復活 | ナノ


たまには嫌な予感も外れるべきだと思うんだ。



9.接近



職員室に着き根津から書類を運べと命令された旨を伝えると(勿論他の先生に言う時は丁寧に言ったが)、1mはあるんじゃないかという高さに積み上げられた書類を指定した部屋へ運んでほしいとの事だった。
え、こんなに?と思ったがまあ罰だから仕方ない。そして周りの今の時間授業に当たっておらず、疎らに自席に座る教師達からの憐れむ視線が胃を刺激する。ヤな予感的に。

あ"ーどっこらしょ、なんてどこのお婆さんかと思われるような(むしろ大幅に越しておるんじゃよ…)声を出し大変そうな感じをアピールしつつ、両手で一気にそれらを持ち上げ職員室を出た。このくらい何ともないけど一応見た目は普通の女子中学生だからね。今は授業か何かで居ないんだろうが、体育教師に見られたらまた運動部コールで騒がれそうだなとかふと考え、焼け石に水(氷?)だが現実逃避を試みる。無論自分の異常さ加減に対してではなく、この一寸先を見据えて。

でもいくら呻こうがそれでも充分異様な光景なんだろう、しかしながら分割して持っていくという選択肢はない。往復なんて時間かかるし早く教室へ戻って授業受けなきゃ更に置いていかれるし何より――、

その指定された部屋から感じる魂の波動が、やはりというかどこぞの風紀委員長のモンだったからだ。
部屋に入るのは一度きりで充分です。お腹一杯です。

…喉は万年渇き気味だがな。




当たり前だが廃棄処分とかではないので紐で括られていない一枚一枚は軽いプリント達は、当然上の方から一歩踏み出す度に吹っ飛びそうになる。
しかも走っているから――まあ一応今は授業中なので廊下に響くといけないから、吸血鬼の身体能力ってのもあるけどその上血みどろ人生で培った技術で足音を殺し、ついでに気配の絶ち方も然りなので漏れなく滅してるんだけど――尚更だ。

しかしあくまで普通なら、の話だが。

そう、ここは魔術の応用とか使用しちゃう私には関係のない事。先にも述べたように、現在は授業中だから誰も廊下にいないし使い放題なのだ。
しかしそれでも以前の吸血衝動時、念には念をと治癒術やら自身の血を舐めたりしなかったのだから、付近の魂チェックも完璧な上での行動。

よって、周りにて吹き荒れる風の抵抗を――風系魔術で無くしつつ、飛ばないように書類全体を風圧で押さえちゃったりしてます、ハイ。因みに防御術でも似たような事ができる。要は書類全体を覆うよう守ればいい話だから。でも風の抵抗は受けてしまうので同種をぶつけ合って相殺させるよう今回は風系を使用。(人外たる血だけど)ハーフエルフの多彩な魔術に感謝である。

うむ、快適快適。気にせず猛ダッシュ。漫画的表現なら足許にぐるぐるうずまきマークがピッタリだってばよ!
…こうして日常の何気ない所で魔術を使いつつ走るのも立派な修業である。そしてサラバ人間フゥー!(風なだけに!さぶいね!)。

そんなカンジで、廊下を走って階段を上がって下がって(い、意外に遠かった…流石罰)を経た今。

ついに来ちゃいましたよ例の部屋前、別名黄泉への扉前。
中からひしひしと感じる、以前校庭の隅で突き止めて以来避けまくってきた魂の波動。

――雲雀さんの、ソレ。

一体何の部屋かは謎だが、応接室を拠点にする前はこの部屋を使っていたのかとぼんやり考える。因みに彼以外の波動は感じない。…良いんだか悪いんだか。

ドアをノックするため、両手は書類で塞がっているからいったん片手で持つ。
ポーズだけならピザお届けに参りましたー!な状態である。ただしその手に持つのは高ーく積み上げられたピザ山ならぬ紙山だけど。チーズ味とかじゃなくインク味デース。私の嗅覚じゃ結構クサイデース。

コンコンと軽くドアを叩き、中のお人へ声をかけ――、


「っ!……何だ、君か」


――た、瞬間。物凄い勢いでドアが開いた。
覗く濡れ羽色の御髪、麗しの美人顔。かち合う切れ長の瞳とマイアイズ。

おわあ何事!?まさか今不機嫌度MAXで何に対しても気に入らないとかですか!?こ、コワッ…!


「!?ええと、職員室から書類を届けにきました…」

「あっちの机に置いて。…でも何で今なの?授業中の筈だけど。もしかしてサボリ…」

「いやいやおかしいでしょーよ私職員室行きだったんですよ!?……少々先生のご機嫌を損ねた結果、罰として任されただけです」

「ふうん…まあ、そういう事にしておいてあげるよ。…それより君、」

「…?」


雲雀さんの双眸が、訝しげに細められ剣呑な光を帯びるまで、一瞬だった。


「何で…気配が――無いんだい?」

「!!エッや、やだなあ何の事デスカー?」


わ、忘れてた、とな…!
ぐはっバカだろ自分気配絶ったままだったとかいや言われた瞬間戻したがな!
どうよコレで影が薄いなんて言わせない(言われてないけど)そして裏返るな私のお声今はアンタの演技力が頼りなのYO!


「……、」

「う、ウッフフフー…」


うっわ雲雀さんちょー疑ってるよねメチャクチャ不機嫌そう!視線と明確な殺気肌いーたーいィー!
いやいや負けるな名前笑顔笑顔笑顔だ誤魔化しきれッそして笑い方キモス(笑)とか噴いたヤツ前へ出ろ勿論雲雀さん以外な!

