もしかして、彼女って結構普通じゃ……ない? 13.少年T.Sの憂鬱 「…た、助かったー…」 「流石にどうなるかと思ったぜ…」 夏に差し掛かったある日の放課後。 今日こそ何事もなく学校が終わるかという時に、リボーンが山本を獄寺君に認めさせるとかで「入ファミリー試験」なんてまたワケのわからない企画を持ち出してきた。 …うん、こないだも言ったけどさ、ああそれはもう数週間前くらい(つまりぶっちゃけリボーンと出会っちまった最初ら辺)からこいつが突拍子もないのは結構わかってきてた、わかってたけど!でもよりによってクラスメイトで友達の山本を巻き込むなんて!しかも山本は野球一筋で頑張ってんだぞ、どう考えても駄目に決まってるしオレは山本とは普通の友達でいたいんだよ!! …でもオレの必死の抵抗も虚しく(それが全くもってリボーンに効き目がないのも残念ながらわかってきちゃってるという…う、嬉しくねー!)、いつの間にか試験が実施される流れになっていた。 しかもオレと山本宛の課題(さ、最悪だ…)を持ってきてくれたとかで、オレの中では山本並にいやむしろそれ以上に巻き込みたくなかった苗字さんまで(彼女は下手したら京子ちゃん直通になるやも…だからごめん山本!)タイミング悪く、これから入ファミリー試験の現場、多分悲惨な結末になりそうな予感&気配が漂うこの校舎裏に来てしまったのである。 …にしても、失礼だけど苗字さんが持ってきてくれたって事は彼女も平均いかなかった…とか? だって少し前に、オレと同じようにってのもアレだけど根津にネチネチイヤミ吐かれてたし(プリントは理科だった)…まあ、その後何故だかヤツは腰抜かして尻餅ついてたけど。…もしかして苗字さんが何か……いや、まさかな…(獄寺君じゃあるまいし)。 オレがそうして思考の海に沈んでいる時、これで役目は果たしたからとこの場を立ち去ろうとした苗字さんの邪魔をしたのはやっぱりというか、リボーンだった。 苗字さんは今のところリボーンを普通の赤ん坊として捉えてるみたいだったけどそれにしては若干棒読み(しかも吃り気味)で話してる気が…まあ小さい子と会話するのに慣れてないだけだよな――そんな苗字さんに対して、リボーンは案の定物騒な質問を始める始末。 加えてフリーなんだからファミリーに入れだとか吐かしやがった。 つーかいつの間に調べあげたんだよ、ついこの前まで何モンかわかんねー発言してたクセに! そしてついでと言わんばかりに結局、苗字さんまで試験に強制参加させられる事になってしまった。勿論リボーンによって。 あーもう!彼女は京子ちゃんと少なからず…というか相当接点があるのに!(そして羨ましい!)。 そしてにべもなく(こないだ国語で…むしろリボーンに習った=命懸けで叩き込まれた表現だったりする)投げ付けられたナイフから試験は始まり、オレも巻き込まれつつあらよあらよという間にそれは進んでいった。 しかも途中で何故かランボも乱入しながら、最終的には大量の爆弾やら何やらが迫ってくるという絶体絶命のところまで来てしまっていた。 ……。 …って…いや、ちょ、ハアァ!? オレと山本、それに苗字さんも――リボーンの言う通り、彼女が運動神経がズバ抜けてるのがよくわかった気がした――ここまでは何とかよけてきたけど、これはいくら何でもマズイだろ?! しかしここで、思わぬ天の助けが入った。 突然脇腹に衝撃(…と、うひゃっ!な、何かくすぐったいんですけど!?)が走ったかと思うと、身体が浮き上がり顔が下を向き視界に地面が広がった。 次に、今度は急に地面が遙か遠く離れていったのがわかった。どうやら自分は誰かに抱えられその誰かによって、危機を脱したらしかった。 あと、跳び上がったのだと理解した時、反対側に山本も抱えられていた事に気が付いた(そして彼も「おわっくすぐってぇ!」なんて顔してた)。 そうして安全そうな所にその誰かとやらが、軽やかに無事着地した後。 大爆発で発生した煙が晴れていくのと同時に、あの場にいた人間の内一体誰に助ける余裕が…?――まさかと思う間もなくクリアになった視界の中、見上げて確認した顔に驚愕するしかなかった。 本日一番無関係だったであろう、苗字さんだったからである。 信じられないけど、リボーンの言っていた通り余程の力持ちなんだろう。 男二人を――オレは小柄な方だけど山本はガタイが良いのに――軽々と抱えながらしかもあの爆発現場をひとっ飛びで回避するなんて、まるで死ぬ気弾を撃たれた自分みたいだと思った。 …ん?もしかして……リボーン? そして、彼女自身も今まで攻撃を回避してた筈なのに全く疲れた様子を見せず、かといって焦った感じもなくその場にオレと山本をそっと下ろしてくれてから、目にも留まらぬ速さで逃げていってしまった。 …脱兎の如くってああいうのを言うんだな(やっぱりこれも国語むしろリボーンに以下同文…)。 …あ、ぼーっとしててお礼言いそびれちゃった…ホントオレって情けねー。 でもそれは…山本も、同じみたいだったけど。 そうして、冒頭に至るワケである。 「そうだ山本、怪我とかしてない!?もし野球に影響でもしたら…!」 「あ、ああ…特に大きな怪我はねーみたいだ。だけど、」 「まさか…もっとマズいところとか!?」 「いや、そうじゃなくて―― …何でオレ達、ほぼ無傷なんだ?」 「…え?」 そこで気が付いた。さっきまで身体中掠り傷やそれこそ火傷とかで痛くてしょうがなかった筈なのに、それらの痛みがかなり軽減していた事を。え、どういう事だろ…。 その時、勢いよくかけられた声で我に返った。 「申し訳ありません10代目!!オレとした事が、ついやりすぎてしまって…!」 「いや、助かったからあんま気にしないで…いいよ…(最後の方とか何故だか皆明後日の方に墜落して爆発してたみたいだし…つーかさっきから謎ばっかだな…)」 「よくやったなツナ、そして山本。これで山本は試験合格、正式なファミリーになったぞ。逃げられちまったが名前も合格だ」 「ゲッ…そういえばそんな話だった…!」 「…あー、サンキュ。…でも、最後は苗字に派手に助けられちまったなー」 「ちったー見直したぜ。最後を除いたとしても、10代目と(癪だけど)同じようにあそこまで攻撃をよけきったんだからな。ま、10代目にはまだまだ及ばないだろーが一応そこまではやりきったんだ。 …ファミリーとして認めない訳にはいかねーだろ」 「獄寺…」 「だがな、10代目の右腕はこのオレだからな。お前は仕方ねーから…そうだな、ケンコー骨だ。 あと苗字は…、…小指の骨にでもしとくか」 「けっ…ケンコー骨!?小指の骨!!? つーか、獄寺って前から思ってたけど面白い奴なんだな!」 「ハア!?」 山本と獄寺君は意外と息が合うのか合わないのか、どっちが右腕に相応しいかなんて騒いでる中(何か仕舞いには鼻毛とか鼻クソとか…一体何を経てそんな内容に…やっぱ前者?)、オレはリボーンにさっき思い付いた事を訊いてみた。 「…なあリボーン。さっきってもしかして、苗字さんに死ぬ気弾を撃ったりでもしたのか?」 「オレは攻撃してただけで今回は何もしてねーぞ。 第一、試験なんだから手助けしちゃ意味がねーだろ。それに名前は制服のままだったじゃねーか」 「あっ…それもそうか」 「オレの見込んだ通りだっただろ。それに今回の試験でアイツも見事合格だ。何ったって最後は名前のおかげで命拾いしたんだからな。 良かったなツナ、一度に二人もファミリーが増えたぞ」 「だからそうじゃなくてェー!」 つーか山本もだけど苗字さんまで何か認められちゃってるし!どうすりゃいいんだよ!? 「そういえばツナ。お前、怪我はどうした」 「ハァ…。あーその事なら…山本に言われるまで気付かなかったんだけどさ、ついさっきまですげー痛かった筈なのにいつの間にか殆ど治ってたんだよなー」 「……確かか、ツナ」 「なっなんだよリボーン、そんな深刻そうな声出して…別に大怪我するよりはマシじゃんか」 「お前、気付いてたか?名前だけ無傷どころか砂汚れすら身体に付いてなかったんだ。試験前と全くと断言していい程に変わらない姿だったんだぞ。 まあしいて言うならこの暑さだ、多少汗くらいはかいただろうが(…の割には、顔色は優れないみたいだったがな)」 「…え……う、ウソー!?あんなにドンパチやってたのに!?」 「ああ、つまりアイツは一撃も食らわなかった上に砂塵からも完全に身を護ったという事になる。 しかも――怪我に関しても、状況的に名前が何らかの処置を施した可能性が高い」 じ、状況的にって…確かに苗字さんはオレ達を抱えて助けてはくれた。…だけど前の山本の…自殺未遂騒動の時もそうだったけどいくら何でも…、 「腹ら辺撫でられてたじゃねーか。しかもビミョーどころかかなり邪悪な手付きで」 「邪悪!?」 どんなだよ! …ったく一体何を言い出すかと思えば…でも気が動転してたせいか、な、撫でられた前後に治癒したのかオレにはわからなかった。ってか……それよりも。 「!?何か妙にくすぐったかったけどあれって苗字さんだったの?!しかも何そんなヘンなトコ気付いて…!」 「それこそ状況的に名前がセクハラしてたとしか考えられねーだろ。まあツナの証言じゃそのおさわりの効果かどうかまでは判断材料には欠けそうだな。 あと、オレの観察力を甘く見るな」 「…セクッ!?おさわっ!!? (ってかまたオレの思考読んだな…!)あー…コホン、…いやつーかさ、甘く見るも何もんな無意味な部分にその実力とやらを活かしてどーすんだよ…」 「意味ならある。ヤツの性癖がわかって一歩前進だからな」 「何か違くね!?」 「…まあ何にしてもだ、こりゃ大物の予感だな。心強いじゃねーか」 それも違う!! |