復活 | ナノ


あー、突然ですが私は長年死線を掻い潜ってきたせいで殺気には条件反射で即座に身体が対応してしまいます。しかし裏を返せば殺気のない攻撃には若干反応が遅いって事なのです。そう例えば、任務(買い物)を終え思わぬ収穫物(ケーキ)に思いを馳せて気が緩みきっている今とか油断真っ只中なんで特に、です。
しかも前線で戦いに明け暮れてた時よりは確実に平和ボケして反射神経は鈍ってる…というか休んでいるから余計に、です。

何が言いたいかって、校門前を通った瞬間突然襲い掛かった白いテニスボール大の塊、つまりどこからともなくひゅーんとか言いながら飛んできた雪玉を避けられず、門に対し平行に歩けば向きの関係上そうなる道理の身体の縦半分に数発浴びてしまったのは、運が悪かったってのもあるんだろうけど結局のところは自業自得って事で。

まあ予期せぬ奇襲を全て避けるなり叩き落とすなり出来てたらそれはそれで昔の私の感覚からしてみればどんだけ人外してんだよって感じだけどそしてそれをその道の達人もっとハッキリ言っちゃうとこの世界の中心と言っても過言ではないマで始まってアで終わるのに目撃されてたらそれもそれで言い訳という名の逃げ道が潰れそうなんだけど。

微かな音から次第にはっきりしてきたそれに接近を知ったけれども、生憎避けようにも両腕にぶら下げた大量の荷物の中身が一瞬頭をよぎったのも敗因の一つだった。
特にケーキなんて派手に動けば箱の中で確実に悲劇を迎える。それだけは御免被りたかったので。


「ブッ!?…うわ、ないわー…」


それらの事を脳内で葛藤した結果が、瞬く間に半雪まみれ、リアル半雪だるまにされた今の私の憐れな姿。
そして地味に痛かったため思いの外大きな声が飛び出た。服に覆われてない剥き出しの頬がひりひりする。一応荷物は買い物袋に入ってたから良いようなものの、それでも見事に雪を被ってしまった。…うーん、天然雪見なだいふくの出来上がり?(ケーキだけど)。因みにこの身体なら一応何コでもイケちゃうハズなのだが、しかしそれもおこづかい(と使い方)が気の毒な私は想像するだけで終わるため実行には移せない。


「一体どこから…まあこんなある意味良い天気なんだし風物詩として妥当っちゃ妥当なんだろうけど。…あ」


もしやと思い校庭を見ると、案の定雪の日の定番・雪合戦が繰り広げられていた。あ、あー成る程、部活じゃないのか…、


「おーい!」


全く誰だよ校庭のド真ん中から校外まで飛ばしやがってある意味器用な奴め…と半目になりながら雪を払っていると、デカい声もあげた事だし通りすがりの私に雪玉をブチ当ててしまったのに気づいたのだろう、輝く金髪の顔立ちからして外人らしき男性が呼ばわりながらこちらに駆けてきた。…何故に大人。しかも外人……外人?


「大丈夫だった――うおっ」

「えええ…」


…がしかし、私の所に到達する前に盛大にコケた。い、痛そうだ。音にするなら「ずるっベシャ!」といったところだろうか。お、おおう…大の大人が雪合戦しかも顔面からダイナミック自爆…見た目は良さそうな人だったのにあれじゃ折角の顔が台無しなのでは…。雪は残念ながらクッションにはならなかったのか何やら(美味しそうな)香りが…。
…おいやめてくれよ。こちとらもうかれこれ一年近く人の生き血口にしてない事になるんだぞ刺激強ェーんだよコノヤロー!イケメン(仮)のようだからな、なっおさらァ!


「ちょ、貴方こそ大丈夫ですか?」


一応謝りに来たみたいだし目の前で転んだ人を見捨てるのもどうかと思うので(けして血に引き寄せられたワケではない)、雪に埋もれてしまった金髪外人(仮)に急いで近寄り声をかけた。まさか『返事がない。ただの…』なんてコトはあるまい。…ないよね?