加えてサボリとか勘違いされるとトンファーがお出まししそうだったので、咄嗟にとにかくそれらしく説明もしておく。全く、油断も隙もね、え…!

…いやしかし流石の雲雀さん、か。普通目の前の人間の気配とか考えないでしょ、うん。気付きもしない筈。
さっきも、何も感じなかったのにいきなり私が登場したから警戒した、とかそんなトコだろう。

恐らく、さながら悪魔御用達空間移動術を使ったヤツがペイッと誰もいなかった筈の場所に突然現れたように感じられた第三者、目撃者の感覚なのだと思う。
ワオ、何のマジックだい?ってか。…口調想像しただけなのに引用の対象が目前なせいか雪女のクセして全身が凍り付きそうだ。勿論恐怖故。名前はこおってしまってうごかな…じゃヤバイからね逃げらんないからね!?

幻覚の冷気を頭をと言うか身体全体から振り払い、何となくと言うより何とかして部屋を見渡してみる。平常心、平常心だ。
校長室と同じくらいの広さだった。流石風紀委員長の執務室、応接室程ではないのかもしれないが立派な部屋である。
因みに初夏に入りかけなせいか冷房が僅かに利いてたので、室内の温度を上げないよう開け放されたドアはちゃんと閉めた。素晴らしきこの気の利かせ具合だろーが誰か誉めやがれ!全てはチキン魂からだがな!

とりあえず指示された、どこのお偉いさんデスカーと言いたくなるような立派な仕事机へ近寄る。


「どっこらせっと。じゃあ私、失礼しますね。お仕事頑張って下さ…」

「(…年寄りみたい)どこ行くの。まだ帰っていいなんて言ってないよ」

「(視線が)え?いや私、授業遅れがちなので早く戻らないと…」

「君の事情なんて知らないよ。…ねえ、いつから香水なんて付けるようになったんだい?カラコンをやめたかと思えば今度はそんな強烈なモノを振り撒くなんて、懲りないよね君も。校則違反が趣味としか思えない。
そうだな…ちょうどいいや。罰として、職員室へ渡す書類があるからそれらを片付けるまでここにいてもらうよ。終わったら君に届けてもらうから」


まさかのパシリですか!?しかも罰が二連コンボって何だこの千辛万苦…!
…つーか、やっぱ薔薇の香りプンプンしてるんだな…趣味で育ててるって言っても果たして聞き入れられるかどうか。しかしここは天下の雲雀恭弥サマ。たった今君の事情は関係ない宣言聞いたばっかだし、無駄なんだろうね。
だけど、罰は甘んじて受けるとしても、言うだけ言って何としてでも薔薇は許可を貰わんと。私にとっては死活問題なのだから。


「…わかりました。あと、この香りは香水じゃなくて……趣味の園芸なので見逃して頂けませんか?」

「ふうん…女っぽい趣味だね、予想外だよ。…次からはなるべく匂いが付かないようにするんだね」

「(どういう意味だ!しかし助かる!)…ありがとうございます。それと…」


ボーッと待ってても底辺から抜け出せはしない。名前は今からチキンから勇者にジョブチェンジするで!


「…お願いがありまして…あの、ここで勉強して待ってちゃ駄目でしょうか?
あーでも、いったん教室に戻らないと教材は無いんですけど…」

「…仕方ないな。じゃあ戻って取ってきなよ、ただし5分以内ね。逃げたり遅れたりしたら咬み殺す。ほら、さっさと行きなよ」

「(無ッ茶苦茶ァ!できちゃうけども…!)ぎゃっじゃあ行ってきます少々お待ちをばっ!」


焦りすぎた私はドアを若干乱暴に開けつつ(トンファーが飛んでこなかったのがせめてもの救いだと思う)転がるように部屋から出て、来た時よりも更にスピードを上げ全力疾走ばりに教室を目指したのだった。
…力を込めすぎたせいか、衝撃で廊下の床に足がめり込みそうだった(そうなったらそれこそトンファーなので流石に留意したが)。

…昨日のボム避け時といい今日といい、走ってばかりである。
しかも懸けてるのは両方とも明暗とか保身。そして本日に至ってはむしろ命。おや?目から氷が…。




「やっと会えたんだ…逃がさないよ」


そして雲雀さんがそんな事を呟いていたなんて、たとえ聴覚が発達していようとも爆走中だった私は残念ながら、気が付くハズもなかった。


***


1-Aへバタバタと入り(とは言っても元々足音は消すクセがついてるからあくまで比喩表現なんだけど)自分の席へと向かう。

授業中なので当然先生は注意してきたが、私が「風紀委員ちょ…」と発した瞬間青ざめ何も言わなくなったので(雲雀さん効果すげえや!)、急いで筆記用具教科書ノートその他を鞄へ詰め込み教室を飛び出した。
鞄も持ったのは、いつまで拘束されるか検討がつかなかったからだ。…万が一の際、自宅まで一気に退避出来るようってのもあるけど。

皆も何だ何だという顔で見ながら声をかけてきたりしたが既に風紀委員長の恐ろしさを知っている子もいるらしく、その子達はみな一様に私の発言後の先生と同じよう、即座に黙りこくっていた。
(まだ無知らしい子は「風紀の何がそんな怖いんだ?」と半分小バカにした様子だったが。後々痛い目見ても私ゃ知らんぞ)。

…心配そうに見てきた京子ちゃん無視してゴメン!でも今は一刻を争うんだ私の平穏的に!


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