復活 | ナノ


この世に偶然なんてものはない、あるのは必然だけ。そう言ったのは誰だったか。



5.再会



あれから先生に何か運動部に入らないかと誘われたが勉強する時間なくなるし何より面倒なので丁重にお断りしつつ、怪我してるんだから代わりにボール取りに行こうか?と言ってくれる女子達もこれまた断って…まあ、京子ちゃん(と花ちゃんは彼女につられてってカンジだったけど)はそれならせめて一緒に行くと最後まで渋ってくれていたが、それも何とか言いくるめ(だって万が一雲雀さんに遭遇したら群れてる?だっけ、とにかく確実にトンファーの餌食だ)、ただ今膝と掌の怪我を押して屋上に向かってるところだ。あぐ、傷だけじゃなく良心までもがヒリヒリするよ。
…それにしてもジャージ穿いてればもう少し軽傷で済んだんだよねコレ。あーあ。

一応、次の授業に遅れるという言伝てと、屋上への道のりは二人のおかげでバッチリではあるけれど。

残念ながら痛みには慣れっこなため普通に歩けはする…が、しかし多少緩めてはいたとはいえ相当なスピードを出していたからコケた時の勢いが半端じゃなかった。両膝の擦りむき具合と思わず地面についた両掌の傷が物語ってる。効果音を付けるならべろ(皮膚)たら(血)。
そして傷口を眺めると慣れてようがやっぱり痛いもんは痛くじくじく感じてくるこの不思議。

そりゃあさ、負傷箇所は水で洗い流しはしたよでも、保健室には行ってない。行きたくないのではなく、行けない。
私の傷の治り方は異常。吸血鬼はずば抜けた身体能力に加えて、治癒能力も頗る付きの高さ。掠り傷程度なら、付けても一瞬後には跡形もなくなる、さながらアイテム次第で瞬時に全快しちゃうゲームキャラかよって程。

ただし、本来ならと注釈が付く。
両膝の皮膚は思いっきり剥がれている。流石に骨は出てないけど、結構深く傷付いた。地味にグロい、そんで溢れ出る私の生き血が止まる様子はない。
つまるところ、今の私は傷の治りが遅かった。フツーの人のそれだった。


「(自分のだけど――涎出そう)」


そして、その滴る鮮血を思わず舐めとりたい衝動にかられている私はそう、血が足りなくなって吸血衝動を起こしかけていたりする。血が欲しくて欲しくてたまらなくなる状態に陥いる、一種の発作。
タイミングの悪さに思わず舌打ちをする。それすらも上手くやらないと、ヴァンパイア仕様の鋭い犬歯で舌を傷付けるので余計にムカつくところ。一応ヘマはしなかったが。

吸血鬼は傷の治りが早い。これはあくまで健康そのものの吸血鬼のみ当てはまる事柄なんだ。今の私は普通の人間用の食事しか摂ってない、最後に人の生き血を飲んだのは魔界にいた時、あそこには人道に反する色んなモノがあったけどそれに助けられてたのも紛れもない事実だった。
所詮血が足りない吸血鬼なんて栄養失調を起こした人間に等しい。力は出ない。治るものも治らない。誰か私にRPGとかで必須回復薬プリーズ。

…本当は、治癒術を使えばいいだけの話だ。エルフも天使も回復系は得意な種族なんだし私だってこれまた必死に修得したぜよ、などと言いたいところなんだけども。
自分の傷だろうと治せる、それは確か。しかし衝動は治まらないむしろ、下手に魔術なんて使うと体力を消耗して余計渇くだけ。

しかし――ごちゃごちゃ言ったけどそもそも、だ。
ここは廊下、窓やドアがそこかしこに沢山。誰が見てるかわからない。壁に障子に(後者はないけど)何が潜むやら。確かめる手段はないわけじゃないけど、今は使えそうになかったから結局同じコト。
何にしても無理があった。

そうしてもんもんと悩む間にも失われていく私の生命力。いつか、その内何とか止まりはするだろうがたらたら流れていく血につい指が向かいそうになる。さっきもそうだったけどそれは何故か、自分の血でも喉を一時的ではあるが潤す事はできるからである。

指で掬って口に持っていってさあ。うふーいただきまア…いやいや駄目だろストップ私ィ!ここは学校、我慢しろうっわホントまずいよまずいって、身体が前屈みになる、苦しい渇く吸血衝動止まれよちくしょうが!


「うぐ…しまった」


眼球全体が、熱かった。

思わず呻く。
鏡がなくてもわかる、たった今私の両目は血そのもののような紅色に染まったんだろう。吸血衝動にかられた吸血鬼は皆、こうなるワケで。写輪眼!なんて叫べば少しはサマになる?いやいや落ち着け私。滅ぼされるぞ。ってちゃうがな。
まあでも飢えてるんですよアピールとか人間から見りゃ恐ろしい事この上ないんだろうけど、これがイケメンや美女揃いの吸血鬼には驚く程カッコ良く似合ってるんだよ本当に。私?オタク脳内のせいでさっきみたいなセリフが飛び出るだけだよ目の色変わるて何の漫画とかしか言いようがない。
深紅とか現実じゃまずありえんだろ…がしかし、二回目の人生はそれが当たり前だった。私も疑問は忘れずとも違和感がなくなってしまってる、このヴァンパイアという種族を体現したかのような極彩色に。
しかも何と、こればかりは幻術では誤魔化せない。誰がどう見ようと紛う方なきまっかっか。何でやねんってカンジだけど、きっとどう力を注ごうがただただ飢えてくからなんだろうと勝手に解釈してる私だったりする。微妙に不便。幻覚にも穴があるってこった。

