▼21ゲット 「ホアアア…!」 「くっ…名前、口口。やべぇぞ」 「(…ハッ!)」 内容的にも物理的にも甘い誘惑。今の私に逆らえるハズもなかった。理由は常にダイエット(メイドさん達がかつてボヤいてた単語である)し続ける財布さんさ団子うま。 …よい子も、よいポケモンのみんなも真似しちゃダメよ! ただ今江戸のどこか。少なくとも、ウチのお店更にわかりやすく言うならば化猫屋からはそれなりの距離を誇る甘味処にて。 あれから小脇に抱えられた私は現在目の前に座る犯人にガーッと走ってこられちゃったからイマイチ現在地はわかってない。しかしながら以前の釣り騒動と違って水路ではなくフツーに陸路だったから、最悪ここでバイバイしても多分帰れる筈なのでそれはいいんだけども。体感時間からして数分しか走ってなかったと思うし流石に私の嗅覚の追い付かないって事はない筈……つまりそこまでの距離じゃないだろうから。 そして目の前に並んだ素敵なモノ達。ああなんだかとってもキラキラして見えるよ…! 噴き出した鯉さん(字教えてもらった)お兄さんのツッコミに慌てて口許を拭うも数分もしない内にまた…って感じであまり意味を成していない。うーん、水タイプだからかな…(え、違う?)。 『詫びだ。好きなもんを好きなだけ喰っていいからな』 「さっきはいきなり口押さえて、あまつさえ許しもなく抱えちまって悪かったな」って鯉さんお兄さんに平謝りされちゃったもんだから私ってば、誘拐(未遂)へ怒るどころか無銭飲食うんたらまでどっかに飛んで行き…は流石にしなかったけど、でも既に反省してる人をしつこく叱る程私(たぶん)ヒドイ人もといヒドイーブイじゃないよ!それに「どうしてもやりたくな……じゃなくて、今は他に入り用があってだな、」とか言うんだもん。今って事はきっとあとあとはもうしないって事だよね!信じてるよ鯉さんお兄さん!因みに彼は目が泳いでいましたがこれから本物が来るであろう期待にメニューにかじりついていた(not物理)私は残念ながら気づきませんでした。 …何たって私は単純だからね!(因みに特性ではない)。 そこへ来てのトドメの上の台詞。今は無論見せてないけど、きっと出てたら思いっきり振ってたんじゃないかな!何がとは言わないよ因みに色は水色だよ。 …てゆか、他ってまさか、この奢りに対してじゃないよね、うん。だって未来の事だもん。さっきの無銭飲食から今のこの事態を見れば。 なら、何に使うんだろうか。 「モグモグ…んん、美味しー!…あーっと、それよりですよ、とりあえず鯉さんお兄さんモグモグ今回はこのきらびやかなスイーツ達に免じて店長には黙っておきますけどモグモグ次またいらした際はきちんとお代払ってくれなきゃ嫌ですよ。ゴクン」 あああもう何に効いてるかすらわかんないけどこうかはばつぐんたよおいしいよー! デザートに使うのはなんか間違ってる気もするけど私のあまりの豪快な食べっぷりに鯉さんお兄さんは苦笑しながらとりあえずは首を縦に振った。 「あー…わかったわかった。それより、随分旨そうに喰うな。そんなに普段、甘味喰わねぇのかい?」 「ごくごく…ぷはっ。え?あー…まあそうですね。いかんせん余裕は、ないですから…」 食べてる間に程よく冷めたお茶も一気に呷る。今現在はシャワーズなためか最初アチッてなったのは言うまでもなかったりする。猫舌ならぬイーブイ舌。これがブースターなら直面しない飲み物事情である。 そんな事より、お金関係の話をすると頭に浮かぶのはお母さんの笑顔。痩せ細った、今にも消えてしまいそうな、優しげなのに見ていたくない見ていられない、笑顔。 語尾も自然と勢いを無くしていく。 「まさかとは思うが……初めて来たのか?こういうとこ」 「…そのまさかです」 お金の問題は言わずもがな、そして仕事が終わったらバレないようにとか、…ストーカーとか、諸々の理由により家に直行。お菓子屋さん(ここでは多分違う言い方だが)に行った店長やお店のお姉さん達におすそわけしてもらった事ならあるけれども、直接こういったお店に来た事はない。 