も世間の目は気になるため半袖短パンで繰り出す訳にもいかず。結局選んだのは薄手の長袖に単にスカートの方が涼しいとかいう理由で膝丈スカートとこれまた薄手の上着を羽織って家を出てきた。
…コート着る日なんてもう来ないんじゃね?とかぼんやり思った。

因みに「あなたそんな格好で出掛けるなんて何考えてるの!」とコートを押し付けてくるお母さんには子供は風の子説をゴリ押ししてきた。そしたら珍しく「風邪の子になっちゃうわよ!」と返ってきた。オカンェ…。


「はー…さて、行くか」


吐いた息が白く空気に溶けていくのを何とはなしに見ながら歩き始めた。因みに私の場合冷たすぎて白くなるっていうね、ホラさ、雪女の吐息ってマイナスホニャララ度だからね…。

足を踏み出す度、雪がくこくこと独特の音を立てる。雪を踏む際の感触が靴底から(一応長靴…母がいつの間にか可愛らしいデザインのを買っていた。だから何で日傘といいそんな乙女なんだ母よ…)伝わるのは楽しいんだけど、私としては素足で歩きたいというか。バッチイ事を除けばほわんとするしな(冷たいけど)。ごめん母。…あれ二回目?


「――流石に誰もいない、か」


近道を選ぶと商店街に向かう道中並中の前を通りかかる。けれども今日は休日、特に避ける理由もないだろうと普通に門前を通過した。何気なく校庭を見てみるも流石に積雪のせいか部活動に勤しむ生徒は一人も見当たらない。
普段は下校したら学校には保身のため一切近づかないから無人の並中校庭なんて見慣れてなかったりする。何だか新鮮だ。

並中前を通り過ぎ、轍の跡ではなくあえて誰にも踏まれずキレイに雪が積もったままの道を躊躇なく歩いてみたり。…雪女スキルって冬(限定で)は最高。実は雪や氷においては自分で発生させた物でなくとも自由自在だから簡単にその上を歩いたり走るなんて芸当も可能なので。

滑るように意気揚々と雪道を攻略しながらのんびりと商店街を目指した。


***


「…小指一本で楽勝て」


頼まれた物以外にも道すがら冷蔵庫の中を思い出しつつ必要な物を選んでいたらそこそこの量になってしまった。…んだけど、そこはまあ私なため重くて腕ちぎれそうなんて展開になるコトもなく。

母は雪も残ってるし危ないから軽いものだけ、と調味料しか頼んでこなかったのだけれども、折角買い物に来たのだからと色々買い足した方が良かろうと思ったのだ。お金は多すぎる程預かってきたし必要最低限でもあるから問題がある筈もない。しっかし何だ本日のこの(コートを除けば)良い子の見本しかしてないような私の今日の行動は…や、死に別れを経験したんだから別にこれが普通なのか?
……、死に別れってか転生やら人外やらの時点で色々アウトだな、うん。

ところで母がお駄賃、というのも何だが余ったお金で何か買って良いとの事だったので、ここ並盛で評判のラ・ナミモリーヌでケーキを六個ゲットしてみた。家族三人一人二個ずつの計算である。

しかし重くはないが嵩張る事には変わらないため、雪女よりは薄い名残といえど微エルフっ子ってコトで箒に引っかけて運びてぇーとか考えつつ(魔女のように魔法自由自在ってワケでもないのに長い棒状のモノさえあればそれに跨がるだけで飛行は縦横無尽とか…)、来た時と同じように近道を選んで帰途についた。


「…あれ?」


しかし並中が再び見えてきた所で、先程とは違い校庭が賑やかな事に気がついた。
エ、この積雪量で部活?さっきまで誰も居なかったよね?熱心な生徒ら辺が集まったんだろかと大して気にも止めず、門前を通過しようと足を踏み出し――

たのだが、それが不味かった。


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