話が逸れたがそれにしても、身体は半悪魔天使になったというのに、蓄積された過去の経験。吸血鬼だった頃の名残、強すぎ。
魔界には血の湧き出る泉とかその他にも人間界じゃ考えられそうもない場所やモノがごまんとあったけど、今ならそれらがいかに大切な役割を果たしていたのかほとほとわかろうってもんだ。

その辺で死んでるよりも人気のない場所へ向かうべきだったので、歩み続ける事数分。ようやっと屋上の扉の前まで着いた。

屋上なら誰にも見付からないだろうからここで吸血衝動が治まるのを待てばいい。幸い雲雀さんもいなくなったっぽいし。扉の向こうに人の気配は感じなかった。
この状態を誰かに見られるのは勿論まずいし、今の私は非常に血に飢えている。あ、戦いとかじゃなく空腹的な意味ですよ勿論だってそれってどこの戦闘狂。まさしく彼じゃないか。
だけどもそんなおっそろしー相手だろうと誰彼構わず襲い掛かっちゃう可能性がある、それだけは理性で押し留めなきゃだ。結構ギリギリだけど。

ドアノブを回しそっと屋上に出る。照り付ける陽光が弱った私の身体に更なる凶器となって容赦なく突き刺さった。あうち。
まあ何とか幻術だけは保っているから二回目の顔に戻ったりはしないさ、ただし両目だけは鮮血イロ。お腹空いてるッス。

あ、そうだコロッと忘れてたけど肝心のボールは、


「――ねえ、君がこのボールを投げたのかい」


あれ?何だか幻覚まで見えてくるなんていくらなんでも私弱りすぎじゃ、屋上の真ん中辺りに風紀委員長様がボールを片手に佇んどるよ。おお軽やかな手付きですねぽんぽーん上下する私の本来の目的チャンどうして美人クンのおててに収まってるの?


「ちょっと、聞いてるの」

「……雲雀、さん?え、ホンモノ?」

「君、頭も打ったのかい」


幻術じゃないだとしかも頭も、“も”ってどゆ事。うえ、ちょおタンマこれはまさかのまさか、


「も…もしかして、ボール当たっちゃったり…?」

「ふうん、やっぱり君だったんだ。…派手に転んでいたね、滑稽だったよ」

「(わああバレてる上に何の羞恥プレイだよ、てかやっぱり見られてたァ!)すみませんすみませんまさかぶつかるとは思いもしなかったんです何とお詫びしたら良いか…!」

「うるさいよ。…別に僕には当たってない。まあ眠りは遮られたけどね。尤も、僕は葉が落ちる音でも目が覚めるんだけど」

「(そんなん知るかってか設定だろうと覚えてねェ!)本当に申し訳ありませんでした!…そ、それで、できればボールを返して頂きたいなあ、なんて」

「そうだったね。これは僕のだから、きちんと所定の場に戻しておいて」

「えっ…わわっ!」


ぽいーん、と小さな放物線を描くように投げられたボールを慌ててキャッチする。
あれ、あれれ意外とアッサリ?もしかして、別に怒ってるわけじゃない?

いやそれにしても…もっと慎重に気配を探るべきだったわな。まさか雲雀さんがまだいたとは。
彼イケメンだしぐふ、血ィさぞや美味なんだろうナァ…ってストップストップ何考えてんの相手はあの雲雀さんだから!つい麗しのお顔凝視しちゃったよガン飛ばされたとか勘違いされちゃうって今暫く我慢の時だろうよこんくらい今までの果てしない苦労を思えば何てコトないだろうが自分!

しかし天は味方した…なんてこたあないと経験からしてわかりきってるがとりあえず幸いな事に、話している内に少し気が紛れてきた。
よしよしこのまま誰もいないところに向かえば。


「あっありがとうございます…!それじゃあ私はこの辺で」

「待ちなよ」


まだ何かあんの引き止めないでおくれ襲っちまうぞ動けんよう下半身と凶悪な両腕凍らせるかいっそ強烈な幻覚でもかけてパクッと!


「あの、起こしてしまった事は本っ当ーに申し訳なく、」

「別に、そんな事どうでもいい」

「…?」

「君、行方不明だった苗字名前だろう?…その顔、資料で見覚えがある」


げ、そっちかそうだったそんな設定あった。用件は告げとくべきか。


「あー…その事なんですが、後程挨拶に伺いますんで」

「…まあ、勝手にすれば。でも、僕が言いたいのはその事じゃない」


まさか、一昨日を。気取られた?


「それじゃ一体…」

「その目」

「!」

「カラコンだよね?写真で見た君の目はそんな色じゃなかったハズだ。僕の学校でそんな物を入れているなんて、立派な校則違反だよ。…それとさっきの体育。ここまでボールを投げ飛ばす腕力も、いつまでもありえない速さで駆ける脚力も。普通の女子にしてはあまりにも不自然だ。

――君、何者なの?」

「そ、れは…」

「言えないの?まあいいさ。何にしてもただでは帰さないよ。そんな物欲しそうな目をして…まるで――血に飢えてやまない、肉食動物だ」


ギャアアマズいって何かもんのスゴい勘違いされた上によりによって私の異常性指摘するとかどんだけ観察してたのしかも何興味示してんだ風紀委員長サンよお…!


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