復活 | ナノ


確かに怪我は一度は、した。
それが知らない間に8、9割方の完治と言っても過言じゃない程に回復してたのも事実だけれど――それでもこないだの、さっきも思ったけど自殺騒ぎの時の突風擬き?もそうだったけどいくら何でも、たまたま苗字さんが関わったからってこじつけてるようにしか思えない。
だって怪我の回復ってそれこそホントどこのRPGだよありえないだろ…フツーに考えて。一体リボーンの思考回路はどうなってるんだか。
…、…この辺で思考はやめておくに限る。

でも……と、とりあえず、ごめん苗字さん…。お礼言えなかったどころかなんだかリボーンの中で苗字さんが超人みたいな扱いされてるせいでもっと厄介な事態になりそうだけど、オレにはもう止められそうにないかも…。
あと京子ちゃんにも今から万が一の時用に言い訳や謝罪内容(と、どうにかしてオレが嫌われないような立ち回り…とか…)を捻り出しておくべき、ってか…。

…何か、日に日にオレの悩み事が増えてってんの、気のせいじゃ…ないよな?
ガーン…(思わず口で言いたくもなるだろうよ!)。




「じゃあまたな、チビ。オレこれから部活だか……ん?誰のだ?この鞄」


最悪の現実にオレがうちひしがれてる間に獄寺君と山本の(謎の)言い争いは決着したみたいだった。だから山本はリボーンに挨拶し部活に向かおうとしていたんだろう。

そうして山本が自身の並中生にしては大きな鞄(朝持ってたのとは違うやつみたいだった。きっと野球道具とか入ってるんだろう)を持ち上げこの場を去ろうとした時、彼の通り道上にあったから視界に入ったんだろう、彼の物に比べればかなり小さめなソレつまり、誰かの鞄が一つ、先程のどんちゃん騒ぎで散々にヒビ割れ抉られた校舎裏の、運良く爆発に巻き込まれず無事だったんだろう亀裂をさけたかのように比較的損傷の少ない地面に、ぽつーんと落っこちていた。

オレの鞄かと一瞬思ったけどそもそもオレのはまだ教室に置いてあるからこの場には持ってきてないし、じゃあ獄寺君のかと思って目を向けてみると「オレのじゃないっス」という風に顔を横に振られる。

…ちょ。
状況から察するに、そして消去法的に行くと……こ、これはもしかして、もしかしなくとも。


「……確実に、名前の鞄だな、コレは。さっきヤツは側転してたからな。その時には既に落ちてたぞ」

「(側転!?)や、やっぱりー!っていうか知ってたならせめて引き止めてやれよ!多分気が動転したとかで忘れちゃったんだろうし…!」

「それだけ名前が素早かったってコトだ」

「冷静に分析してる場合かァ!」


そりゃ確かに声をかけるヒマもないくらいの勢いでぶっ飛んでっちゃったけどさあ!
…いやでも、ホント苗字さんって足速いよな…しかもあろうコトか校門まで飛び越えてたし…やっぱ、化けモ……いやいやまた前みたいに失礼な事言うところだった。

だけど今はそれよりも、


「あーあ…じゃあせめて苗字さんに届けな……おっおいリボーン何してんだよ!?」


苗字さんはただプリントを持ってきてくれたってだけなのにあんな目に遭わせてしかも、無関係だったのにも拘わらずオレ達を助けてまでしてくれたのに、忘れ物をそのまま無視ってのも人としてどうかと思ったオレは、謝罪にもならないだろうし行き違いになる可能性もなくはないけど、それでも鞄を彼女に持っていくべきだと即座に思った。

…のだが。

オレがその考えに至った瞬間には既に遅く、目にも留まらぬ速さで鞄のファスナーが開けられたかと思いきや。
苗字さんの鞄が逆さまになっていた。

勿論、リボーンの手によって。


「な、何て事してんだよリボーン!!女の子の鞄漁るなんて…!」

「ここに名前のヒミツが隠されてるかもしれねーからな」


ドサドサッ!と豪快な、あと…カンカラカラン…と軽そうだけど固いような、そんな音を幾つも立てながら、無惨にも地面に散らばる苗字さんの鞄の中身。

…って、固い?しかも複数?

教科書や筆箱は豪快なその音からしてわかるけど、それだけにしては何だか妙な気が……弁当箱か?いやおっきなハンカチとか布製の袋とかに入ってるだろうから(女子がそうした弁当箱を持ってるの見た事あるし)そんな音、フツーは響かなそうだけど…。

あと…何だろ?
何だかいかにも女の子、みたいな甘いような、でもキツくはないこの香り。これって――?

オレが疑問に思っていると、部活動へ向かおうとしてた山本や成り行きを見守ってた獄寺君も興味があるのか近付いてきた。


「おいおいチビ、流石にそりゃマズイんじゃねーか?」

「流石リボーンさん!冴えてますね!!」

「ちょ、何誉めてんの獄寺君ん!!?」


至極マトモな意見を述べた山本のそれには耳を貸さないリボーン(そういえば試験直前、山本の台詞だけ遮らなかったっけ…リボーンって都合の良い言葉しか耳に入ってこないんじゃ…イテッ!銃口ゴリゴリすんなよリボーン今は中身に集中しろよ!…いやそれもダメじゃん!!)、だけどいけないとは思いつつもオレも疑問からついついしっかりとリボーンの手許を覗き込んでしまっていた。
(因みに獄寺君の誉め言葉に対してのリボーンの表情は「当然だ」と言わんばかりのドヤ顔に見えた…気がする)。