顔を左右に振り雪を払いながらまあ当たり前だが一応しかばねではなかったらしいその人はのそっと上半身を起こそうとした……のだけれども、今度は支えようと着いたらしい手を滑らせた。何このギャグ。案の定また顔面かき氷(シロップ=血)になるところだったので思わず異性とか気にしないで抱き留めてしまった大丈夫と見なしてからそんな競技があれば(どんなだ)1位は確実な勢いで急いで離れたが。
でも…香水?なんか品のイイニオイがする…。クンカクンカ。…なんかマジもんの変態みたいだな(もう手遅れ、か…)。


「イテテ…何故か今日はドジってばかりだぜ…」


いやホント、言っちゃ何だが本人も言うように少々ドジっ子属性をお持ちのようである。まあ雪は人間じゃ大人でも行く時はあっさり行っちゃうんだけれども。雪つか凍った地面か。
そうは言ってもだな、顔面から一切の抵抗もなく見事に突っ込んでいったように思うよ。加えて起き上がる時までバランスを崩しかける始末。
それにしても、さっき見た時も思ったけどこの人、間近で見ると更に……。

一言で言おう。


「かッ…!」

「か?」

「あ、いえ。何でもないデス」


――カッコいい。なんかそのキラキラした金髪とか纏うオーラとか諸々直視出来そうにないんですが…。目、目がッ。
つまり雪まみれで案の定額や頬を擦りむいて血が垂れてるけれどもそんなの関係なしに眩しいくらいの美青年だった。ウオオオサラサラ金髪、睫毛長ッ!

…つか、目の前の金髪外人(仮)の顔立ちもさる事ながら、このドジというかへなちょこ具合、しかも無自覚……頭の隅で警報が鳴りまくってるような気がしてならないんだが。

ヤッベ。


「かっこわりぃ所見られちまったな…ってそうじゃなかった。お嬢さん、怪我はないか?」

「いやどう見ても貴方の方が重しょ…じゃなくて、あー………濡れただけなんで大丈夫です」


頬は多少痛むがな。
そして今の間は何だろってな不思議顔(でもイケメン)を頂戴したがとりあえず無視しとけ。


「ごめんなー、つい雪合戦で白熱してたら何故か投げる雪玉全てが全てあらぬ方向に飛んでっちまってさ」


年甲斐もなくはしゃいでた訳ですね。いや元気だな金髪外人(仮)よ。や、もう(仮)はいらんのか?…ってそんな事はどうでもいい。
私の勘が告げている。早くこの場から撤退しろと!

対面するように作られた雪の壁に阻まれて雪合戦に興じるメンバーの顔触れが見えず壁と壁の間で雪玉を拳で粉砕してる人も後ろ姿で誰かピンと来なかったのだが、波動を辿った瞬間覚えのありまくる魂を複数感知し(幾つかは知らん、だがしかし何故か雪に埋もれた魂まである)頭を抱えたくなった。むしろ今日はその辺の雪山にでも頭を突っ込んで頭を冷やして猛省すべきではなかろうかとさえ思った。私じゃ「冷てェ!」ってなるどころか元気になっちゃうけど。

…ちょっと注意すれば回避できただろうに、今まで休日に奴等と接触した事がなかったばかりに完全に油断していた。
いやでも、休日まで気を張り巡らせるくらいならそれこそ外出しなきゃいいって話なんだよねそうだよね。だけど夏はともかく冬までずっと家の中は雪女的にはそれは如何なものかというか…。てかそれ以前にゲームとかでまま引きこもる事はあれどもマジで休みは全籠城とか両親に不審に思われるわ。

とにもかくにもこの金髪外人(外した)をどうにかせねば。雪玉如きで一々食って掛かってその間にあやつらに気づかれたらそれこそ本末転倒、てか彼の方が私より酷い怪我してるし。私のなんて怪我の内に入らん。吸血鬼の回復力上何かもう治っちゃってるし。今の私を鏡で見たら赤い掠り傷どころか生き血不足による赤みのカケラもない何とも不健康な顔色のみ遭遇する事だろう。