いつかお母さんと来るのが夢だ。ううん、ここに限らず江戸の街の様々を一緒に見て回るのだ。お祭りの時そう願ったように。 …お母さん、今ごろ何してるかな。今おやつ時だからもう少ししたら洗濯物を取り込んで夕飯の下拵えに取りかかるのかな。今日の夕飯は何かな。あっそうだ、こんなに食べちゃったから少し走ってからうちに帰ろうかな。じゃないと美味しく食べられないもん。いわゆる、母の味。 今の私の、一番好きな食べ物たち。 「…そんなに、貧しいのか」 お母さんを思い出してしまったせいで沈む私に鯉さんお兄さんもいつの間にか真剣な表情だ。ああもう私ってば。こーゆー雰囲気微妙なくせに自分から醸し出してどうすんの。ごめんね鯉さんお兄さん。折角奢ってくれてるのに。 ……だけど、お母さんは何より好きだから。 だから、 私は口を滑らせた。 「私のお母さん、身体弱いんです。薬代、馬鹿にならなくて。しかもうち、お父さん、いないんです。私も一人っ子だから、他に男手がある訳でもなくて。しかも、元々家に最低限の何もかもないような家だった事もあって。だからと言っちゃあれなんですけど……お土産も買ってもらっちゃ駄目、ですか?お母さんにも食べさせてあげたいんです」 「――ああ何だ。そんなの、」 図々しくもねだった、のだけれども。 「お安い御用だ」 笑ってくれた顔に見覚えがあったのは何故だろう。 「ってぇ事は何だ、名前は母親と二人暮らしなのかい。何て妖なんだ?二人とも」 「んー、それがわかんないんですよ。お母さん、あんまり自分の事話してくれないんで。…あっでも私のは説明出来ますよ!ポケモンのシャワーズっていいます!お母さんとは違う妖なんですよ」 「へぇ……だが、聞いた事はないねぇ……ぽけもん組のしゃわーず、って事かい?」 「それ前にも言われたんですけど…組って何なんです?」 「…ほんとに何も知らねぇんだな」 「まあお母さんしか身近な妖がいませんでしたからねえ…。しかもここいらに出稼ぎ的に繰り出すようになったの、最近なんで。あっ、こっそり遊びには来てたんですけどねー数ヶ月くらい前から。いかんせん三年我慢しましたからね、ある日突然ポーンと箍も外れようというモンですよ」 「……三年、」 「長いでしょう?で私、街の裏にある山で暮らしてるんですけど麓がここ、江戸だった訳で繰り出すー、なんて言い方になるんですよ」 「……山で、暮らしてんのか」 「?はい」 『お母さん』と口にした辺りから何故か目の色変えてぐいぐい来てる感が否めない鯉さん(長ぇだろ、と訂正された。驚異の数分間の命であった…(ニックネーム))。 まだまだ食べ終わらない私はこうして他愛もな…くもない、ような?話を続けていた。 私だって、妖だとかバレていいの?と何となく人と違うって事に於て常識なような、ポケモンは人とお互いいる、あるのが当たり前すぎて前世は考えた事すらなかったのだけれども、しかしここではどうやら違うように思ったのだ。お店の唯一妖である先輩、彼女がそうだったから。言動の悉くにバレないように、という細心の注意が払われていた。 だからこんな、まんまお店の中で妖うんたらー、なんて話してて良いのかとも思うのだけれど、周りの人達も私達と同じで自分達の話に夢中だから気にしない事にした。 何より鯉さんが堂々としてるからいいのだろう。 …そういえば、ぬらりひょんさんも狒々さんもそうだったもんね。逃げ惑う事になっちゃった(というかしてしまった、)私が言えた事じゃないけれど、今頃どうしてるのかな…。 鯉さんだけど、どうも彼ってば妖且つ妖について段違いに詳しいみたいだし。つまり妖としての振舞いが最強。だから妖っていっても、普段は皆こんなもんなんじゃなかろうか。きっと先輩は仕事が絡んでるからそうするより他ないんだろう。バレると厄介だから。 あ、因みにこうやって話してる事からしてばればれだと思うけどまあ何だ、 ……妖ってのはね、ソッコーでね、バレました……。 |