四人で囲むようにして広げられた鞄の中身を見下ろす。

そこにあったのは――、


「これ、は…日傘?は普通か(まあ並中でさしてる女子は見た事ないけど…)。…と、何だろ?この、筒状のケースみたいなの。しかも1、2…え、10本もある……」

「教科書にノート、筆箱も普通だから置いといて。日傘もツナの言う通り特に問題はねーだろーな。あとこのポーチは……いや、これも置いとくか。よし、ソレらが一番怪しそうだな。
…、重くはないな。開けてみるか」

「あっおい…!」


リボーンはオレが丁度疑問に思ってた筒状のケースを手に取り軽く振ったりして中身を想像してるみたいだった。

大きさ的には200ml入りの牛乳瓶くらいだろうか。形的には卒業証書とかを丸めて入れるあれに似ている。だけど中身は見えないプラスチック製か何かでその中までは窺えない。…あ、そっか。固い音の正体はこれだったんだ。
いや、つーかポーチ(何かいかにも女の子らしい柔らかそうな材質で、だけどシンプルなデザインだった)はよくて何でケースは開けるんだよ!?

だけど鞄を引っくり返した時と同じくオレの止める間もなくリボーンは、またもや素早くケースをキュポン!なんて軽快な音を響かせながらそれの蓋を取ってしまっていた。
途端、ふわっと鼻を掠めた、先程感じた甘めの香り。

「トゲは落としてあるみてーだな…」とか呟くリボーンの、彼の赤ん坊故の紅葉のような手の上に現れた、ケースからカオを覗かせたモノは。


「――薔薇?」


オレを含めた四人全員、あのリボーンですら(とは言ってもヤツは赤ん坊でしかもあんま表情を変えないからわかりにくいけど…因みにオレはさっきのドヤ顔然り、微妙にわかるようになってきちゃったんだよな。これもあんま…嬉しくないような…)、「え…何で薔薇…?」と顔に疑問の色を浮かべる事だけしかできなかった。

だって薔薇の、それもキーホルダーとか押し花にした栞とかならわからなくもないけど(女の子の好きな物って確かそんなんだよな…母さんとかそういうの好きそうだし)……まさかの切り花だぞ?一体何に使うってのさ…。
…うーん、実験とかか?いやいや何のだよ(しかも一瞬ヒャヒャヒャ!とか言いながらそれをやってる苗字さんを想像できてしまった自分が失礼すぎだと思った。…悶えてるトコを見た事があるからっていくら何でも…何か、重ね重ねごめん苗字さん…)。
あーでも成る程、匂いの正体もこれだったって訳か。

…にしても、


「…謎が謎を呼んだだけ、か」


結局のところリボーンの言う通り、謎が更に深まるばかりでこれ以上漁っても無意味なのは明らかだった。
因みに一応10本ともリボーンは開けてたけど全部が全部、薔薇の切り花で。あと、色は全て赤だった(赤が好きなのかな?)。

だけど、何故か――一本だけ、完全に枯れ果ててしまってるのが混ざっていた。

おかげで非常に脆いだろうそれだけは、リボーンが手にした瞬間触れた場所からぼろぼろと崩れ落ちてしまったワケで。
…おいリボーン。いくら枯れてるとはいえどうすんだよそれ粉々だぞ…、って何も見なかったかの如くそのままケースに戻してるし!ああまたっつかもう殆ど原型留めてないじゃん!!
あーあ、オレ知ーらね…――それにしても、…やっぱり何らかの実験、とかなのか…?…いやいやまさか。

まあとりあえず、リボーンももうムダだと判断したんだろう。
校舎の裏だからコンクリートに近い地面の性質上、グラウンドではないから砂はそうでもないけど砂利にはまみれてしまった苗字さんの鞄の中身達をリボーンは、付着してしまった小石等を払いながら片付け始めたのだった。
(ぶちまけた割にそこら辺はちゃんとしてるんだな…とかそんな妙なギャップに若干何とも言えない感想をいだきそうだった)。

そして、さっきのオレの意見と同じような内容をふと呟いたんだけど。


「仕方ねー、ツナ。これ、教室の名前の机に置いてきてやれ」

「え?もう放課後だし、いっそ苗字さんの家に直接届けた方が…」

「……お前、家の場所知ってんのか?」

「あ…。や、つーかリボーンなら知ってんじゃないのか?色々調べてたんだしさ(犯罪レベルな気はするけど)。
それか獄寺君……は、転入したばっかだからわかんないよね…山本は知らない?」

「!恥ずかしながら10代目の仰る通りっス…!お役に立てず申し訳ありませんッ!!」

「いやそんな謝る事じゃないからァ!」

「わりーなツナ、オレも知らねーや。そもそもオレ、苗字とは必要最低限の事しか話した事ないんだよな。それこそさっきみたいに」

「そっか…それじゃ知らないか…まあオレもどっちかって言うと片手の指で足りるくらいしか話した事ないんだけど…」

「……まあ、オレは勿論知ってはいる」

「それなら…!、」

「言っただろ。オレは名前に完璧にさけられてんだ。そんなオレが一緒に行ったところで…」

「門前…払い?」

「……下手したらツナがオレを連れてきたって勘違いするかもな。で、ゆくゆくは京子辺りに“最近沢田君が嫌がらせしてくるのタスケテー”とか、チクるかもな…」

「(裏声キモいぞそして最悪通り越してオレ死ぬしかないよ京子ちゃんに嫌われでもしたら!うわああ…!)……オレ、教室行ってくる…。

じゃあ山本、部活頑張ってね…あと、獄寺君は…」

「お供します!」

「ハハ…じゃあ行こっか…」

「よくわかんねーけど……元気出せ、ツナ」




とりあえず苗字さんに、後日お詫びの品だけは渡そうと思うよ。


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