「ええと、私は平気ですので…それより、お節介かもしれませんがお兄さんの方こそ怪我の手当てはきちんとなさって下さいね、バイ菌が入ると厄介ですし。ああそれと、無いよりマシだと思うのでこれ、良かったら使って下さい」

「いやそんな事ないさ、むしろ雪玉ぶつけたのはオレなのに。…ありがとな、じゃあこの絆創膏はお言葉に甘えて使わせてもらうけど、何か礼を…」


そう言いながらニカッと笑った金髪外人の笑顔は太陽並に眩しかった。不覚にも暫く拝んでいたくなった(実際のそれと違って目も焼けない事だしネ)。しかし早く別れたいが為に治癒術を学んだ身としては放っておけない怪我に対して対処させて頂くべく、とりあえずちょうど袋から顔を覗かせていた絆創膏(私は使わないが救急箱の残りが少なかったので買った)を箱ごと半ば彼に押しつけるように渡す。

寸暇も置かず私は立ち上がった。

すみません用事を思い出したのでこれで失礼しますもう転ばないよう気をつけて下さいね!といつぞやとゆか今や結構前となる雲雀さん初遭遇時のように言うだけ言って、私はその場から逃走したのだった。




「…行っちまった。っていうか、足速すぎじゃないか?あの子。しかも……ケーキ、か?コレ。忘れてったぞ」


***


両手の荷物が約並中(正確に言えば外だったんで)で路草を食う前より僅かに軽かった事実に気づいたのは、その後の夕飯時に母に「好きなお菓子とか買って良かったのに…」と呟かれた瞬間だった。

畜生、折角のケーキが。

しかし後日、謎の黒スーツ外人から「先日我々のリーダーがお宅のお嬢様に大変お世話になったのでそのお礼です」とラ・ナミモリーヌのケーキ全種類詰め合わせが届き、部屋で「誰が来たんだろうまあ何かの勧誘だそうに違いないプヘー」と暢気に構えていた私を震撼させた。

私がラ・ナミモリーヌのケーキを忘れたから、甘い物が好き=その店の商品をお詫びに持っていけば間違いないと考えたんだろう。
…ボスって言わないところがしっかりしてるというか何というか。

受け取った母から人助けに対し誉められるのと同時にやはり苗字家の位置情報は漏れてる…というより調べられてるのかと遠い目になった。とは言っても別に幻術とかで隠してる訳でもないから普通に見つかっても仕方ないためすぐ立ち直ったが。

きっと彼なりの親切に対するお礼だったんだろう。
という事で、あのラ・ナミモリーヌのケーキ…!(しかも期間限定やら個数限定のまで揃ってるっぽかった。さ、流石…)絶対に腐らせてなるものかと、無理してでもケーキを3日程で完食したのだった。
(家族一人あたり優に10個は越えた)。

余談だが母は体重増加云々よりこんな美味しいケーキを沢山食べられて嬉しいわと喜んでいたし、父も割と大量のケーキに抵抗はなかったようなので良しとした。驚愕通り越してポカンとはしてたけどな。
私も体重は増えた所で女子中学生として…というより人間として元々おかしい重さなので問題は無いっちゃ無かった。

因みに私がうっかり忘れたケーキだが、あの後奴等で適当に分けて食べたらしい。後日、学校にて代表としてか沢田君がお礼とお詫びに来た。あの場では気づかれなかった筈なのだが、金髪外人の部下も訪ねてきたくらいだからヤツ、あの赤ん坊辺りにはまあバレてたんだろう。で、沢田君を寄越したと。紙の向こうの私にはわかっていたコトだが、上下関係がよくわかる人選である。
とりあえず、無駄になるよりは誰かの胃袋に入った方がケーキも嬉しいだろうという事で、これに関してはもう特に言う事もなかった。

しかし確実に主要人物との接触は増えた事に変わりはないので、何とも言えない気分になったのだった。




こうして私の並中1年生としての人生は様々な、するつもりはゼロでも布石としか思えないような不安材料を残しながら、幕を閉じたのである。


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